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第22話:禁断の知識とアルノーの影
しおりを挟む「古の地下迷宮」の入り口が王宮の地下にあると知った私は、早速情報収集を開始した。
まずは手始めに、王宮の書庫に忍び込むことにしたわ。
聖女の権限を使えば日中でも入れるけれど、夜中にこっそり探る方が、何かと都合がいいのよ。
面白い「おまけ」が見つかるかもしれないしね。
モモちゃんを肩に乗せ、音もなく書庫に侵入する。月明かりが差し込む静まり返った書庫は、昼間の喧騒が嘘のようだった。
「モモちゃん、地下迷宮に関する記述や、古い王宮の設計図みたいなもの、探せるかしら?」
私の問いに、モモちゃんはプルプルと体を震わせ、小さな鼻(のような器官)をクンクンさせながら書架の間を漂い始めた。
最近のモモちゃんは、特定のキーワードやイメージを伝えると、それに関連する情報を探し出す能力が向上しているみたい。本当に便利な子だわ。
しばらくして、モモちゃんがある一角で動きを止めた。そこは、王国の歴史や建築に関する古文書が収められている場所だった。
モモちゃんが指し示したのは、ひときわ分厚く、埃をかぶった革装丁の本。
「王都黎明期における地下構造物の考察」……ふむ、まさにドンピシャね。
その本を手に取り、パラパラとページをめくっていく。
そこには、現在の王宮が建設される以前、この地に存在したとされる古代の神殿や、その地下に広がっていたとされる迷宮に関する記述が、詳細な図面と共に記されていた。
そして、その迷宮の最深部には、「星詠みの祭壇」と呼ばれる場所があり、そこには強大な魔力が封じられている、とも。
「星詠みの祭壇……『影の書』が示した、蜘蛛の番人が守る次なる『鍵』は、そこにあると考えて間違いなさそうね」
私は口元に笑みを浮かべる。思った以上の収穫だわ。
しかし、その本の最後のページに、気になる記述を見つけた。
『――警告する。この地下迷宮は、単なる遺跡にあらず。それは古の神々が施した封印であり、人の手に余る力が眠る場所なり。深きに挑む者は、その魂の代償を覚悟せよ――』
魂の代償、ね。ますますそそられるじゃないの。
その時、不意に書庫の入り口の方で微かな物音がした。
(誰か来た……?)
私は素早く本を閉じ、モモちゃんと共に書架の陰に身を隠す。こんな夜更けに書庫を訪れるなんて、物好きな人もいたものね。
静かに足音が近づいてくる。
そして、私の隠れている書架のすぐ近くで、その足音は止まった。
月明かりに照らし出されたその影は……アルノー司祭だった。
(あらあら、アルノーじゃないの。あなたも夜型だったのね)
アルノーは、私が先ほどまで見ていた「王都黎明期における地下構造物の考察」と全く同じ本を、迷うことなく手に取った。
そして、まるで内容を熟知しているかのように、特定のページを開き、険しい表情で何かを読みふけっている。
(彼も、この地下迷宮について調べている……?それも、ただの偶然とは思えない手際の良さだわ)
禁書庫での一件以来、アルノーの行動には常に注意を払っていたけれど、これは一体どういうことかしら。彼も「鍵」を追っている?それとも、「影の評議会」と何か関係が?
しばらくして、アルノーは深いため息をつき、本を元の場所に戻した。
そして、まるで何かを決意したかのように、書庫のさらに奥、普段は誰も立ち入らない禁書区画の方へと歩を進めていく。
「モモちゃん、追ってみましょうか」
私の好奇心は、完全に刺激されていた。
アルノーがこんな夜中に、禁書区画で何をしようとしているのか、見届けてあげる必要があるわね。
アルノーの後を、音を殺して追跡する。彼は禁書区画の奥にある、隠し扉のような場所にたどり着くと、慣れた手つきでそれを開き、中へと消えていった。
(隠し扉……王宮の書庫に、そんな場所があったなんてね)
私もモモちゃんと共に、その隠し扉をそっと開け、中へと足を踏み入れた。
そこは、狭い螺旋階段が地下へと続いているようだった。微かに黴臭い空気が漂ってくる。
アルノーは、すでに階段をかなり下りていた。彼の持つ小さな灯りが、暗闇の中で揺れている。
(この階段、もしかして……地下迷宮に繋がっているのかしら?)
私の胸が高鳴る。
もしそうなら、アルノーは私にとって、予想外の「案内人」になってくれるかもしれないわね。
私はニヤリと笑みを浮かべ、アルノーに気づかれないように、慎重に、そして期待に胸を膨らませながら、暗く冷たい螺旋階段を下り始めた。
その先にあるのは、禁断の知識か、それとも新たな獲物か。どちらにしても、私の退屈を紛らわせてくれることだけは間違いなさそうだった。
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