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第33話:氷獄の終焉と三つ目の星影
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モモちゃんが変形した鋭利な氷の槍は、寸分の狂いもなく氷雪の番人の胸元、魔力の輝きが薄い核へと突き刺さった。
グシャッ!という鈍い音と共に、硬質な氷の装甲が砕け散る。
「グオオオオオオオオオオッ!」
番人は、これまでとは比較にならないほどの、魂を絞り出すような絶叫を上げた。
その巨体が激しく痙攣し、周囲の氷柱がガラガラと崩れ落ちる。
しかし、まだだ。
まだ、この美しい獣の命の灯火は消えていない。
「仕上げの時間よ、モモちゃん!」
私の声に呼応するように、天に掲げた鉄塊が『虚ろなる月の瞳』の銀色の光を吸収し、さらに禍々しい輝きを放ち始めた。
私は体重を乗せ、狙いを定めた番人の核目掛けて、渾身の力で鉄塊を叩きつける!
ズガァァァァンッ!
凄まじい轟音と共に、鉄塊はモモちゃんの槍が穿った傷をさらに抉り、番人の核を完全に粉砕した。
番人の瑠璃色の瞳から急速に光が失われ、その巨体はまるで操り糸の切れた人形のように力を失っていく。
全身を覆っていた氷の結晶が、キラキラと輝きながら剥がれ落ち、美しい氷の狼は、みるみるうちにただの氷塊へと変わっていく。
やがて、番人の体は完全に崩壊し、後には大量の氷の破片と、そして祭壇の上に静かに輝く一つの小さな物体だけが残された。
周囲を支配していた絶対零度の冷気も、少し和らいだように感じる。
「ふう……なかなか楽しませてくれたじゃないの、番人さん」
私は鉄塊を肩から下ろし、満足げに息をついた。
モモちゃんは、氷の鎧を解除しながら私の足元にすり寄ってくる。
その体は心なしか一回り大きくなり、纏う冷気がさらに鋭くなったように感じる。
番人の魔力を吸収したのかしら。
頼もしい限りだわ。
祭壇の上には、先ほどまで番人が守っていたのであろう、新たな「鍵」が静かに輝いていた。
それは、まるで凍てついた星の欠片のような、複雑な多面体を持つ水晶だった。
手を伸ばすと、ひんやりとした心地よい冷たさが伝わってくる。
「これが、三つ目の『鍵』……『星影のクリスタル』とでも名付けましょうか」
私がクリスタルを握りしめると、再び脳裏に新たなビジョンが流れ込んできた。
今度は、灼熱の砂漠にそびえ立つ古代遺跡。
そして、その奥で炎を纏う巨大な鳥のような番人の姿が見えた。
なるほど、次は炎の試練というわけね。
面白くなってきたじゃない。
「聖女様……あ、あの……」
生き残った騎士の一人が、震える声で私に話しかけてきた。
彼の顔は恐怖で引きつり、私とモモちゃんを交互に見ている。
もう一人の騎士は、完全に気を失っているようだった。
まったく、使えないわね。
「どうしたの?
何か言いたいことでもあるのかしら?」
私は、できる限り優しく、慈愛に満ちた聖女の笑みを浮かべて問いかける。
「い、いえ……ただ、聖女様のそのお力……まことに神々しい限りで……」
騎士はしどろもどろになりながら、必死で言葉を紡いだ。
その目には、もはや私を人間として見ていないような、畏怖の色が濃く浮かんでいる。
「当然よ。
私は神に選ばれし聖女なのだから。
あなたたちも、私のために命を捧げる覚悟はできているのでしょう?」
私の言葉に、騎士は顔面蒼白になりながら、必死に頷いた。
「さて、神官長、アルノー。
いつまでそこで震えているつもりかしら?」
私は、壁際にうずくまっていた二人に声をかける。
神官長は、ゆっくりと立ち上がり、私に向かって深々と頭を下げた。
「リリアーナ様……いえ、聖女リリアーナ様。
貴女様の御力、そしてご覚悟、しかと見届けさせていただきました。
もはや、我々が口を挟む余地などございません」
その声には、諦めと、そして新たな決意のようなものが混じっていた。
どうやら、私の「本当の姿」を理解し、それでもなお私を利用しようという腹積もりのようね。
面白いわ、その図太さ、嫌いじゃない。
アルノーは、依然として虚ろな目をしていたが、神官長に促され、おぼつかない足取りで立ち上がった。
彼の精神は、もう限界なのかもしれない。
まあ、壊れたおもちゃは、それはそれで使い道があるものよ。
「では、神官長。
この修道院のどこかに、王都へ戻るための近道でもあるのかしら?
さすがに、またあの雪原を歩いて帰るのは面倒だわ」
「はっ。
この祭壇の裏手に、古の転移魔法陣が隠されているはずです。
それを使えば、瞬時に王都の近くまで……」
「なら、さっさと案内なさい」
神官長の先導で、私たちは祭壇の裏手へと回った。
そこには、雪と氷に覆われた、しかし確かに魔法陣らしきものが描かれた床石があった。
モモちゃんがその上に乗り、プルプルと震えると、魔法陣が淡い光を放ち始める。
どうやら、モモちゃんの魔力に反応したらしいわね。
本当に、便利な子。
「では、帰りましょうか。
王都では、また退屈な日常が待っているのでしょうけれど……まあ、それも次の『遊び』までの、ちょっとした休憩だと思えばいいわ」
私は不敵な笑みを浮かべ、光り輝く魔法陣へと足を踏み入れた。
神官長と、アルノー、そして生き残った騎士が、恐る恐るそれに続く。
新たな「鍵」を手に入れ、私の力はさらに増した。
「影の評議会」とのゲームも、まだ始まったばかり。
次に私を待ち受けるのは、どんな刺激的な出来事かしら?
グシャッ!という鈍い音と共に、硬質な氷の装甲が砕け散る。
「グオオオオオオオオオオッ!」
番人は、これまでとは比較にならないほどの、魂を絞り出すような絶叫を上げた。
その巨体が激しく痙攣し、周囲の氷柱がガラガラと崩れ落ちる。
しかし、まだだ。
まだ、この美しい獣の命の灯火は消えていない。
「仕上げの時間よ、モモちゃん!」
私の声に呼応するように、天に掲げた鉄塊が『虚ろなる月の瞳』の銀色の光を吸収し、さらに禍々しい輝きを放ち始めた。
私は体重を乗せ、狙いを定めた番人の核目掛けて、渾身の力で鉄塊を叩きつける!
ズガァァァァンッ!
凄まじい轟音と共に、鉄塊はモモちゃんの槍が穿った傷をさらに抉り、番人の核を完全に粉砕した。
番人の瑠璃色の瞳から急速に光が失われ、その巨体はまるで操り糸の切れた人形のように力を失っていく。
全身を覆っていた氷の結晶が、キラキラと輝きながら剥がれ落ち、美しい氷の狼は、みるみるうちにただの氷塊へと変わっていく。
やがて、番人の体は完全に崩壊し、後には大量の氷の破片と、そして祭壇の上に静かに輝く一つの小さな物体だけが残された。
周囲を支配していた絶対零度の冷気も、少し和らいだように感じる。
「ふう……なかなか楽しませてくれたじゃないの、番人さん」
私は鉄塊を肩から下ろし、満足げに息をついた。
モモちゃんは、氷の鎧を解除しながら私の足元にすり寄ってくる。
その体は心なしか一回り大きくなり、纏う冷気がさらに鋭くなったように感じる。
番人の魔力を吸収したのかしら。
頼もしい限りだわ。
祭壇の上には、先ほどまで番人が守っていたのであろう、新たな「鍵」が静かに輝いていた。
それは、まるで凍てついた星の欠片のような、複雑な多面体を持つ水晶だった。
手を伸ばすと、ひんやりとした心地よい冷たさが伝わってくる。
「これが、三つ目の『鍵』……『星影のクリスタル』とでも名付けましょうか」
私がクリスタルを握りしめると、再び脳裏に新たなビジョンが流れ込んできた。
今度は、灼熱の砂漠にそびえ立つ古代遺跡。
そして、その奥で炎を纏う巨大な鳥のような番人の姿が見えた。
なるほど、次は炎の試練というわけね。
面白くなってきたじゃない。
「聖女様……あ、あの……」
生き残った騎士の一人が、震える声で私に話しかけてきた。
彼の顔は恐怖で引きつり、私とモモちゃんを交互に見ている。
もう一人の騎士は、完全に気を失っているようだった。
まったく、使えないわね。
「どうしたの?
何か言いたいことでもあるのかしら?」
私は、できる限り優しく、慈愛に満ちた聖女の笑みを浮かべて問いかける。
「い、いえ……ただ、聖女様のそのお力……まことに神々しい限りで……」
騎士はしどろもどろになりながら、必死で言葉を紡いだ。
その目には、もはや私を人間として見ていないような、畏怖の色が濃く浮かんでいる。
「当然よ。
私は神に選ばれし聖女なのだから。
あなたたちも、私のために命を捧げる覚悟はできているのでしょう?」
私の言葉に、騎士は顔面蒼白になりながら、必死に頷いた。
「さて、神官長、アルノー。
いつまでそこで震えているつもりかしら?」
私は、壁際にうずくまっていた二人に声をかける。
神官長は、ゆっくりと立ち上がり、私に向かって深々と頭を下げた。
「リリアーナ様……いえ、聖女リリアーナ様。
貴女様の御力、そしてご覚悟、しかと見届けさせていただきました。
もはや、我々が口を挟む余地などございません」
その声には、諦めと、そして新たな決意のようなものが混じっていた。
どうやら、私の「本当の姿」を理解し、それでもなお私を利用しようという腹積もりのようね。
面白いわ、その図太さ、嫌いじゃない。
アルノーは、依然として虚ろな目をしていたが、神官長に促され、おぼつかない足取りで立ち上がった。
彼の精神は、もう限界なのかもしれない。
まあ、壊れたおもちゃは、それはそれで使い道があるものよ。
「では、神官長。
この修道院のどこかに、王都へ戻るための近道でもあるのかしら?
さすがに、またあの雪原を歩いて帰るのは面倒だわ」
「はっ。
この祭壇の裏手に、古の転移魔法陣が隠されているはずです。
それを使えば、瞬時に王都の近くまで……」
「なら、さっさと案内なさい」
神官長の先導で、私たちは祭壇の裏手へと回った。
そこには、雪と氷に覆われた、しかし確かに魔法陣らしきものが描かれた床石があった。
モモちゃんがその上に乗り、プルプルと震えると、魔法陣が淡い光を放ち始める。
どうやら、モモちゃんの魔力に反応したらしいわね。
本当に、便利な子。
「では、帰りましょうか。
王都では、また退屈な日常が待っているのでしょうけれど……まあ、それも次の『遊び』までの、ちょっとした休憩だと思えばいいわ」
私は不敵な笑みを浮かべ、光り輝く魔法陣へと足を踏み入れた。
神官長と、アルノー、そして生き残った騎士が、恐る恐るそれに続く。
新たな「鍵」を手に入れ、私の力はさらに増した。
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