【完結】草食系貴族

シマセイ

文字の大きさ
15 / 62

第15話:魔術士と、ひらひら防魔草

トーナメント第2回戦。会場の熱気は、1回戦の「ネギ完封劇」によって、奇妙な静寂と興奮が入り混じったものへと変わっていた。

観客席の視線は、もはや「公爵家のハズレ息子」を見るものではない。「何をしでかすか分からない不気味な植物使い」を見る、警戒と好奇の視線だ。

「第2試合、ルーク・ラインハルト対、魔術科選抜・シリル!」

審判の声と共に、俺は再び舞台へと上がった。手に持っているのは、1回戦の「アイスバー・リーフ」……ではなく、その辺の道端に生えていた、何の変哲もない「ひらひらとした大きな雑草の葉」だ。

対戦相手のシリルは、小柄だがその瞳には強い魔力の光が宿っている。彼女は俺の手元にある「葉っぱ」を見て、不敵に口角を上げた。

「ルーク・ラインハルト。あなたの植物、驚きはしたけれど、物理的な現象なんて私の魔法の前では無力よ。近寄らせることさえしないわ」

シリルが杖を構える。その先端に、禍々しい紫色の炎が灯った。

「(うわ、出た。魔法エリート系だ……。遠距離攻撃が主体なら、こっちは防魔でいくしかないな)」

試合開始の鐘が鳴る直前。俺は足元に生えていた、これまたどこにでもある『防魔草(ぼうまそう)』という、微かに魔力を弾く性質を持つ雑草に手を触れた。

「(えーっと、まずは魔力吸収率をゼロに近づけて……。代わりに、あらゆる魔法属性を『受け流す』流線型の構造に書き換える。名付けて『防魔のハゴロモ』だ!)」

――【品種改良】、発動。

緑の光が葉を包んだ瞬間、俺の手元にあった雑草は、みるみるうちに薄く、しかし強靭な、まるで絹のような質感へと変化していった。その表面には、複雑な幾何学模様が「葉脈」として浮かび上がっている。

「……何それ。葉っぱを布にでも変えたの? そんな紙切れ、私の火球で灰にしてあげるわ!」

「まあ、やってみなよ。これ、結構サラサラしてて気持ちいいんだぜ」

「舐めないで! 『暗黒炎(ダーク・フレイム)』!」

シリルが杖を振ると、紫色の炎が蛇のようにのたうち回りながら、一直線に俺へと襲いかかった。

俺は手に持った「防魔のハゴロモ」を、飛んできた炎に向けて、扇子を仰ぐようにひらりと振った。

――フワッ。

炎が葉に触れた瞬間。紫色の炎は、まるで滑り台を滑るようにして、あらぬ方向――舞台の誰もいない隅の方へと弾け飛んでいった。

「な、なんですって!? 直撃したはずよ!」

「はい、残念。次はもっと狙いを定めてみなよ」

シリルが顔を真っ赤にして、次々と魔法を放つ。『氷の矢』、『雷の礫』。しかし、それらはすべて、俺がひらひらと葉っぱを振るたびに、面白いくらい外側へ受け流されていく。

「くっ、ならこれならどう!? 広範囲爆破魔法――」

「(おっと、それは温室のガラスが割れそうだから困るな)」

俺は防魔草を大きく一振りした。品種改良で追加した「風を操る」特性を全開にする。
 すると、シリルの放とうとした膨大な魔力が、防魔草の表面で渦を巻き、そっくりそのまま強烈な「突風」へと変換されてシリル本人を襲った。

「きゃあああ!?」

自分の魔力から生まれた突風に押し出され、シリルは無様に舞台の外へと転がり落ちた。

「……勝者、ルーク・ラインハルト! 魔法を……いなしたようです!」

審判も何が起きたのか正確に理解できていないようだったが、事実としてシリルは場外に消えていた。

俺が舞台を降りると、そこには目を輝かせたハンスと、なぜか自分の頬をパシパシと叩いているクラリスが待っていた。

「ルーク様、すごいです! 魔法を扇子みたいに弾いちゃうなんて、まるで物語の英雄ですよ!」

「いやぁ、ハンス。あれ、実はただの雑草だから、後で肥料にするつもりだけどな」

俺が楽天的に笑うと、隣にいたクラリスが俺の肩をガシッと掴んだ。

「ちょっとルーク! あなた、あの葉っぱ……後で絶対に私に貸しなさい! 魔法学の教科書が書き換わるわよ! 自分の魔力が反射されるなんて、屈辱を通り越して興味深すぎるわ!」

「お、お嬢様、落ち着いて。……それより、次の試合までにお腹空かない? さっきのブドウジュースがちょうど飲み頃になってるよ」

俺が差し出した「ブドウジュースの実(微炭酸仕様)」を、クラリスは「……飲むわよ、もう!」と奪い取るようにして一気に飲み干した。

「(さて、次は準決勝か。そろそろカイン兄上の息がかかった本命が出てきそうだな)」

あなたにおすすめの小説

「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」と追放された令嬢——王宮の食器が一枚も焼けなくなった

歩人
ファンタジー
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」——王宮御用達の食器を焼く伯爵令嬢エルザは、婚約者の第二王子に手の荒れを嗤われて追放された。十二歳から十年間、王宮の全ての食器を手ずから焼いてきた。彼女の食器は特殊な土と焼成技術で魔力を通し、毒に触れると色が変わる。料理の温度も保つ。追放から三ヶ月後、晩餐会で新しい食器を使ったところ、毒が検知されず隣国の大使が倒れた。外交問題に発展する中、第二王子が「食器くらい誰でも焼ける」と窯に立った結果、出来上がったのは歪んだ灰色の皿だった。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

無能令嬢の婚約破棄から始まる悠々自適で爽快なざまぁライフ

タマ マコト
ファンタジー
王太子妃内定を発表するはずの舞踏会で、リリアナは無能の烙印を押され、婚約を一方的に破棄される。幼少期の事故で封じられていた強大な魔力と、その恐怖を抱えたまま、彼女は反論すらできず王都から追放される。だがその裏では、宰相派による政治的策略と、彼女の力を利用し隠してきた王家と貴族の思惑が渦巻いていた。すべてを失った夜、リリアナは初めて「役目ではなく自分の意思で生きる」選択を迫られ、死地と呼ばれる北辺境へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。