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第33話 Eランクへの道とギフトの探求
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シールドバグの硬い甲羅の一部をカウンターに置き、討伐完了を告げたアルトに、ギルドマスターは満足げな表情を見せた。
「ほう、シールドバグか。依頼書を出してから、まだ半日も経っておらんだろうに。見事に仕留めてきたようだな。報告通り、硬い相手だったろう?」
「はい、かなり手強かったです。でも、なんとか…」
アルトが答えると、近くでそのやり取りを聞いていたバルガスが、ニヤリと笑いながら近づいてきた。
「どうだ、アルト。言った通り、カウンター反射は効いただろう?剣での受けも、だいぶ様になってきた証拠だ。上出来だ!」
バルガスは、アルトの肩を力強く叩いた。
その言葉と行動は、アルトの努力と成果をはっきりと認めるものだった。
周囲にいた他の冒険者たちからも、「シールドバグをソロで…あのFランクが?」「バルガス爺さんの指導が良いのか、本人の才能か…たいしたもんだ」といった、感嘆の声が聞こえてくる。
もはや、アルトをただの新人として見る者はいなかった。
彼は、Fランクの中でも実力を認められる存在へと、確実にステップアップしていたのだ。
アルトは、報酬の銅貨25枚をしっかりと受け取った。
そして、この成功体験を糧に、さらに上を目指したいという気持ちが強くなっていた。
依頼達成後、アルトは師であるバルガスに、シールドバグ戦で試したカウンター反射について、さらに詳しく教えを乞うた。
相手の攻撃の種類――例えば、斬撃なのか、打撃なのか、突きなのか――によって、剣のどの部分で、どの角度で受け止めれば、衝撃を吸収しやすく、かつ強力な反射へと繋げられるのか。
反射の威力を最大限に引き出すためには、どのような精神集中が必要なのか。
バルガスは、自身の長年の経験に基づいた、実践的で具体的なアドバイスを惜しみなくアルトに伝授してくれた。
「いいか、アルト。反射ってのは、ただ受けりゃいいってもんじゃねえ。相手の力を利用し、自分の力を乗せて叩き返すんだ。そのためには、受け止める瞬間の、ほんの一瞬の『溜め』と『解放』の感覚が重要になる。それは、何度も実戦を繰り返して、お前自身の体で掴むしかねえ」
バルガスの言葉は、アルトにとって大きなヒントとなった。
剣術の訓練と並行して、アルトはギフトの謎を探るための個人的な実験も続けていた。
特に気になっていたのは、ごく稀に発生する追加効果(麻痺?)と、応用し始めた「衝撃波(仮)」の存在だ。
安全な森の中で、アルトは木や大きな岩を相手に、様々な状況を想定して反射を試した。
強い怒りや恐怖を感じた時を思い出しながら。
あるいは、逆に心を無にして、極限まで冷静になった状態で。
ギフトの発動に、精神状態がどう影響するのかを探る。
また、「衝撃波(仮)」についても、威力や範囲をコントロールできないか、試行錯誤を繰り返した。
集中の仕方や、力の込め方を変えてみる。
防御だけでなく、攻撃や妨害の手段として使えないか。
実験を繰り返す中で、アルトはある種の傾向に気づき始めていた。
それは、極度の集中状態、特に「誰か(何か)を守りたい」という強い意識が働いた時に、反射の威力が増し、同時に、あの微弱な衝撃波がより強く、明確に発生するような気がする、ということだった。
「守る意識…?」
その言葉が、アルトの心に小さく、しかし確かな感触として残った。
ギフトの根源に関わる、何か重要なヒントなのかもしれない。
追加効果については、依然として再現できず謎のままだったが、自分のギフトへの理解が少しずつ深まっていることを、アルトは実感していた。
シールドバグを倒せたことで、アルトはFランクの中でも上位の実力に近づいていることを感じていた。
そうなると、次の目標は、やはりその上のランク――Eランクへの昇格だ。
ギルドマスターに相談してみると、Eランクに上がるためには、Fランク依頼を複数確実にこなすだけでなく、もう少し難易度の高い特定の依頼を成功させる必要があるという。
「例えば、『ゴブリンの小規模な巣の偵察』や、『崖地に生える希少薬草の採取』あたりだな。どちらも、ただ魔物を倒すだけじゃない、状況判断や慎重さが求められる。それができれば、Eランクへの推薦を考えよう」
マスターはそう教えてくれた。
Eランクへの道筋が見えたことで、アルトはさらに意欲を燃やした。
そのためにも、まずは装備をさらに充実させる必要がある。
貯まった資金で、アルトはショートソード用の質の良い砥石と、効果の高い手入れ油を購入した。
そして、リナに頼んで、万が一の毒に備えて少し多めに作ってもらった解毒薬草と、傷に効く回復軟膏も手に入れた。
基本的な冒険道具であるロープや松明、火口なども一通り揃え、いつでも次の、より困難な依頼に挑戦できる準備を整えた。
訓練の合間にリナに会うと、アルトはシールドバグ討伐の成功と、次の目標がEランク昇格であることを話した。
「すごいよ、アルト!シールドバグまで倒しちゃうなんて!どんどん強くなるね!」
リナは目を輝かせて喜んでくれた。
しかし、すぐに心配そうな表情になり、
「でも、Eランクの依頼は、もっと危険が多いんでしょ?絶対に、絶対に無理はしないでね。約束だからね」
と、アルトの腕をそっと掴んで念を押した。
アルトは、彼女の変わらない優しさに感謝し、「分かってるよ。ちゃんと準備して、安全第一でやる。約束する」と力強く頷いた。
シールドバグ討伐という成功体験は、アルトに大きな自信を与え、次なるステップへの明確な道筋を示してくれた。
剣術とギフトの連携は磨かれ、ギフトそのものの謎にも、少しずつだが確実に迫りつつある。
装備も整い、目標も定まった。
Eランク昇格へ向けて。
アルトは、新たな決意を胸に、より困難な依頼へと挑む準備を進める。
彼の成長物語は、もはやFランクという枠には収まりきらず、新たなステージへと進む予感を強く漂わせながら、着実に続いていく。
アルトは、自分の未来が、厳しいながらも、光り輝く可能性に満ちていることを感じ始めていた。
第33話 Eランクへの道とギフトの探求 の次の話しをお願いします
第34話 忍び寄る影と偵察任務
Eランク昇格。
その新たな目標を胸に、アルトはギルドを訪れ、昇格の目安となる依頼の中から、「ゴブリンの小規模な巣の偵察」を選んだ。
魔物を倒すだけでなく、情報を持ち帰ることが主目的となるこの依頼は、アルトにとって新たな挑戦だった。
ギルドマスターは、アルトの選択に頷きつつも、慎重に依頼内容を説明した。
「場所は西の森の奥深く、大きな岩場が目印の古い洞窟だ。最近、その周辺でのゴブリンの活動が活発化しているとの報告がある。君には、まずその巣の正確な位置、おおよその規模、生息しているゴブリンの数、そしてリーダー格がいるかどうかを確認してきてもらいたい」
マスターは地図を広げ、おおよその場所を示しながら続ける。
「可能であれば、周辺の安全確保のために数匹討伐してきても構わないが、今回の主目的はあくまで偵察だ。決して深追いはするな。何よりも、敵に発見されずに情報を持ち帰ることが重要だ。分かったな?」
「はい、了解しました」
アルトは真剣な表情で頷いた。
マスターは、アルトが身に着けている革鎧とショートソードを一瞥し、「装備は悪くないが、偵察任務では極力目立たない方がいい。物音を立てず、慎重に行動しろよ」と、念を押すことを忘れなかった。
アルトは家に帰り、偵察任務に向けた準備を始めた。
新しい革鎧の上から、森の色に合わせた暗い緑色の古い外套を羽織る。
これで少しは目立ちにくくなるだろう。
靴も、バルガスのアドバイスを思い出し、底が柔らかく、足音が出にくいものを選んだ。
地図で洞窟のおおよその位置と周辺の地形を頭に叩き込み、隠密行動に適したルートや、万が一見つかった場合の撤退経路を複数想定する。
バルガスからは、「風向きを読め。ゴブリンは人間より鼻が利くからな。風下から近づくのが基本だ。それと、奴らの汚物の匂いにも気をつけろ。巣が近い証拠だ」という、実体験に基づいた貴重なアドバイスももらっていた。
翌日の早朝、アルトは準備を整え、西の森の奥深くへと向かった。
森は深く、そして静かだった。
依頼場所が近づくにつれて、アルトはバルガスの言葉を思い出し、風向きを確認しながら進む。
確かに、風に乗って、焚き火の燃えさしのような焦げ臭い匂いと、獣の糞尿や腐敗臭が混じったような、不快な悪臭が漂ってくる。
アルトは木の陰や茂みを利用し、身を低くして進む。
五感を最大限に研ぎ澄ませ、周囲の音や気配に注意を払う。
地面には、ゴブリンのものと思われる乱雑な足跡がいくつも残されており、木の幹には、彼らが獲物を解体したのか、血の痕のようなものが付着していた。
緊張感が高まる。
やがて、アルトは大きな岩場にたどり着いた。
そして、その岩場の陰に隠れるようにして存在する、洞窟の入り口を発見した。
入り口の前には、まだ煙がくすぶる焚き火の跡があり、その周りで、棍棒を持ったゴブリンが数匹、退屈そうにあくびをしたり、地面に何かを描いたりしている。
見張りだろう。
アルトは、見つからないように十分な距離を取り、風上にある大きな茂みの中に身を潜めた。
ここからなら、洞窟の入り口付近の様子をうかがうことができる。
アルトは息を殺し、注意深く観察を開始した。
洞窟から出入りするゴブリンの数を数える。
5分、10分と観察を続けるうちに、洞窟の中には少なくとも10匹以上のゴブリンがいることが分かった。
彼らの多くは粗末な棍棒を持っているが、中には短い弓を持っている者や、アルトが以前戦ったゴブリン・ソルジャーのように、槍を持っている者もいる。
時折、洞窟の奥から、他のゴブリンとは違う、一段と大きく、低い唸り声のようなものが聞こえてくる。
「やっぱり、リーダー格がいるのか…?ホブゴブリンかもしれないな」
アルトは、持参した小さなメモ帳に、観察した内容――ゴブリンの数、装備、リーダー格の存在の可能性などを、素早く書き留めていく。
偵察に集中していた、その時だった。
アルトは、背後から近づいてくる、かすかな物音に気づいた。
振り返ると、見張りのゴブリンの一匹が、持ち場を離れてこちらに向かって歩いてきているではないか!
おそらく、用を足しに来たのだろう。
アルトが隠れている茂みは、ちょうどそのゴブリンの通り道になっていた。
距離は、わずか数メートル。
このままでは、確実に見つかってしまう!
逃げるか?
いや、ここで逃げれば、他の見張りに気づかれ、任務は失敗だ。
となれば…!
アルトは一瞬で決断を下した。
ゴブリンが、何気なく茂みの中を覗き込もうとした、まさにその瞬間。
アルトは、弾かれたように茂みから飛び出した。
そして、ゴブリンが驚いて声を上げるよりも早く、左手でその汚れた口を力強く塞ぎ、同時に、右手に持ったショートソードの柄頭(つかがしら)――剣の持ち手の末端部分――で、相手の後頭部を狙って、渾身の力で打ち据えた!
ゴンッ!
鈍く、重い音が響く。
ゴブリンは短い呻き声すら上げることなく、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
気絶しただけだとは思うが、これで当分は動けないだろう。
アルトは、心臓が早鐘のように打つのを感じながらも、素早くゴブリンの体を茂みの奥深くへと引きずり込み、木の葉で隠した。
そして、息を殺して周囲の様子をうかがう。
幸い、他の見張りのゴブリンたちは、こちらには気づいていないようだ。
予期せぬ接近遭遇に、アルトの額には冷や汗が流れた。
偵察任務の危険性を、身をもって体験した。
これ以上の長居は危険だと判断したアルトは、集められた情報だけでも十分だと考え、慎重に撤退を開始することにした。
来た道とは違う、事前にいくつか想定しておいた撤退経路の一つを選ぶ。
足音を忍ばせ、周囲への警戒を怠らず、ゴブリンたちの縄張りを静かに、しかし迅速に離脱していく。
初めての本格的な偵察任務。
それは、直接的な戦闘以上に、張り詰めた緊張感と、高い集中力を要求されるものだった。
隠密行動の重要性、状況判断の速さ、そして時には、非情な決断力も必要になる。
冒険者として、また一つ、新たなスキルと、そして厳しい現実を学ぶことができた。
無事に森を抜け、村へと続く道が見えてきた時、アルトはようやく安堵のため息をついた。
手元のメモ帳には、ゴブリンの巣に関する貴重な情報が記されている。
これをギルドに持ち帰り、報告すれば、Eランク昇格へ大きく近づくはずだ。
戦闘だけが冒険者の全てではない。
そのことを改めて実感し、アルトは自分の成長に確かな手応えを感じていた。
次なるステップへの期待を胸に、アルトはギルドへの帰路を急ぐのだった。
「ほう、シールドバグか。依頼書を出してから、まだ半日も経っておらんだろうに。見事に仕留めてきたようだな。報告通り、硬い相手だったろう?」
「はい、かなり手強かったです。でも、なんとか…」
アルトが答えると、近くでそのやり取りを聞いていたバルガスが、ニヤリと笑いながら近づいてきた。
「どうだ、アルト。言った通り、カウンター反射は効いただろう?剣での受けも、だいぶ様になってきた証拠だ。上出来だ!」
バルガスは、アルトの肩を力強く叩いた。
その言葉と行動は、アルトの努力と成果をはっきりと認めるものだった。
周囲にいた他の冒険者たちからも、「シールドバグをソロで…あのFランクが?」「バルガス爺さんの指導が良いのか、本人の才能か…たいしたもんだ」といった、感嘆の声が聞こえてくる。
もはや、アルトをただの新人として見る者はいなかった。
彼は、Fランクの中でも実力を認められる存在へと、確実にステップアップしていたのだ。
アルトは、報酬の銅貨25枚をしっかりと受け取った。
そして、この成功体験を糧に、さらに上を目指したいという気持ちが強くなっていた。
依頼達成後、アルトは師であるバルガスに、シールドバグ戦で試したカウンター反射について、さらに詳しく教えを乞うた。
相手の攻撃の種類――例えば、斬撃なのか、打撃なのか、突きなのか――によって、剣のどの部分で、どの角度で受け止めれば、衝撃を吸収しやすく、かつ強力な反射へと繋げられるのか。
反射の威力を最大限に引き出すためには、どのような精神集中が必要なのか。
バルガスは、自身の長年の経験に基づいた、実践的で具体的なアドバイスを惜しみなくアルトに伝授してくれた。
「いいか、アルト。反射ってのは、ただ受けりゃいいってもんじゃねえ。相手の力を利用し、自分の力を乗せて叩き返すんだ。そのためには、受け止める瞬間の、ほんの一瞬の『溜め』と『解放』の感覚が重要になる。それは、何度も実戦を繰り返して、お前自身の体で掴むしかねえ」
バルガスの言葉は、アルトにとって大きなヒントとなった。
剣術の訓練と並行して、アルトはギフトの謎を探るための個人的な実験も続けていた。
特に気になっていたのは、ごく稀に発生する追加効果(麻痺?)と、応用し始めた「衝撃波(仮)」の存在だ。
安全な森の中で、アルトは木や大きな岩を相手に、様々な状況を想定して反射を試した。
強い怒りや恐怖を感じた時を思い出しながら。
あるいは、逆に心を無にして、極限まで冷静になった状態で。
ギフトの発動に、精神状態がどう影響するのかを探る。
また、「衝撃波(仮)」についても、威力や範囲をコントロールできないか、試行錯誤を繰り返した。
集中の仕方や、力の込め方を変えてみる。
防御だけでなく、攻撃や妨害の手段として使えないか。
実験を繰り返す中で、アルトはある種の傾向に気づき始めていた。
それは、極度の集中状態、特に「誰か(何か)を守りたい」という強い意識が働いた時に、反射の威力が増し、同時に、あの微弱な衝撃波がより強く、明確に発生するような気がする、ということだった。
「守る意識…?」
その言葉が、アルトの心に小さく、しかし確かな感触として残った。
ギフトの根源に関わる、何か重要なヒントなのかもしれない。
追加効果については、依然として再現できず謎のままだったが、自分のギフトへの理解が少しずつ深まっていることを、アルトは実感していた。
シールドバグを倒せたことで、アルトはFランクの中でも上位の実力に近づいていることを感じていた。
そうなると、次の目標は、やはりその上のランク――Eランクへの昇格だ。
ギルドマスターに相談してみると、Eランクに上がるためには、Fランク依頼を複数確実にこなすだけでなく、もう少し難易度の高い特定の依頼を成功させる必要があるという。
「例えば、『ゴブリンの小規模な巣の偵察』や、『崖地に生える希少薬草の採取』あたりだな。どちらも、ただ魔物を倒すだけじゃない、状況判断や慎重さが求められる。それができれば、Eランクへの推薦を考えよう」
マスターはそう教えてくれた。
Eランクへの道筋が見えたことで、アルトはさらに意欲を燃やした。
そのためにも、まずは装備をさらに充実させる必要がある。
貯まった資金で、アルトはショートソード用の質の良い砥石と、効果の高い手入れ油を購入した。
そして、リナに頼んで、万が一の毒に備えて少し多めに作ってもらった解毒薬草と、傷に効く回復軟膏も手に入れた。
基本的な冒険道具であるロープや松明、火口なども一通り揃え、いつでも次の、より困難な依頼に挑戦できる準備を整えた。
訓練の合間にリナに会うと、アルトはシールドバグ討伐の成功と、次の目標がEランク昇格であることを話した。
「すごいよ、アルト!シールドバグまで倒しちゃうなんて!どんどん強くなるね!」
リナは目を輝かせて喜んでくれた。
しかし、すぐに心配そうな表情になり、
「でも、Eランクの依頼は、もっと危険が多いんでしょ?絶対に、絶対に無理はしないでね。約束だからね」
と、アルトの腕をそっと掴んで念を押した。
アルトは、彼女の変わらない優しさに感謝し、「分かってるよ。ちゃんと準備して、安全第一でやる。約束する」と力強く頷いた。
シールドバグ討伐という成功体験は、アルトに大きな自信を与え、次なるステップへの明確な道筋を示してくれた。
剣術とギフトの連携は磨かれ、ギフトそのものの謎にも、少しずつだが確実に迫りつつある。
装備も整い、目標も定まった。
Eランク昇格へ向けて。
アルトは、新たな決意を胸に、より困難な依頼へと挑む準備を進める。
彼の成長物語は、もはやFランクという枠には収まりきらず、新たなステージへと進む予感を強く漂わせながら、着実に続いていく。
アルトは、自分の未来が、厳しいながらも、光り輝く可能性に満ちていることを感じ始めていた。
第33話 Eランクへの道とギフトの探求 の次の話しをお願いします
第34話 忍び寄る影と偵察任務
Eランク昇格。
その新たな目標を胸に、アルトはギルドを訪れ、昇格の目安となる依頼の中から、「ゴブリンの小規模な巣の偵察」を選んだ。
魔物を倒すだけでなく、情報を持ち帰ることが主目的となるこの依頼は、アルトにとって新たな挑戦だった。
ギルドマスターは、アルトの選択に頷きつつも、慎重に依頼内容を説明した。
「場所は西の森の奥深く、大きな岩場が目印の古い洞窟だ。最近、その周辺でのゴブリンの活動が活発化しているとの報告がある。君には、まずその巣の正確な位置、おおよその規模、生息しているゴブリンの数、そしてリーダー格がいるかどうかを確認してきてもらいたい」
マスターは地図を広げ、おおよその場所を示しながら続ける。
「可能であれば、周辺の安全確保のために数匹討伐してきても構わないが、今回の主目的はあくまで偵察だ。決して深追いはするな。何よりも、敵に発見されずに情報を持ち帰ることが重要だ。分かったな?」
「はい、了解しました」
アルトは真剣な表情で頷いた。
マスターは、アルトが身に着けている革鎧とショートソードを一瞥し、「装備は悪くないが、偵察任務では極力目立たない方がいい。物音を立てず、慎重に行動しろよ」と、念を押すことを忘れなかった。
アルトは家に帰り、偵察任務に向けた準備を始めた。
新しい革鎧の上から、森の色に合わせた暗い緑色の古い外套を羽織る。
これで少しは目立ちにくくなるだろう。
靴も、バルガスのアドバイスを思い出し、底が柔らかく、足音が出にくいものを選んだ。
地図で洞窟のおおよその位置と周辺の地形を頭に叩き込み、隠密行動に適したルートや、万が一見つかった場合の撤退経路を複数想定する。
バルガスからは、「風向きを読め。ゴブリンは人間より鼻が利くからな。風下から近づくのが基本だ。それと、奴らの汚物の匂いにも気をつけろ。巣が近い証拠だ」という、実体験に基づいた貴重なアドバイスももらっていた。
翌日の早朝、アルトは準備を整え、西の森の奥深くへと向かった。
森は深く、そして静かだった。
依頼場所が近づくにつれて、アルトはバルガスの言葉を思い出し、風向きを確認しながら進む。
確かに、風に乗って、焚き火の燃えさしのような焦げ臭い匂いと、獣の糞尿や腐敗臭が混じったような、不快な悪臭が漂ってくる。
アルトは木の陰や茂みを利用し、身を低くして進む。
五感を最大限に研ぎ澄ませ、周囲の音や気配に注意を払う。
地面には、ゴブリンのものと思われる乱雑な足跡がいくつも残されており、木の幹には、彼らが獲物を解体したのか、血の痕のようなものが付着していた。
緊張感が高まる。
やがて、アルトは大きな岩場にたどり着いた。
そして、その岩場の陰に隠れるようにして存在する、洞窟の入り口を発見した。
入り口の前には、まだ煙がくすぶる焚き火の跡があり、その周りで、棍棒を持ったゴブリンが数匹、退屈そうにあくびをしたり、地面に何かを描いたりしている。
見張りだろう。
アルトは、見つからないように十分な距離を取り、風上にある大きな茂みの中に身を潜めた。
ここからなら、洞窟の入り口付近の様子をうかがうことができる。
アルトは息を殺し、注意深く観察を開始した。
洞窟から出入りするゴブリンの数を数える。
5分、10分と観察を続けるうちに、洞窟の中には少なくとも10匹以上のゴブリンがいることが分かった。
彼らの多くは粗末な棍棒を持っているが、中には短い弓を持っている者や、アルトが以前戦ったゴブリン・ソルジャーのように、槍を持っている者もいる。
時折、洞窟の奥から、他のゴブリンとは違う、一段と大きく、低い唸り声のようなものが聞こえてくる。
「やっぱり、リーダー格がいるのか…?ホブゴブリンかもしれないな」
アルトは、持参した小さなメモ帳に、観察した内容――ゴブリンの数、装備、リーダー格の存在の可能性などを、素早く書き留めていく。
偵察に集中していた、その時だった。
アルトは、背後から近づいてくる、かすかな物音に気づいた。
振り返ると、見張りのゴブリンの一匹が、持ち場を離れてこちらに向かって歩いてきているではないか!
おそらく、用を足しに来たのだろう。
アルトが隠れている茂みは、ちょうどそのゴブリンの通り道になっていた。
距離は、わずか数メートル。
このままでは、確実に見つかってしまう!
逃げるか?
いや、ここで逃げれば、他の見張りに気づかれ、任務は失敗だ。
となれば…!
アルトは一瞬で決断を下した。
ゴブリンが、何気なく茂みの中を覗き込もうとした、まさにその瞬間。
アルトは、弾かれたように茂みから飛び出した。
そして、ゴブリンが驚いて声を上げるよりも早く、左手でその汚れた口を力強く塞ぎ、同時に、右手に持ったショートソードの柄頭(つかがしら)――剣の持ち手の末端部分――で、相手の後頭部を狙って、渾身の力で打ち据えた!
ゴンッ!
鈍く、重い音が響く。
ゴブリンは短い呻き声すら上げることなく、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
気絶しただけだとは思うが、これで当分は動けないだろう。
アルトは、心臓が早鐘のように打つのを感じながらも、素早くゴブリンの体を茂みの奥深くへと引きずり込み、木の葉で隠した。
そして、息を殺して周囲の様子をうかがう。
幸い、他の見張りのゴブリンたちは、こちらには気づいていないようだ。
予期せぬ接近遭遇に、アルトの額には冷や汗が流れた。
偵察任務の危険性を、身をもって体験した。
これ以上の長居は危険だと判断したアルトは、集められた情報だけでも十分だと考え、慎重に撤退を開始することにした。
来た道とは違う、事前にいくつか想定しておいた撤退経路の一つを選ぶ。
足音を忍ばせ、周囲への警戒を怠らず、ゴブリンたちの縄張りを静かに、しかし迅速に離脱していく。
初めての本格的な偵察任務。
それは、直接的な戦闘以上に、張り詰めた緊張感と、高い集中力を要求されるものだった。
隠密行動の重要性、状況判断の速さ、そして時には、非情な決断力も必要になる。
冒険者として、また一つ、新たなスキルと、そして厳しい現実を学ぶことができた。
無事に森を抜け、村へと続く道が見えてきた時、アルトはようやく安堵のため息をついた。
手元のメモ帳には、ゴブリンの巣に関する貴重な情報が記されている。
これをギルドに持ち帰り、報告すれば、Eランク昇格へ大きく近づくはずだ。
戦闘だけが冒険者の全てではない。
そのことを改めて実感し、アルトは自分の成長に確かな手応えを感じていた。
次なるステップへの期待を胸に、アルトはギルドへの帰路を急ぐのだった。
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異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
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