サイコパス聖女 〜裁きの鉄槌〜

シマセイ

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第20話:影の抱擁と月光の導き

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「あらあら、まだお楽しみが残っていたのかしら?」
私の言葉に、顔のない影の化身は応えることなく、その黒い翼を大きく広げた。

周囲の空気が急速に冷え込み、影から放たれる強烈な悪意が肌を刺す。生き残っていた数人の騎士たちは、あまりの恐怖に声も出せず、ただ震えているだけだった。

「どうやら、この聖域は、そう簡単には私たちを帰してくれないようね」

私は鉄塊を握り直し、不敵な笑みを深める。モモちゃんも私の肩で戦闘態勢に入り、その体を銀色に輝かせ、鋭い棘を体表に浮かび上がらせた。

影の化身は、音もなく滑るようにこちらへ接近してきた。その手には、闇そのものが凝縮したかのような黒い剣が握られている。

「フンッ!」

私は先手必勝とばかりに鉄塊を振りかぶり、影の化身の頭上目掛けて叩きつけた。
しかし、影の化身はまるで実体がないかのように鉄塊をすり抜け、私の背後に回り込もうとする。

「ちっ、厄介な相手ね!」

私は即座に体勢を立て直し、距離を取る。物理攻撃が効きにくいタイプかしら。

「モモちゃん、あの影、何か弱点はありそう?」

私の問いに、モモちゃんはプルプルと震え、何かを探るように影の化身を見つめている。
やがて、モモちゃんは私に「光」と「中心」というイメージを伝えてきた。

(光……そして中心……なるほどね)

その時、影の化身が黒い剣を横薙ぎに振るった。
剣先から放たれた闇の刃が、近くにいた騎士の一人を捉える。

「ぐああぁっ!」

騎士は短い悲鳴を上げ、その体はまるで影に飲み込まれるかのように黒く変色し、塵となって消え去った。
あまりにもあっけない最期。
残りの騎士たちは、もはや腰を抜かさんばかりの形相だ。

「まあ、見事なまでにエグい攻撃ね。でも、私には通用しないわよ」

私は懐から『虚ろなる月の瞳』を取り出した。
宝玉は、周囲の闇を打ち消すかのように、清浄な銀色の光を放ち始める。

「この光が、あなたにはお気に召さないかしら?」

私が『虚ろなる月の瞳』を影の化身に向けると、影は明らかに怯んだように動きを止めた。その体が、まるで陽光に晒された闇のように、わずかに揺らいでいる。

(やはり、光が弱点なのね。そして、中心……おそらく、あの影の胸のあたり、他の部分よりわずかに闇が濃く見える場所が核かしら)

私はモモちゃんに目配せする。
モモちゃんは私の意図を即座に理解し、その体を銀色の光を纏った槍のような形状へと変化させた。

「騎士の皆さん、あなたたちには最後の奉公をしてもらいますわ」

私は生き残った騎士たちに、慈愛に満ちた(もちろん演技よ)声で告げた。

「あの影の注意を引きなさい。私が、この聖なる光で道を開きますから」

騎士たちは、私の言葉に一縷の望みを見出したのか、あるいはもうヤケクソになったのか、最後の力を振り絞って影の化身へと突撃していく。

「うおおお!」「聖女様のために!」

彼らの捨て身の攻撃は、影の化身の注意をわずかながら引きつけることに成功した。

「モモちゃん、今よ!」

その隙を突き、私は『虚ろなる月の瞳』を高く掲げ、そこから放たれる銀色の光を一点に集中させる。
光は影の化身の胸元、私が核と睨んだ場所を照らし出した。
影の化身が苦しげに身をよじる。

そして、モモちゃんが変形した銀色の槍が、光の筋を追うようにして、影の化身の核へと猛烈な勢いで突き刺さった!

「キシャアアアアアアッ!」

影の化身は、これまでとは比較にならないほど甲高い絶叫を上げた。その体は激しく明滅し、黒い粒子となって霧散し始める。

やがて、影の化身は完全に消え去り、後には『虚ろなる月の瞳』の清浄な光と、呆然と立ち尽くす私(と、モモちゃんに守られてかろうじて生き残った騎士一名)だけが残された。

「ふう、ようやく終わりかしら。思ったより楽しませてくれたわね」

私は満足げに息をつき、『虚ろなる月の瞳』を懐にしまう。
生き残った騎士は、もはや言葉を発することもできず、ただガクガクと震えながら私を見上げていた。
彼の目には、私がもはや人間ではない、何か恐ろしい存在に見えていることだろう。それでいいのよ。

「さて、帰りましょうか。王都では、皆が聖女様の帰還を待ちわびていることでしょうから」

私は何事もなかったかのように微笑み、聖域を後にする。
モモちゃんは私の肩で、満足そうに銀色の輝きを放っていた。

王都への帰路、私の頭の中は、次に手に入れるべき「鍵」と、それが眠るという「古の地下迷宮」のことでいっぱいだった。

『虚ろなる月の瞳』が示したビジョンによれば、そこはさらに危険で、さらに面白い「遊び場」になりそうだったから。 
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