【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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写真

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古いモノクロ写真だった。蚤の市で、埃っぽい木箱の底から見つけた。
明治か大正の頃だろうか、十数人の男女が、硬い表情で写っている。家族写真なのか、職場の集合写真なのか。その古びた空気感が気に入り、私(マユ)は部屋の壁にピンで留めた。

最初に違和感を覚えたのは、数日後のことだ。
写真の右端に、少し離れて立つ若い女性。伏し目がちだったはずの彼女の視線が、気のせいか、まっすぐこちらを向いているような気がした。

「…まさかね」
記憶違いだろう、と自分に言い聞かせた。

しかし、その日から、写真を見るたびに、その女性の姿が微妙に変化しているように感じられた。
固く結ばれていたはずの口元が、ほんの少しだけ綻んでいるように見えたり。組んでいたはずの指の形が、いつの間にか変わっていたり。そして何より、彼女の瞳は、明らかに、写真の中から私をじっと見つめているのだ。

部屋に一人でいると、壁の写真から、常に視線を感じるようになった。特に夜。まるで、写真の中の彼女が、こちらの様子を窺っているかのようだ。

気味が悪くなり、写真を壁から外して、机の引き出しの奥にしまった。
なのに、翌朝、写真はなぜか、また壁の元の位置に留めてあった。ピンの穴の位置まで、寸分違わずに。

誰が? 私しかいないのに。

恐怖が確信に変わったのは、昨日のことだ。
いつものように写真に目をやった私は、息を呑んだ。

右端に立っていたはずの、あの女性の姿が、そこにはなかったのだ。
まるで最初から存在しなかったかのように、背景だけが写っている。他の人物たちは、何事もなかったかのように、硬い表情のままそこにいる。

彼女は、どこへ行った?

全身の血の気が引いていく。震える手で写真を壁から剥がし、もう一度、目を凝らす。
やはり、いない。女性が立っていた場所は、ただの空白になっている。

その時、ふと、部屋の隅の暗がりに気配を感じた。
恐る恐る、そちらに視線を向ける。

暗闇の中に、ぼんやりと、人影のようなものが揺らめいていた。
それは、古い写真の粒子のように粗く、輪郭は曖昧だが、紛れもなく、あの写真から消えた女性のシルエットだった。
影は、音もなく、ただ静かに、暗闇の中から私を見つめていた。

「ひっ…!」
私は写真を床に叩きつけ、部屋を飛び出した。

あの後、写真は燃えるゴミの日に捨てた。灰になるまで見届けたわけではないが、もう手元にはない。
けれど、あの女性の姿は、私の脳裏に焼き付いて離れない。
そして、今も、部屋の隅の暗がりや、ふとした瞬間の視界の端に、あの曖昧な人影がちらつくことがあるのだ。

写真の中から抜け出した彼女は、本当に消えてくれたのだろうか? それとも…。
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