落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

文字の大きさ
62 / 125

第63話 王都の地下、最初の仕事

しおりを挟む
王都アステリアでの新たな生活が始まった。
アルトはまず、この巨大な都市での冒険者としての第一歩を踏み出すべく、ギルドで比較的安全そうな依頼を選んだ。
それは、「下水道の小型スライム駆除」。
華々しい任務とは言えないが、まずは確実に依頼をこなし、王都での活動基盤を築くことが先決だと考えたのだ。

ギルドで依頼の詳細と、指定された第一区画の下水道への入り口を教えてもらう。
担当者は、「下水道は入り組んでいて迷いやすい。それに、衛生的とはとても言えん場所だからな。汚れてもいい服装と、十分な灯りを用意するように」と、実用的な注意を与えてくれた。

教えられた場所へ向かうと、そこには重々しい鉄製のマンホールの蓋があり、傍らには鼻をつまんだ衛兵が一人、退屈そうに立っていた。
アルトが依頼書を見せると、衛兵は「ああ、スライム駆除の。ご苦労さん。こいつを開ければ入れる。終わったら、ちゃんと蓋を閉めて、俺に一声かけてくれよな」と、明らかに嫌そうな顔で、重い蓋を鉤付きの棒で持ち上げてくれた。

蓋の下に現れたのは、暗く、湿った石造りの階段だった。
覚悟を決めて階段を降りていくと、途端に、鼻を突き刺すような強烈な下水の悪臭と、じっとりと肌にまとわりつくような湿気がアルトを襲った。
ランタンに火を灯すと、苔むした石壁と、ヘドロの溜まった汚れた水がゆっくりと流れる水路が、ぼんやりとオレンジ色の光の中に浮かび上がった。
これが、壮麗な王都の地下に広がる、もう一つの顔か…。
アルトは少し顔をしかめながらも、気を引き締めて奥へと進んだ。

ランタンの光だけが頼りの、薄暗い迷路のような通路。
足元はぬかるみ、時折、大きなネズミのようなものが走り去る気配もする。
水の流れる音だけが、不気味なほど静かな空間に響いていた。
見取り図とコンパスを頼りに、慎重に進んでいく。

しばらく歩くと、前方の少し開けた、水路が合流するような場所で、うごめく影を多数発見した。
近づいてみると、それは目的のスライムたちだった。
半透明の青いスライムだけでなく、依頼書にあった通り、毒々しい緑色や、不気味な紫色をしたポイズンスライムもかなりの数が混じっている。
ざっと見ただけでも、20匹以上はいるだろうか。
想像以上の数に、アルトは少しだけ眉をひそめた。

アルトが持つランタンの光に気づいたのか、スライムたちは一斉に、独特の弾むような動きで襲いかかってきた。
狭い通路での乱戦。
足元は滑りやすく、思うようにフットワークが使えない。
これは厄介だ。

アルトはまず、ショートソードで応戦を試みる。
しかし、やはりスライムのぶよぶよとした体には、斬撃も突きもほとんど効果がない。
剣が空を切るか、あるいは手応えなく体内にめり込むだけだ。
バックラーで体当たりを防ぎつつ、アルトは即座に戦術を切り替えた。

腰のベルトから、父の形見であるナイフを引き抜く。
アッシュフォード村でスライム討伐をした際に編み出した、核(コア)狙いの戦法だ。
小型のスライムにも、魔力の源である核はあるはず。
体当たりしてきた一体のスライムの中心部を、タイミングを合わせてナイフで素早く突く!
プシュッ!
狙い通り、スライムは小さな魔石を残して、その形を失い消滅した。
この戦法は、ここでも有効だ!

だが、問題はポイズンスライムだ。
その緑色や紫色の体液には毒があり、直接触れるのは極めて危険。
鎧や盾で体当たりを防いでも、毒液が装備に付着すれば、じわじわとダメージを受ける可能性がある。

「こいつらには、直接触れずに倒すしかない…反射だ!」

アルトは、ポイズンスライムが体当たりを仕掛けてくるタイミングを狙い、バックラー越し、あるいはショートソードの腹でその衝撃を受け止め、即座にギフト【ダメージ反射】を発動させる。
ドゥン、という鈍い衝撃と共に、ポイズンスライムの体が震え、動きが一瞬止まる。
直接触れることなくダメージを与えられる反射は、毒を持つスライムに対して、まさにうってつけの攻撃手段だった。

さらに、数が増えて囲まれそうになった時には、アルトはギフトの応用「衝撃波(仮)」も活用した。
腕を突き出し、前方に力を放つ。
ブォン!と空気が震え、狭い通路ではそのわずかな衝撃でも効果があり、複数のスライムを壁に叩きつけたり、動きを一瞬止めたりすることができた。
目くらましや牽制としても有効だ。

ナイフでの的確な核狙い。
ポイズンスライムに対する反射でのダメージ。
そして、状況に応じた衝撃波での妨害。
アルトは、これまでに培ってきた技術とギフトの全てを駆使し、悪臭と汚れに顔をしかめながらも、集中力を切らすことなく戦い続けた。
一体、また一体と、着実にスライムの数を減らしていく。

長い戦いの末、ついにアルトは、指定された第一区画のスライムを全て(あるいは依頼目標数を大幅に超える数を)駆除することに成功した。
床には、討伐の証拠である、様々な色をした小さな魔石がいくつも転がっている。
アルトはそれらを、汚れた手で丁寧に拾い集め、用意していた別の袋にしまった。

体中が、泥と汚水、そしてスライムの粘液で汚れ、ひどい悪臭を放っている。
アルトは、一刻も早くこの薄暗く不快な場所から脱出したい一心で、元来た道を急いで引き返した。
マンホールから地上へと這い出すと、外の新鮮な空気が、これほどまでに美味しく感じられたことはなかった。
待っていた衛兵に依頼完了を告げ、重い蓋を閉めてもらう。
衛兵は、アルトの姿と匂いに顔をしかめながらも、「おう、ご苦労だったな」と労いの言葉をかけてくれた。

ギルドに戻ると、やはりその姿と匂いに、周囲の冒険者たちから若干の距離を置かれたが、すぐに依頼内容を察したのか、苦笑いや同情の視線が向けられた。

「おいおい、下水道帰りか。そりゃ大変だったな」
「スライムでも、あの数を狭い場所で相手にするのは骨が折れるだろ」
中には、そう声をかけてくれる者もいた。

カウンターで魔石を提出し、報告を終える。
受付嬢は、鼻に優雅な香りのハンカチを当てながらも、プロとして丁寧に対応してくれた。

「お疲れ様でした、アルト様。依頼達成を確認いたしました。こちらが報酬の銅貨50枚です。……よろしければ、ギルドの洗い場を無料でお使いになりますか?特別ですよ」

その申し出は、非常にありがたかった。
報酬の銅貨を受け取り、アルトはギルドの隅にある洗い場で、念入りに体の汚れと悪臭を洗い流した。

王都での初めての依頼。
それは、華々しい魔物討伐とは程遠い、地味で、決して快適とは言えない仕事だった。
しかし、アルトはこの依頼を確実にやり遂げた。
そして、王都での冒険者生活の、確かな第一歩を踏み出すことができたのだ。
下水道での経験は、彼に都市環境特有の戦いや、衛生管理の重要性といった、新たな学びも与えてくれた。
そして何より、確実に活動資金を増やすことができた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...