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第32話:氷刃乱舞と愉悦の戦慄
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「さて、番人さん。
あなたも、私と楽しい『鬼ごっこ』をしましょうか?
ただし、捕まったら……どうなるか、分かっているわよね?」
私の挑発に、氷雪の番人は再び低い唸り声を上げた。
その瑠璃色の瞳が、私を射抜くように見据えている。
モモちゃんがその脚に果敢に攻撃を仕掛けているが、番人はそれを意に介さず、その巨体をしなやかに動かし、私へと意識を集中させていた。
次の瞬間、番人の周囲の空間が歪み、無数の鋭い氷の刃が形成された。
それはまるで、意志を持ったかのように宙を舞い、私に向かって一斉に襲いかかってくる!
キィィン!という甲高い音と共に、氷刃の嵐が洞窟内を吹き荒れる。
「まあ、綺麗なこと!
まるでダイヤモンドの雨みたいね!」
私は鉄塊を巧みに操り、迫り来る氷刃を次々と弾き返し、あるいは砕いていく。
いくつかの氷刃が私のローブを掠め、肌を切り裂くが、そんな些細な痛みは、むしろ私の興奮を高めるだけだ。
もっと、もっと私を楽しませてちょうだい!
モモちゃんも、氷の鎧を纏ったその身で、番人の足元に張り付きながら、飛んでくる氷刃を器用に叩き落としている。
時折、その小さな口から鋭い氷の礫を吐き出し、番人の注意を散らす。
本当に、健気で有能なペットだこと。
「リリアーナ殿!
あの氷刃は、番人の魔力によって自動的に追尾してきますぞ!
お気をつけください!」
後方から、神官長が必死の形相で叫んでいる。
アルノーは、もはや祈るようなポーズで固まってしまっていた。
生き残った騎士たちは、いつの間にか互いに抱き合い、ガタガタと震えている。
まったく、役立たずな観客たちね。
でも、彼らの恐怖に歪んだ顔を見るのは、なかなかに愉快だわ。
「追尾ですって?
それは便利ね。
でも、私を捕まえられるかしら?」
私はわざとらしく氷刃の追撃をかわし続け、番人を翻弄する。
その巨体では、私の素早い動きについてこれないようね。
私は時折、番人の懐に飛び込んでは鉄塊で一撃を加え、すぐに離脱するというヒットアンドアウェイ戦法を繰り返した。
硬い氷の体毛に覆われた番人の体には、なかなか決定的なダメージを与えることはできないけれど、確実にその神経を逆撫でしているのは間違いなさそうだ。
「ウオオオオオオォォン!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、番人が怒りの咆哮を上げた。
その瞬間、洞窟全体の気温がさらに下がり、番人の体から猛烈な吹雪が巻き起こる。
視界は一瞬にして真っ白になり、肌を刺すような冷気が骨の髄まで凍えさせる。
「あらあら、ついに本気を出してきたのかしら?
でも、そんな子供騙しの目眩まし、私には通用しないわよ」
私は『虚ろなる月の瞳』と、先日手に入れた銀色の宝珠の力を同時に解放した。
二つの「鍵」から放たれる聖なる光と精神感応の力が混じり合い、私の周囲に薄い光のバリアのようなものを形成する。
吹雪の中でも、番人の位置、そしてその殺意が、手に取るように分かった。
(見つけたわ……あなたの弱点!)
吹雪の中で、番人の動きが一瞬だけ鈍った。
そして、その胸元、心臓があるであろう位置が、他の部位よりもわずかに魔力の輝きが薄いことに気づいた。
おそらく、あれが核ね。
どんなに強固な氷の鎧を纏っていようと、核を砕かれればおしまいよ。
私はモモちゃんに合図を送る。
モモちゃんは私の意図を即座に理解し、吹雪の中を一直線に番人の懐へと突っ込んでいった。
そして、その体を最大限に硬質化させ、まるで一本の巨大な氷の槍のように変化する。
「さあ、クライマックスの時間よ、番人さん!
氷の中で眠りなさい!」
私は鉄塊を天に掲げ、ありったけの魔力を込めて、番人の核があるであろう場所目掛けて跳躍した。
モモちゃんの氷の槍と、私の月光の鉄槌。
二つの力が合わされば、どんな氷壁も打ち砕けるはずだ。
あなたも、私と楽しい『鬼ごっこ』をしましょうか?
ただし、捕まったら……どうなるか、分かっているわよね?」
私の挑発に、氷雪の番人は再び低い唸り声を上げた。
その瑠璃色の瞳が、私を射抜くように見据えている。
モモちゃんがその脚に果敢に攻撃を仕掛けているが、番人はそれを意に介さず、その巨体をしなやかに動かし、私へと意識を集中させていた。
次の瞬間、番人の周囲の空間が歪み、無数の鋭い氷の刃が形成された。
それはまるで、意志を持ったかのように宙を舞い、私に向かって一斉に襲いかかってくる!
キィィン!という甲高い音と共に、氷刃の嵐が洞窟内を吹き荒れる。
「まあ、綺麗なこと!
まるでダイヤモンドの雨みたいね!」
私は鉄塊を巧みに操り、迫り来る氷刃を次々と弾き返し、あるいは砕いていく。
いくつかの氷刃が私のローブを掠め、肌を切り裂くが、そんな些細な痛みは、むしろ私の興奮を高めるだけだ。
もっと、もっと私を楽しませてちょうだい!
モモちゃんも、氷の鎧を纏ったその身で、番人の足元に張り付きながら、飛んでくる氷刃を器用に叩き落としている。
時折、その小さな口から鋭い氷の礫を吐き出し、番人の注意を散らす。
本当に、健気で有能なペットだこと。
「リリアーナ殿!
あの氷刃は、番人の魔力によって自動的に追尾してきますぞ!
お気をつけください!」
後方から、神官長が必死の形相で叫んでいる。
アルノーは、もはや祈るようなポーズで固まってしまっていた。
生き残った騎士たちは、いつの間にか互いに抱き合い、ガタガタと震えている。
まったく、役立たずな観客たちね。
でも、彼らの恐怖に歪んだ顔を見るのは、なかなかに愉快だわ。
「追尾ですって?
それは便利ね。
でも、私を捕まえられるかしら?」
私はわざとらしく氷刃の追撃をかわし続け、番人を翻弄する。
その巨体では、私の素早い動きについてこれないようね。
私は時折、番人の懐に飛び込んでは鉄塊で一撃を加え、すぐに離脱するというヒットアンドアウェイ戦法を繰り返した。
硬い氷の体毛に覆われた番人の体には、なかなか決定的なダメージを与えることはできないけれど、確実にその神経を逆撫でしているのは間違いなさそうだ。
「ウオオオオオオォォン!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、番人が怒りの咆哮を上げた。
その瞬間、洞窟全体の気温がさらに下がり、番人の体から猛烈な吹雪が巻き起こる。
視界は一瞬にして真っ白になり、肌を刺すような冷気が骨の髄まで凍えさせる。
「あらあら、ついに本気を出してきたのかしら?
でも、そんな子供騙しの目眩まし、私には通用しないわよ」
私は『虚ろなる月の瞳』と、先日手に入れた銀色の宝珠の力を同時に解放した。
二つの「鍵」から放たれる聖なる光と精神感応の力が混じり合い、私の周囲に薄い光のバリアのようなものを形成する。
吹雪の中でも、番人の位置、そしてその殺意が、手に取るように分かった。
(見つけたわ……あなたの弱点!)
吹雪の中で、番人の動きが一瞬だけ鈍った。
そして、その胸元、心臓があるであろう位置が、他の部位よりもわずかに魔力の輝きが薄いことに気づいた。
おそらく、あれが核ね。
どんなに強固な氷の鎧を纏っていようと、核を砕かれればおしまいよ。
私はモモちゃんに合図を送る。
モモちゃんは私の意図を即座に理解し、吹雪の中を一直線に番人の懐へと突っ込んでいった。
そして、その体を最大限に硬質化させ、まるで一本の巨大な氷の槍のように変化する。
「さあ、クライマックスの時間よ、番人さん!
氷の中で眠りなさい!」
私は鉄塊を天に掲げ、ありったけの魔力を込めて、番人の核があるであろう場所目掛けて跳躍した。
モモちゃんの氷の槍と、私の月光の鉄槌。
二つの力が合わされば、どんな氷壁も打ち砕けるはずだ。
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