【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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置き傘

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今日、マジで訳わかんない、気味悪いことあったんだけど…。

土曜の昼過ぎでさ、天気雨っていうか、急にパラパラって雨が降ってきたんだ。

俺、傘持ってなくて、どうしよっかなーって思ってたら、
ちょうど目の前の、古びた雑居ビルの軒下に、一本だけ、ビニール傘が立てかけてあるのが見えた。

持ち手のところに、「ご自由にお使いください」って、テプラで貼ってある。
ああ、親切な人がいるもんだな、ラッキー、くらいに思って、
ありがたく、その傘を借りることにしたんだ。

普通の、どこにでもある、透明なビニール傘。
特に変わったところはない。

傘を差して、駅に向かって歩き始めた。
雨は、すぐに本降りになってきてさ。
「あの傘、助かったなー」なんて思ってたんだ。

5分くらい歩いた頃かな。
雨が、急に、小降りになった。
あれ? と思って空を見上げると、雲の切れ間から、陽が差してきてる。
天気雨だったみたいだ。

なんだ、もうやむのか。
じゃあ、傘、邪魔だな。
そう思って、傘を閉じようとした、その時。

——— ポタッ。

って、何か、冷たいものが、俺の額に落ちてきた。

え? 雨漏り?
ビニール傘だぞ?

不思議に思って、傘の内側を見上げてみた。

そしたら———。

傘の、透明なビニール部分。
その、内側に。

びっしりと、無数の、黒くて、小さな「手形」が、付いていたんだ。

それは、まるで、幼い子供が、泥か何かで汚れた手で、
傘の内側から、何度も、何度も、こちらへ助けを求めるように、
あるいは、何かを掴もうとするように、押し付けたような…。

そんな、無数の、小さな、小さな手形。

俺、それ見た瞬間、うわあああっ!て叫びそうになって、
持ってた傘を、その場に放り投げた。

周りの人が、何事かって感じで、こっちを見てる。
でも、俺、そんなの気にしてる場合じゃない。

だって、あの手形。
傘を差してた、ほんの数分前までは、絶対に、なかったんだ。
俺、傘開いた時、ちゃんと確認したから。

じゃあ、いつ?
俺が、雨の中を歩いてる、あの短い間に?
傘の内側に、あんな、無数の、子供の手形が?

どうやって?
誰が?
いや———「何」が?

俺は、もう、怖くて怖くて。
放り投げた傘を拾うこともできず、そのまま、走ってその場を離れた。

雨は、もうすっかり止んで、強い日差しが照りつけてた。
まるで、さっきまでの雨も、あの傘も、全部、夢だったみたいに。

でも、額に残ってる、あの、ポタッと落ちてきた、冷たい感触。
あれは、絶対に、気のせいじゃない。

あれは、雨粒じゃなかった。
もっと、どろりとした、粘り気のある、冷たい何か———。

あの傘。
「ご自由にお使いください」って書いてあったけど。
あれは、本当に、誰かの親切だったんだろうか?

それとも、あの傘は、雨が降るたびに、
ああやって、「誰か」を、集めてしまうんだろうか。
そして、それを、また別の「誰か」に、渡していく…。

俺は、もう、置き傘なんて、絶対に、使えない。
ビニール傘を見るたびに、あの、無数の、黒い小さな手形を、
思い出して、ぞっとするんだ…。
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