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第21話:凱旋と囁きの地下迷宮
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王都アウレリアへの帰還は、予想通りの熱狂をもって迎えられた。
「聖女様がお戻りになられたぞ!」
「嘆きの森を浄化し、聖遺物を持ち帰られたそうだ!」
民衆は沿道に溢れ、私の名を呼び、花を投げる。
私は純白のローブを纏い、愛馬の上から彼らに慈愛に満ちた微笑みを振りまいた。
もちろん、その笑顔の裏で、彼らの単純さを嘲笑っていることなど誰も知らない。
「皆さま、神のご加護と、勇敢なる騎士たちの働きにより、このリリアーナ、無事に使命を果たすことができました。この聖遺物『虚ろなる月の瞳』は、必ずや王国にさらなる繁栄をもたらすでしょう」
大聖堂の前で、私は高らかに宣言する。
民衆のボルテージは最高潮に達し、聖女への賛美の声が天を突くように響き渡った。
さて、この凱旋劇の裏で、一つ処理しておかなければならないことがあった。
そう、あの「嘆きの森」から唯一生き残った騎士のことだ。彼は、私の「聖女」らしからぬ戦いぶりと、モモちゃんの真の姿、そして私の冷酷な一面を目の当たりにしてしまった。
このまま野放しにしておくのは、少々都合が悪い。
王宮の自室に戻った私は、早速その騎士を呼び出した。彼は私の前に跪き、恐怖に体を小刻みに震わせている。
「聖女様……この度のご武運、まことにお慶び申し上げます……」
「ええ、ありがとう。あなたの働きも、決して忘れはしませんわ」
私は彼に優しく微笑みかけ、そっとその肩に手を置く。
「あなたは、私の秘密を共有する、数少ない『特別な存在』になりました。これからも、私のために尽くしてくれますわね?」
私の指先から、微量の、しかし確実に精神を蝕む魔力が流れ込む。
騎士の目は一瞬抵抗の色を見せたが、すぐに虚ろになり、焦点が合わなくなった。
「は……はい……聖女様のためならば……この命……」
「よろしい。あなたは、今回の任務で勇敢に戦い、そして名誉の負傷を負った英雄として、手厚い治療と恩給を受けることになるでしょう。そして、私の『言葉』以外は、何も覚えていない……それでいいわね?」
「はい……聖女様の……お言葉のままに……」
これで一件落着。
哀れな騎士は、私の忠実な人形の一体に成り下がった。
モモちゃんが、私の足元で満足そうにプルプルと震えている。
まるで「お見事です、ご主人様」とでも言っているようだわ。
その後、私は神官長に『虚ろなる月の瞳』を披露し、その「聖なる力」について適当に説明した。神官長は、聖遺物のあまりの神々しさに感涙にむせび、私の「偉業」を改めて称賛した。
もちろん、この宝玉が次なる「鍵」への道標であることなど、彼には微塵も話していない。
アルノー司祭も、私の帰還を複雑な表情で迎えていた。
禁書庫での一件以来、彼は私への疑念をさらに深めているようだけれど、今のところ表立って何かをしてくる気配はない。
まあ、彼が何か面白い動きを見せてくれるなら、それはそれで歓迎だわ。
私の退屈しのぎにはなるでしょうから。
夜になり、自室で一人になった私は、改めて『虚ろなる月の瞳』を手に取った。
宝玉に意識を集中すると、脳裏に「古の地下迷宮」の光景がより鮮明に浮かび上がってくる。
王都の地下深くに広がる、広大な迷宮。
無数の罠、徘徊する魔物、そして、最深部で次なる「鍵」を守る、巨大な蜘蛛のような「番人」の姿……。
「ふふ、面白そうじゃないの。今度の遊び相手は蜘蛛さんかしら」
私は口元に笑みを浮かべる。
『虚ろなる月の瞳』は、迷宮の入り口の場所も示していた。
それは、王宮の地下、普段は誰も立ち入らない古い食料貯蔵庫の奥深くに隠されているらしい。
「モモちゃん、次の冒険の準備を始めましょうか」
私の言葉に、モモちゃんは嬉しそうに体を弾ませた。
最近のモモちゃんは、石の番人の核を取り込んだ影響か、体の一部を鉱石のように硬化させる能力がさらに向上しているみたい。
それに、影の化身との戦いで光への耐性も少しついたかもしれないわね。
ますます頼もしくなっていくわ。
まずは、地下迷宮に関する情報を集める必要がある。
王宮の書庫や、あるいは再び禁書庫に忍び込むのもいいかもしれない。
アルノーがまた何か面白い反応を見せてくれるかもしれないし。
そして、「影の評議会」の動きも警戒しておかなければ。
彼らが、私が次の「鍵」を手に入れるのを黙って見ているとは思えない。
きっと、また新たな刺客か、あるいはもっと厄介な罠を用意してくるでしょう。
「聖女様がお戻りになられたぞ!」
「嘆きの森を浄化し、聖遺物を持ち帰られたそうだ!」
民衆は沿道に溢れ、私の名を呼び、花を投げる。
私は純白のローブを纏い、愛馬の上から彼らに慈愛に満ちた微笑みを振りまいた。
もちろん、その笑顔の裏で、彼らの単純さを嘲笑っていることなど誰も知らない。
「皆さま、神のご加護と、勇敢なる騎士たちの働きにより、このリリアーナ、無事に使命を果たすことができました。この聖遺物『虚ろなる月の瞳』は、必ずや王国にさらなる繁栄をもたらすでしょう」
大聖堂の前で、私は高らかに宣言する。
民衆のボルテージは最高潮に達し、聖女への賛美の声が天を突くように響き渡った。
さて、この凱旋劇の裏で、一つ処理しておかなければならないことがあった。
そう、あの「嘆きの森」から唯一生き残った騎士のことだ。彼は、私の「聖女」らしからぬ戦いぶりと、モモちゃんの真の姿、そして私の冷酷な一面を目の当たりにしてしまった。
このまま野放しにしておくのは、少々都合が悪い。
王宮の自室に戻った私は、早速その騎士を呼び出した。彼は私の前に跪き、恐怖に体を小刻みに震わせている。
「聖女様……この度のご武運、まことにお慶び申し上げます……」
「ええ、ありがとう。あなたの働きも、決して忘れはしませんわ」
私は彼に優しく微笑みかけ、そっとその肩に手を置く。
「あなたは、私の秘密を共有する、数少ない『特別な存在』になりました。これからも、私のために尽くしてくれますわね?」
私の指先から、微量の、しかし確実に精神を蝕む魔力が流れ込む。
騎士の目は一瞬抵抗の色を見せたが、すぐに虚ろになり、焦点が合わなくなった。
「は……はい……聖女様のためならば……この命……」
「よろしい。あなたは、今回の任務で勇敢に戦い、そして名誉の負傷を負った英雄として、手厚い治療と恩給を受けることになるでしょう。そして、私の『言葉』以外は、何も覚えていない……それでいいわね?」
「はい……聖女様の……お言葉のままに……」
これで一件落着。
哀れな騎士は、私の忠実な人形の一体に成り下がった。
モモちゃんが、私の足元で満足そうにプルプルと震えている。
まるで「お見事です、ご主人様」とでも言っているようだわ。
その後、私は神官長に『虚ろなる月の瞳』を披露し、その「聖なる力」について適当に説明した。神官長は、聖遺物のあまりの神々しさに感涙にむせび、私の「偉業」を改めて称賛した。
もちろん、この宝玉が次なる「鍵」への道標であることなど、彼には微塵も話していない。
アルノー司祭も、私の帰還を複雑な表情で迎えていた。
禁書庫での一件以来、彼は私への疑念をさらに深めているようだけれど、今のところ表立って何かをしてくる気配はない。
まあ、彼が何か面白い動きを見せてくれるなら、それはそれで歓迎だわ。
私の退屈しのぎにはなるでしょうから。
夜になり、自室で一人になった私は、改めて『虚ろなる月の瞳』を手に取った。
宝玉に意識を集中すると、脳裏に「古の地下迷宮」の光景がより鮮明に浮かび上がってくる。
王都の地下深くに広がる、広大な迷宮。
無数の罠、徘徊する魔物、そして、最深部で次なる「鍵」を守る、巨大な蜘蛛のような「番人」の姿……。
「ふふ、面白そうじゃないの。今度の遊び相手は蜘蛛さんかしら」
私は口元に笑みを浮かべる。
『虚ろなる月の瞳』は、迷宮の入り口の場所も示していた。
それは、王宮の地下、普段は誰も立ち入らない古い食料貯蔵庫の奥深くに隠されているらしい。
「モモちゃん、次の冒険の準備を始めましょうか」
私の言葉に、モモちゃんは嬉しそうに体を弾ませた。
最近のモモちゃんは、石の番人の核を取り込んだ影響か、体の一部を鉱石のように硬化させる能力がさらに向上しているみたい。
それに、影の化身との戦いで光への耐性も少しついたかもしれないわね。
ますます頼もしくなっていくわ。
まずは、地下迷宮に関する情報を集める必要がある。
王宮の書庫や、あるいは再び禁書庫に忍び込むのもいいかもしれない。
アルノーがまた何か面白い反応を見せてくれるかもしれないし。
そして、「影の評議会」の動きも警戒しておかなければ。
彼らが、私が次の「鍵」を手に入れるのを黙って見ているとは思えない。
きっと、また新たな刺客か、あるいはもっと厄介な罠を用意してくるでしょう。
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