【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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鳥居

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なあ、聞いてくれよ。

俺、今週の月曜の夜、新宿で、マジでヤバいもん見たかもしんないんだ。

いや、見たっていうか、迷い込んだっていうか…。

その日、仕事でヘトヘトでさ。

普段使わない、新宿御苑の裏手あたりの、細い路地をショートカットして帰ろうとしたんだ。

もう夜の10時近かったかな。

街灯もまばらで、古いアパートとか、小さな商店がシャッター下ろしてるような、薄暗い道だった。

そしたら、道の途中に、不意に、それがあったんだ。

真っ赤な、小さな鳥居。

え? と思ったよ。

だって、そこ、神社の境内でもなんでもない。

ただの、アスファルトの路地の、ほんの数メートル先に、ぽつんと、鳥居だけが立ってるんだ。

大きさは、人がやっと一人通れるくらい。

木造で、朱色が、夜目にも鮮やかだったけど、どこか古びてて、ペンキが剥げかかってる部分もある。

鳥居の向こうは、さらに細い、真っ暗な通路みたいになってて、奥は全然見えない。

こんなところに、鳥居なんてあったっけ…?

毎日通る道じゃないけど、この辺り、何度か歩いたことあるはずなのに、記憶にない。

でも、その時は、疲れてたし、酔ってもいないけど、なんか判断力鈍ってたのかな。

「へえ、こんなのもあるんだな」くらいにしか思わなかった。

そして、何気なく、その鳥居を、くぐっちまったんだよ。

鳥居をくぐった瞬間、空気が、ふっと変わった気がした。

いや、気のせいじゃない。

さっきまでの、街の喧騒が、完全に消えたんだ。

車の音も、遠くのサイレンも、何も聞こえない。

シーン…と、耳が痛くなるくらいの静寂。

そして、目の前の、真っ暗だと思ってた通路が、なぜか、ぼんやりと、赤黒く光って見える。

奥へ、奥へと、続いている。

なんだ、これ…?

急に、めちゃくちゃ怖くなってきた。

引き返そうとした。

でも、後ろを振り返ったら、さっきまでいたはずの、明るい路地がない。

そこには、同じように、薄暗くて、赤黒く光る、無限に続くような通路があるだけ。

え? え?

パニックだよな。

どっちへ行けばいい?

とにかく、明るい方へ、って思って、必死で、赤黒い通路を走った。

どれくらい走ったか、分かんない。

息も絶え絶えになって、ふと顔を上げたら、また、目の前に、あの真っ赤な鳥居があった。

「…は? なんで…?」

さっき、くぐったはずの鳥居だ。

でも、鳥居の向こうは、さっきまでいた、いつもの新宿の路地じゃなくて、

やっぱり、あの、赤黒く光る、不気味な通路が続いてる。

どうなってるんだ?

俺、同じ場所をぐるぐる回ってるのか?

それとも、もう、出られないのか?

その時。

鳥居の、向こう側。

赤黒い闇の、さらに奥から、

——— コツ…コツ…コツ…。

誰かが、ゆっくりと、こっちへ近づいてくる足音がした。

一人じゃない。

何人も、いや、何十人もいるような、無数の足音。

そして、その足音に混じって、

——— ヒッ…ヒッ…ヒッ…ヒッ…。

って、誰かの、引きつったような、押し殺したような、笑い声とも、喘ぎ声ともつかない、気味の悪い声が、聞こえてきたんだ。

もう、ダメだと思った。

あれに会ったら、絶対に、良くないことになる。

俺は、最後の力を振り絞って、もう一度、鳥居をくぐった。

今度は、絶対に出るんだって、祈るような気持ちで。

そしたら———。

目の前が、パッと明るくなった。

車のヘッドライト。クラクションの音。人々の話し声。

俺は、いつもの、新宿の、あの路地の入り口に、立ってた。

さっきまでいたはずの、鳥居も、赤黒い通路も、影も形もない。

ただ、古いアパートの壁が、そこにあるだけ。

夢…だったのか?

でも、体は汗びっしょりで、心臓はまだバクバクいってる。

足は、泥だらけだった。あの通路の、赤黒い土で。

俺、あれから、もうあの路地には近づいてない。

あれは、一体、何だったんだろう?

あの鳥居は、どこへ繋がってたんだろう?

そして、あの足音と、気味の悪い声の主は…?

もし、あの時、鳥居をくぐって、違う方向へ進んでたら。

俺は、今頃、どうなってたんだろうな…。
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