落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第103話 暴かれた帳簿、闇への反撃

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マルコム男爵邸から持ち帰った、分厚い革張りの帳簿。
アルトの下宿屋の、ランタンの頼りない灯りの下で、三人は息を詰めてその中身を確認していた。
帳簿にかけられていた頑丈な鍵は、ノエルの神業のようなピック技術の前に、あっけなくその役割を放棄した。
カチリ、という小さな音と共に錠が外れ、アルトは緊張しながら、帳簿の最初のページをゆっくりとめくった。

そこに記されていたのは、アルトたちの想像を遥かに超える、マルコム男爵のどす黒い悪行の数々だった。
几帳面な、しかしどこか冷酷さを感じさせる文字で、おびただしい数の取引記録が、日付と共に詳細に記されている。

違法な奴隷の売買リスト。
遠い異国から密輸された子供たち、戦争捕虜、あるいは借金の形に身売りされた人々。
その名前(あるいは番号)と、売買された金額、そして取引相手を示す隠語が、無感情に並んでいる。
アルトの胸に、強い怒りが込み上げてくる。

さらにページをめくると、禁制品の取引記録が現れた。
精神を蝕む強力な麻薬、使用者の魂を代償に力を与えるという呪われた魔道具、古代遺跡から盗掘された禁断のアーティファクト…。
それらが、法外な値段で、王都の裏社会や、あるいは腐敗した貴族たちの間で取引されている様子が生々しく記録されていた。

そして、最もアルトたちの憤激を掻き立てたのは、闇ギルド「黒蛇の牙」への、具体的な依頼記録だった。
政敵や、事業の邪魔になる商人に対する、脅迫、誘拐、そして暗殺の依頼。
標的となった人物の名前、依頼内容、実行日時、そして成功報酬として支払われた金貨の額まで、まるで業務日誌のように詳細に記されている。
中には、最近王都で不可解な死を遂げたと噂されていた、善良な商人の名前もあった。
彼の死は、事故や病死などではなかったのだ。

「…………なんという外道じゃ……!」

ゴルドーが、怒りに顔を真っ赤にし、テーブルを叩き割りそうな勢いで拳を震わせながら吐き捨てた。
ドワーフの誇りにかけて、このような非道は許せない、という強い憤りが彼の全身から発せられている。

ノエルも、帳簿の内容から目を離さずにいたが、そのフードの下で、唇を固く結んでいるのが分かった。
彼女の過去に何があったのか、アルトは知らない。
しかし、奴隷売買や暗殺といった行為に対する、静かな、しかし燃えるような怒りが、彼女の瞳の奥に宿っているように見えた。

アルト自身も、強い憤りを感じていた。
貴族という特権的な地位を利用し、私利私欲のために、これほど多くの人々を不幸に陥れ、命まで奪っていたとは。
許せるはずがなかった。

「この帳簿があれば、男爵の悪事を完全に証明できる」
アルトは、静かに、しかし決意を込めて言った。
「これをギルドマスターに見せて、王宮か貴族院に訴え出るべきだろうか?」

「それも一つの手じゃろうな」
ゴルドーが、唸るように答える。
「だが、相手は王都でも指折りの有力貴族じゃ。もみ消されたり、時間を稼がれたり、あるいは逆にこちらが罠に嵌められたりする危険も考えられる。それに、事が公になれば、男爵だけでなく、この帳簿に名前がある他の貴族や商人たちも黙ってはおるまい。下手をすれば、王都全体を巻き込む大騒動になるやもしれんぞ」

「……闇ギルド…潰すのが先」
ノエルが、ぽつりと呟いた。
「……証拠、あっても、実行部隊、いる。…先に、牙、抜く」

ノエルの言葉は、的を射ていた。
たとえ男爵の悪事が暴かれても、彼の「牙」である闇ギルド「黒蛇の牙」が健在である限り、報復や口封じの危険は残り続ける。
それに、闇ギルドを壊滅させれば、男爵の力は大きく削がれるはずだ。

アルトは頷いた。
「分かった。まずは、『黒蛇の牙』のアジトを突き止め、奴らに打撃を与えよう。この帳簿は、そのための情報収集にも使えるかもしれないし、いざという時の、男爵を追い詰めるための切り札として、俺たちが持っておこう」

アルトは、ギルドマスターには状況だけを簡潔に報告し、ギルドからの(限定的な)支援を取り付けた。
そして三人は、次なる目標――闇ギルド「黒蛇の牙」のアジト特定――に向けて動き出した。

帳簿には、闇ギルドとの連絡役と思われる人物の名前や、取引場所として使われた可能性のある、王都の特定の酒場の名前、あるいは倉庫街の区画番号などが、隠語を交えながら記されていた。
ノエルは、そのわずかな手がかりを元に、彼女だけが持つ裏社会の情報網を駆使し、アジトの場所を絞り込もうとする。
ゴルドーも、帳簿に名前があった連絡役や、関連が疑われる商人などに、それとなく接触を図り、情報を探り始めた。その強面と迫力は、時に脅しに近い効果を発揮したようだ。

アルトは、エリアーヌに協力を求めた。
刺客が使っていた毒の分析結果と、帳簿に記されていた禁制品リスト。
それらをエリアーヌに見せ、闇ギルドの活動内容や技術レベルについて、彼女の専門的な見地からの意見を聞いた。

「まあ、この毒…やはり南方の密林地帯に生息する、極めて希少な毒蛇から抽出されるものですわ。しかも、効果を高めるための特殊な錬金術処理が施されています。これほどのものを扱えるとは…『黒蛇の牙』には、相当な腕を持つ毒師か、錬金術師がいる可能性が高いですわね。それと、この禁制品リスト…古代の呪具まで含まれていますわ。闇ギルドのネットワークは、我々が想像する以上に広く、そして深いのかもしれません…」
エリアーヌの分析は、敵の姿をより具体的に、そしてより危険なものとしてアルトに認識させた。

数日間にわたる、地道で危険な情報収集。
そして、ついに三人は、「黒蛇の牙」がアジトの一つとして利用している可能性が極めて高い場所を特定した。
それは、王都の古い地区に広がる、複雑に入り組んだ下水道網の一部を利用した、放棄された地下水路だった。
入り口は巧妙に偽装されており、内部には多数の構成員と、侵入者を拒むための罠が、幾重にも仕掛けられている可能性が高いという。

三人は、再びアルトの下宿屋に集まり、アジトへの潜入・襲撃作戦を練り始めた。
相手は、暗殺や破壊工作を生業とする、プロの犯罪者集団だ。
正面からの突入は、自殺行為に等しい。
奇襲、分断、そして速やかな制圧。
より慎重で、より大胆な作戦が求められる。

ノエルの隠密行動と罠解除能力。
ゴルドーの圧倒的な突破力と耐久力。
そして、アルトの防御と反射、そして覚醒したギフトの力。
それぞれの長所を最大限に活かし、互いの弱点を補い合う、完璧な連携が必要となるだろう。

悪徳貴族マルコム男爵の悪事を証明する、決定的な証拠は手に入れた。
次なる標的は、その手足となって悪逆の限りを尽くす、闇ギルド「黒蛇の牙」。
アルトたち三人のCランクパーティは、王都の暗部組織との、危険極まりない直接対決へと、今、身を投じようとしていた。
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