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仏壇
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俺の家、まあ、都内にある普通のマンションなんだけど、ちょっと前に、オフクロが田舎から古い仏壇を送ってきたんだ。
なんでも、実家の蔵を整理してたら出てきた、かなり年代物の、小さな仏壇らしい。
「あんたももういい年なんだから、ご先祖様をちゃんと祀りなさい」とか言って。
俺、そういうの全然興味ないし、部屋も狭いから迷惑だったんだけど、まあ、無碍にもできなくてさ。
部屋の隅に、とりあえず置いてるんだ。
もちろん、線香もあげてないし、扉も閉めっぱなし。
それが、昨日の夜。
深夜1時くらいだったかな。
寝ようと思って布団に入ったんだけど、なかなか寝付けなくて。
部屋は真っ暗で、シーンとしてる。
そしたら、どこからともなく、
——— チーン………。
って、仏壇の鈴(りん)の音が、一回だけ、小さく聞こえたんだ。
え? と思った。
もちろん、誰も鳴らしてない。俺一人だし。
風で鳴るようなもんでもないだろ、あれ。
気のせいか、何かの聞き間違いか。
そう思おうとしたんだけど、その音が、妙に、頭にこびりついて。
その日は、結局、朝方までほとんど眠れなかった。
そして、今夜。
さっき、日付が変わったくらいの時間。
また、あの音が聞こえたんだ。
——— チーン………。
今度は、昨日より、少しだけ、はっきり聞こえた気がする。
俺、もう、怖くて布団から出られなくて。
息を殺して、仏壇のある方を、暗闇越しにじっと見てた。
そしたら、
仏壇の、閉まってるはずの観音開きの扉。
その、ほんの僅かな隙間から、
ぼうっと、青白い光が、漏れ出してるのに気づいた。
え、何、あれ…?
仏壇の中に、何か光るものなんて、入れた覚え、まったくないぞ。
見間違いじゃない。
確かに、あの隙間から、ゆらゆらと、青白い光が、まるで呼吸してるみたいに、明滅してる。
そして、その光と一緒に、
——— モソモソ…ゴソゴソ…。
って、仏壇の中で、何か、小さなものが、蠢いてるような、気味の悪い音が、聞こえ始めたんだ。
ネズミか? いや、もっと、こう…粘り気のある、湿った感じの音。
俺は、もう、恐怖で体が動かせない。
ただ、暗闇の中で、青白い光を放ち、不気味な音を立てる仏壇を、見つめることしかできない。
その時。
仏壇の中から、声が聞こえた。
それは、声っていうか、もっと、こう…たくさんの、低い、くぐもった「呻き声」が、重なり合ってるような。
言葉にはなってない。
でも、その呻き声が、明らかに、俺に、何かを訴えかけてる。
助けて、なのか。
苦しい、なのか。
それとも、もっと、別の…「お前もこっちへ来い」みたいな、そんな…。
そして、仏壇の扉の隙間から漏れる、青白い光が、だんだん強くなってきて。
隙間から、何か、黒くて、細長い「もの」が、数本、にゅるり、と、這い出てくるのが見えたんだ。
それは、まるで、人間の「指」みたいだった。
痩せこけて、関節が歪に曲がった、黒い、長い指。
その指が、仏壇の扉を、内側から、こじ開けようとしてるみたいに、ギチギチと、嫌な音を立ててる。
俺は、もう、限界だった。
「うわあああああああっ!!」
って叫んで、布団から飛び出して、部屋の電気を全部つけた。
ハッと、仏壇を見る。
何も、変わってない。
扉は、ちゃんと閉まってる。
青白い光も、不気味な音も、あの黒い指も、どこにもない。
ただ、古い仏壇が、部屋の隅に、静かに置いてあるだけ。
夢…?
いや、でも、あの恐怖は、あまりにも鮮明で。
汗びっしょりだし、心臓も、まだバクバクいってる。
今、俺は、電気を煌々とつけた部屋で、これを書いてる。
仏壇の方を、見ないようにしながら。
でも、感じるんだ。
あの仏壇の中から、無数の、冷たい「視線」を。
そして、耳の奥で、あの、呻き声が、まだ、微かに響いてる気がする。
なあ、あの仏壇、一体、何なんだ?
オフクロは、何を送ってきたんだ?
そして、あの扉の向こうには、一体、何が「いる」んだ…?
もう、この部屋で、一人で寝るのが、怖い。
いつ、また、あの扉が開いて、あの「指」が、俺を———。
なんでも、実家の蔵を整理してたら出てきた、かなり年代物の、小さな仏壇らしい。
「あんたももういい年なんだから、ご先祖様をちゃんと祀りなさい」とか言って。
俺、そういうの全然興味ないし、部屋も狭いから迷惑だったんだけど、まあ、無碍にもできなくてさ。
部屋の隅に、とりあえず置いてるんだ。
もちろん、線香もあげてないし、扉も閉めっぱなし。
それが、昨日の夜。
深夜1時くらいだったかな。
寝ようと思って布団に入ったんだけど、なかなか寝付けなくて。
部屋は真っ暗で、シーンとしてる。
そしたら、どこからともなく、
——— チーン………。
って、仏壇の鈴(りん)の音が、一回だけ、小さく聞こえたんだ。
え? と思った。
もちろん、誰も鳴らしてない。俺一人だし。
風で鳴るようなもんでもないだろ、あれ。
気のせいか、何かの聞き間違いか。
そう思おうとしたんだけど、その音が、妙に、頭にこびりついて。
その日は、結局、朝方までほとんど眠れなかった。
そして、今夜。
さっき、日付が変わったくらいの時間。
また、あの音が聞こえたんだ。
——— チーン………。
今度は、昨日より、少しだけ、はっきり聞こえた気がする。
俺、もう、怖くて布団から出られなくて。
息を殺して、仏壇のある方を、暗闇越しにじっと見てた。
そしたら、
仏壇の、閉まってるはずの観音開きの扉。
その、ほんの僅かな隙間から、
ぼうっと、青白い光が、漏れ出してるのに気づいた。
え、何、あれ…?
仏壇の中に、何か光るものなんて、入れた覚え、まったくないぞ。
見間違いじゃない。
確かに、あの隙間から、ゆらゆらと、青白い光が、まるで呼吸してるみたいに、明滅してる。
そして、その光と一緒に、
——— モソモソ…ゴソゴソ…。
って、仏壇の中で、何か、小さなものが、蠢いてるような、気味の悪い音が、聞こえ始めたんだ。
ネズミか? いや、もっと、こう…粘り気のある、湿った感じの音。
俺は、もう、恐怖で体が動かせない。
ただ、暗闇の中で、青白い光を放ち、不気味な音を立てる仏壇を、見つめることしかできない。
その時。
仏壇の中から、声が聞こえた。
それは、声っていうか、もっと、こう…たくさんの、低い、くぐもった「呻き声」が、重なり合ってるような。
言葉にはなってない。
でも、その呻き声が、明らかに、俺に、何かを訴えかけてる。
助けて、なのか。
苦しい、なのか。
それとも、もっと、別の…「お前もこっちへ来い」みたいな、そんな…。
そして、仏壇の扉の隙間から漏れる、青白い光が、だんだん強くなってきて。
隙間から、何か、黒くて、細長い「もの」が、数本、にゅるり、と、這い出てくるのが見えたんだ。
それは、まるで、人間の「指」みたいだった。
痩せこけて、関節が歪に曲がった、黒い、長い指。
その指が、仏壇の扉を、内側から、こじ開けようとしてるみたいに、ギチギチと、嫌な音を立ててる。
俺は、もう、限界だった。
「うわあああああああっ!!」
って叫んで、布団から飛び出して、部屋の電気を全部つけた。
ハッと、仏壇を見る。
何も、変わってない。
扉は、ちゃんと閉まってる。
青白い光も、不気味な音も、あの黒い指も、どこにもない。
ただ、古い仏壇が、部屋の隅に、静かに置いてあるだけ。
夢…?
いや、でも、あの恐怖は、あまりにも鮮明で。
汗びっしょりだし、心臓も、まだバクバクいってる。
今、俺は、電気を煌々とつけた部屋で、これを書いてる。
仏壇の方を、見ないようにしながら。
でも、感じるんだ。
あの仏壇の中から、無数の、冷たい「視線」を。
そして、耳の奥で、あの、呻き声が、まだ、微かに響いてる気がする。
なあ、あの仏壇、一体、何なんだ?
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