サイコパス聖女 〜裁きの鉄槌〜

シマセイ

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第16話:嘆きの森の洗礼と蠢く悪意

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翌朝、聖都アウレリアの城門は、聖女リリアーナ率いる調査隊を見送る民衆で賑わっていた。私は純白のローブに身を包み、愛馬の上から集まった人々に優しく微笑みかける。

「皆さま、ご安心ください。神の御名において、必ずや嘆きの森を浄化し、聖なる遺物を見つけ出してまいりますわ」

その言葉に、民衆は熱狂的な歓声を上げた。彼らにとって、私は希望の光、慈悲深き聖女様なのだから。もちろん、私の内心では、これから始まる「お楽しみ」への期待で胸が高鳴っていることなど、誰も知りようがない。

調査隊は、屈強な騎士団の精鋭たちと、数名の神官、そして荷運びの者たちで構成されている。
彼らは皆、聖女様直々の任務に燃えており、その顔には緊張と誇りが浮かんでいた。まあ、彼らのほとんどは、私の計画の駒に過ぎないのだけれど。

モモちゃんは、私の肩の上で小さな銀色の猫の姿をとり、周囲を警戒している。
昨夜、私の部屋にあった銀の燭台を取り込んだ影響か、その毛並みは月光のように美しく輝いていた。
その愛らしい見た目とは裏腹に、モモちゃんの索敵能力と戦闘能力は、並の騎士など足元にも及ばない。

一行が「嘆きの森」の入り口に到着したのは、昼過ぎのことだった。
鬱蒼と茂る木々は陽光を遮り、森の奥からは不気味な静寂と、時折聞こえる獣の遠吠えが漂ってくる。
空気は重く、瘴気のようなものが立ち込めているのが肌で感じられた。騎士たちの顔にも緊張の色が濃くなる。

「皆の者、気を引き締めて進みなさい。神のご加護があらんことを」
私は平静を装い、毅然とした声で命じた。内心では、この陰鬱な雰囲気がたまらなく心地よかったけれど。

森に足を踏み入れると、すぐにその洗礼が始まった。
「グルルルル……」
木々の間から、涎を垂らした巨大な牙を持つ狼型の魔獣が数匹、唸り声を上げながら飛び出してきた。その目は血走り、明らかに飢えている。

「聖女様をお守りしろ!」
騎士たちが剣を抜き、魔獣に立ち向かおうとする。しかし、彼らが動くよりも早く、私の肩からモモちゃんが弾丸のように飛び出した。

「モモちゃん、少し運動の時間よ」
モモちゃんは空中でその姿を変化させ、体中から鋭い銀色の棘を無数に突き出したハリネズミのような形態になった。そして、回転しながら魔獣の群れに突っ込む!

「ギャンッ!」「キャンッ!」
魔獣たちは、モモちゃんの銀色の棘に貫かれ、次々と悲鳴を上げて倒れていく。
その様は、まるで銀色の嵐が吹き荒れたかのようだった。あっという間に、数匹の魔獣は動かなくなった。

騎士たちは、その光景に呆然としている。
「な、なんだ今の……」
「聖女様の……聖獣様か……?」

「皆、油断してはいけません。この森には、これ以上の脅威が潜んでいるやもしれませんわ」

私は涼しい顔で言い放ち、内心でモモちゃんの働きを褒めてやる。まったく、手間いらずで助かるわ。

調査隊は、その後も何度か魔獣の襲撃に遭ったが、その度にモモちゃん(と、たまに私が「うっかり」鉄塊を振るうこと)によって難なく退けられた。騎士たちは、次第に聖女様の「聖獣」の力に畏敬の念を抱き始めたようだ。いい傾向だわ。

森の奥へ進むにつれ、瘴気はますます濃くなり、木々の様相も異様さを増していく。
ねじ曲がった幹、血のような赤い樹液を流す木、人の呻き声に似た音を立てる植物……。

神官の一人が、ついに恐怖に耐えかねたのか、ヒステリックに叫びだした。

「こ、こんな場所、聖なる森などではない!呪われているんだ!」

「静粛に。神を信じる心が試されているのですわ」

私は彼を冷ややかに一瞥し、窘める。まったく、使えない駒ね。

その時、先頭を進んでいた騎士の一人が、地面に何かを見つけて立ち止まった。

「聖女様、これは……」

彼が指さす先には、黒曜石で作られた小さな鳥の羽根が落ちていた。昨夜、私が見たものと寸分違わぬ、あの紋様が刻まれた羽根が。

「……やはり、来たようね」

私は内心で呟き、周囲に鋭く視線を巡らせる。

「皆、警戒を怠らないで。何者かが私たちを見ているようですわ」

私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、木々の間から数本の矢が放たれた!

「伏せろ!」

騎士たちが叫び、盾を構える。数本の矢は盾に弾かれたが、一本が荷運びの男の肩を掠めた。

「くっ……敵襲だ!」

矢が飛んできた方向から、黒いローブをまとった者たちが十数人、音もなく姿を現した。
手には剣や弓を持ち、その顔はフードで隠れて見えないが、彼らが放つ殺気は本物だった。

「『影の評議会』のお出まし、というわけね。ご丁寧にどうも」

私は不敵な笑みを浮かべ、愛馬からひらりと降り立つ。

「さて、皆さま。聖女の慈悲深さを、その身をもって教えて差し上げますわ」

私の手には、いつの間にか「護身用」として携えていた鉄塊が握られていた。
そして肩の上のモモちゃんも、再び戦闘態勢に入り、瑠璃色と銀色の混じった美しい、そして恐ろしい姿へと変貌を遂げようとしていた。
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