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第31話:氷晶の玉座と白銀の支配者
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「どうやら、ご本尊のお出ましみたいね」
私が氷の扉に手を触れようとした瞬間、扉の表面に刻まれた複雑な氷の結晶の紋様が、淡い青色の光を放ち始めた。
そして、まるで意思を持ったかのように、重厚な氷の扉がゴゴゴゴ……という地響きと共に、ゆっくりと内側へと開いていく。
中から吹き付けてくる冷気は、これまでの比ではなく、肌を突き刺すような鋭さを持っていた。
騎士の一人が、あまりの寒さに歯の根をガチガチと鳴らしている。
情けないわね。
扉の奥に広がっていたのは、巨大な氷の洞窟だった。
天井からは無数の氷柱が垂れ下がり、壁はダイヤモンドダストのようにキラキラと輝いている。
そして、その洞窟の中央、ひときわ高くそびえ立つ氷の玉座のようなものの上に、それは鎮座していた。
「まあ……想像していたよりも、ずっと美しいじゃないの」
思わず感嘆の声が漏れる。
そこにいたのは、巨大な狼の姿をした獣だった。
しかし、その体毛は全て純白の氷の結晶でできており、月光を浴びたかのように青白い光を放っている。
長く鋭い牙も爪も、まるで研ぎ澄まされた氷の刃のようだ。
そして、その双眸は、凍てつく夜空を思わせる深い瑠璃色をしていた。
まさしく、この氷獄の支配者にふさわしい、神々しくも恐ろしい姿。
これが「氷雪の番人」ね。
番人は、私たち侵入者を認めたのか、ゆっくりと氷の玉座から立ち上がった。
その動作の一つ一つが、絶対的な力と威厳に満ちている。
そして、静かに、しかし洞窟全体を震わせるような低い唸り声を上げた。
ウオオオオオオォォン……。
その声は、まるで極寒の吹雪そのものが意思を持ったかのようだ。
「聖女様……あ、あれが……」
神官長が、恐怖と畏怖が入り混じった声で呟く。
アルノーは、その美しい獣の姿に一瞬見惚れていたようだが、すぐに我に返り、絶望的な表情で顔を伏せた。
生き残った二人の騎士は、もはや腰を抜かさんばかりに震え上がり、武器を取り落としそうになっている。
「ふふ、素敵なご挨拶ね、番人さん。
でも、私を怖がらせるには、ちょっと迫力が足りないかしら?」
私は鉄塊を肩に担ぎ、番人に向かって一歩踏み出す。
モモちゃんは私の肩の上で、その体をさらに硬質化させ、まるで氷の鎧を纏ったかのように変化していた。
どうやら、この極寒の環境が、モモちゃんに新たな力を与えているらしいわ。
面白い。
番人は、私が近づいてくるのを見ると、その瑠璃色の瞳を細め、次の瞬間、大きく口を開いた。
そして、そこから絶対零度の冷気を伴った、巨大な氷のブレスが放たれた!
ゴオオオオオッ!
ブレスは、触れるもの全てを一瞬にして凍てつかせながら、私に向かって殺到してくる。
「きゃっ、危ないじゃないの!」
私はわざとらしく悲鳴を上げながら、横っ飛びにそれを回避する。
ブレスが通過した後の床は、完全に凍りつき、鏡のように輝いていた。
もし直撃していたら、私もあの氷像の仲間入りだったかもしれないわね。
もちろん、そんなヘマはしないけれど。
「モモちゃん、あいつの動き、少し止めてもらえるかしら?
あまり動き回られると、狙いが定めにくいわ」
私の言葉に、モモちゃんは素早く反応した。
氷の鎧を纏ったモモちゃんは、まるで氷の弾丸のように番人に向かって飛びかかり、その鋭い爪や棘で番人の脚を攻撃し始めた。
番人は、鬱陶しそうにモモちゃんを振り払おうとするが、モモちゃんは素早い動きでそれをかわし、的確に攻撃を当てていく。
さすが私のペットね。
どんな相手だろうと、臆することなく立ち向かうわ。
「さて、番人さん。
あなたも、私と楽しい『鬼ごっこ』をしましょうか?
ただし、捕まったら……どうなるか、分かっているわよね?」
私は不敵な笑みを浮かべ、鉄塊を構え直す。
この氷の支配者を、どうやって弄んであげようかしら。
私が氷の扉に手を触れようとした瞬間、扉の表面に刻まれた複雑な氷の結晶の紋様が、淡い青色の光を放ち始めた。
そして、まるで意思を持ったかのように、重厚な氷の扉がゴゴゴゴ……という地響きと共に、ゆっくりと内側へと開いていく。
中から吹き付けてくる冷気は、これまでの比ではなく、肌を突き刺すような鋭さを持っていた。
騎士の一人が、あまりの寒さに歯の根をガチガチと鳴らしている。
情けないわね。
扉の奥に広がっていたのは、巨大な氷の洞窟だった。
天井からは無数の氷柱が垂れ下がり、壁はダイヤモンドダストのようにキラキラと輝いている。
そして、その洞窟の中央、ひときわ高くそびえ立つ氷の玉座のようなものの上に、それは鎮座していた。
「まあ……想像していたよりも、ずっと美しいじゃないの」
思わず感嘆の声が漏れる。
そこにいたのは、巨大な狼の姿をした獣だった。
しかし、その体毛は全て純白の氷の結晶でできており、月光を浴びたかのように青白い光を放っている。
長く鋭い牙も爪も、まるで研ぎ澄まされた氷の刃のようだ。
そして、その双眸は、凍てつく夜空を思わせる深い瑠璃色をしていた。
まさしく、この氷獄の支配者にふさわしい、神々しくも恐ろしい姿。
これが「氷雪の番人」ね。
番人は、私たち侵入者を認めたのか、ゆっくりと氷の玉座から立ち上がった。
その動作の一つ一つが、絶対的な力と威厳に満ちている。
そして、静かに、しかし洞窟全体を震わせるような低い唸り声を上げた。
ウオオオオオオォォン……。
その声は、まるで極寒の吹雪そのものが意思を持ったかのようだ。
「聖女様……あ、あれが……」
神官長が、恐怖と畏怖が入り混じった声で呟く。
アルノーは、その美しい獣の姿に一瞬見惚れていたようだが、すぐに我に返り、絶望的な表情で顔を伏せた。
生き残った二人の騎士は、もはや腰を抜かさんばかりに震え上がり、武器を取り落としそうになっている。
「ふふ、素敵なご挨拶ね、番人さん。
でも、私を怖がらせるには、ちょっと迫力が足りないかしら?」
私は鉄塊を肩に担ぎ、番人に向かって一歩踏み出す。
モモちゃんは私の肩の上で、その体をさらに硬質化させ、まるで氷の鎧を纏ったかのように変化していた。
どうやら、この極寒の環境が、モモちゃんに新たな力を与えているらしいわ。
面白い。
番人は、私が近づいてくるのを見ると、その瑠璃色の瞳を細め、次の瞬間、大きく口を開いた。
そして、そこから絶対零度の冷気を伴った、巨大な氷のブレスが放たれた!
ゴオオオオオッ!
ブレスは、触れるもの全てを一瞬にして凍てつかせながら、私に向かって殺到してくる。
「きゃっ、危ないじゃないの!」
私はわざとらしく悲鳴を上げながら、横っ飛びにそれを回避する。
ブレスが通過した後の床は、完全に凍りつき、鏡のように輝いていた。
もし直撃していたら、私もあの氷像の仲間入りだったかもしれないわね。
もちろん、そんなヘマはしないけれど。
「モモちゃん、あいつの動き、少し止めてもらえるかしら?
あまり動き回られると、狙いが定めにくいわ」
私の言葉に、モモちゃんは素早く反応した。
氷の鎧を纏ったモモちゃんは、まるで氷の弾丸のように番人に向かって飛びかかり、その鋭い爪や棘で番人の脚を攻撃し始めた。
番人は、鬱陶しそうにモモちゃんを振り払おうとするが、モモちゃんは素早い動きでそれをかわし、的確に攻撃を当てていく。
さすが私のペットね。
どんな相手だろうと、臆することなく立ち向かうわ。
「さて、番人さん。
あなたも、私と楽しい『鬼ごっこ』をしましょうか?
ただし、捕まったら……どうなるか、分かっているわよね?」
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