サイコパス聖女 〜裁きの鉄槌〜

シマセイ

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第39話:炎翼の飛翔と王都の動揺

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「さあ、行きましょうか、フェニックス。
もっと楽しい場所へ!」

私がそう言うと、炎鳥(私が勝手に「フェニックス」と名付けた)は、力強い翼を一度大きく羽ばたかせた。

轟音と共に熱風が巻き起こり、私たちは一気に空へと舞い上がる。

眼下には、みるみるうちに小さくなっていく「太陽の神殿」と、広大な砂漠が広がっていた。
空を飛ぶというのは、なかなかに爽快な気分ね。

鉄塊を振り回すのとはまた違った種類の高揚感があるわ。

モモちゃんは、フェニックスの頭の上で小さなスライム状に戻り、風に吹かれてプルプルと震えている。

なんだか楽しそうね。

神官長とアルノーは、フェニックスの背中に必死にしがみついていた。

特に神官長は、顔面蒼白で今にも気を失いそうだわ。

高所恐怖症なのかしら?面白い。

「リ、リリアーナ様!
こ、これは一体……!?」

神官長が、風に煽られながらも何とか声を絞り出す。

「見ての通りよ、神官長。
新しいお友達ができたの。
これなら、王都まであっという間でしょう?」

私は涼しい顔で答える。

実際、フェニックスの飛行速度は驚くほど速く、眼下の景色が猛スピードで移り変わっていく。

これなら、数日かかった砂漠の旅も、ほんの数時間で終えられそうだわ。

「し、しかし、このような巨大な炎の鳥を王都に……民が驚いてしまいます!」

「あら、聖女が神の使いである不死鳥を従えているのよ?
民衆はきっと、さらなる奇跡だと喜んでくれるわ。
それに、少しは刺激があった方が、退屈な日常も楽しくなるでしょう?」

私の言葉に、神官長はもはや反論する気力もないのか、ぐったりとフェニックスの羽根にしがみついている。

アルノーは……相変わらず虚ろな目で空を見つめているだけだった。

本当に、壊れたおもちゃは手がかからなくていいわね。

やがて、眼下に王都アウレリアの姿が見えてきた。

上空から見下ろす王都は、まるで精巧なミニチュアのようだわ。

フェニックスが王宮の上空を旋回すると、地上からは驚きの声と、やがて熱狂的な歓声が上がり始めた。

「見ろ!聖女様が伝説の鳥に乗っておられるぞ!」
「おお、神々しい……!」
「まさに生ける奇跡だ!」

民衆の反応は、私の予想通りだった。

彼らは単純だから、派手な演出にはすぐに飛びついてくる。

これでまた、私の「聖女」としての名声は高まることでしょう。

「影の評議会」とやらも、迂闊には手出しできなくなるかもしれないわね。

王宮の中庭にフェニックスが舞い降りると、衛兵たちが慌てて駆け寄ってきたが、私の姿を見るとすぐに跪いた。

国王陛下や王妃様も、驚いた表情でバルコニーからこちらを見ている。

いい気味だわ。

あなたたちの想像を遥かに超える存在が、今ここにいるのだから。

「神官長、アルノー。
ご苦労だったわね。
あとはよしなに計らってちょうだい。
私は少し、この子と遊んでくるから」

私は神官長に後処理を丸投げし、フェニックスの首筋を優しく撫でる。

フェニックスは心地よさそうに喉を鳴らした。

その姿は、もはや恐ろしい番人ではなく、忠実なペットそのものだった。

「さて、フェニックス。
王宮の庭で少し羽を伸ばしましょうか。
でも、あまり火を噴きすぎないようにね?
お花が可哀想だから」

私はフェニックスに囁きかけると、再び空へと舞い上がった。

王都の上空を旋回しながら、私は手に入れたばかりの銀色の宝珠『精神感応の珠』の力を試してみることにした。

意識を集中させると、王都に住む人々の様々な感情や思考が、まるで潮の満ち引きのように私の頭の中に流れ込んでくる。

喜び、悲しみ、怒り、欲望……。

ああ、なんて醜くて、なんて愛おしいのかしら、人間の感情というものは。

(この力を使えば、もっと面白いことができるかもしれないわね……)

私は新たな「おもちゃ」の可能性に、サイコパスな笑みを深めた。

「影の評議会」とのゲームも、まだまだ序盤。

そして、この世界には、まだ私の知らない「遊び」がたくさん隠されているはず。

私の心は、次なる刺激を求め、灼熱の炎のように燃え盛っていた。

王都の空に響き渡るフェニックスの神々しい鳴き声は、新たな波乱の幕開けを告げるファンファーレのようだった。
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