【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

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第20話 三国同盟

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交流戦、最終競技の日。
学院最大の闘技場は、かつてないほどの熱気に包まれていた。アッシュ・リンクスという少年が巻き起こした数々の「奇跡」の結末を、王侯貴族から一般市民まで、誰もが見届けようと集まっていたのだ。

選手控え室では、リリアナとアレクシスが、アッシュに最後の作戦を伝えていた。

「いい、アッシュ君。最後の競技はチーム戦よ。相手チームの旗を奪い、自分たちの旗を守り抜く。戦略と連携が全てなの」

「つまりだ、リンクス」
アレクシスが、もはや彼の分析官と化したような口調で続ける。

「君の役目は、我々の旗のそばに、ただ、いることだ。絶対にそこを動くな。そして、物を投げるな。光るものに触るな。いいね?」

「わかった!最高の『旗の見張り番』になるよ!見張りしながら、お菓子食べてもいいかな?」

アッシュの呑気な返事に、二人は深いため息をついた。

最終競技『模擬騎士戦(ロイヤル・ナイツ・バトル)』の火蓋が切られた。
闘技場の四隅に、それぞれの王国の旗が立てられ、代表チームがその前に陣取る。

チーム・アストリアは、アッシュ、リリアナ、アレクシスの三人。
対するは、蒼氷帝国、砂漠の王国、鉄鋼ドワーフ連邦の、それぞれ精鋭で固められた三チーム。

開始の角笛が鳴り響く。
観客は、三国のチームが、互いに牽制し合い、陣形を整えるものだと思っていた。
しかし、次の瞬間、闘技場にいる誰もが、自分の目を疑った。

蒼氷帝国、砂漠の王国、鉄鋼ドワーフ連邦。
三つのチーム、合計九名の選手たちが、互いに武器を向けることなく、まるで一つの軍隊のように、ぴたりと動きを合わせたのだ。
そして、その全員が、ゆっくりと、しかし、寸分の乱れもなく、一つの目標に向かって前進を開始した。

その目標とは――チーム・アストリアの陣地。

「……そん、な……」
リリアナの顔から、血の気が引いた。

「三国同盟……!?ありえないわ!」

「いや、これこそが、あの男に対する、彼らなりの『答え』なのだ」
アレクシスは、静かに剣を抜きながら、覚悟を決めた目で呟いた。
九対三。いや、実質、九対一の戦いが始まろうとしていた。

「わあ!みんな、こっちに遊びに来てくれるみたいだ!やっほー!」

旗のそばで座っていたアッシュだけが、陽気に手を振っている。

三国同盟軍は、アストリア陣地の手前で、ぴたりと足を止めた。
彼らは、無謀な突撃などしない。完璧に連携された、必殺の布陣を敷く。

「プランA、開始!ブロック殿、お願い!」
アミーラ王女が、合図を送る。

「おう、任せとけ!『大地の城壁(アース・ウォール)』!」

ブロック王子と二人のドワーフ戦士が、大地を強く踏みしめる。
すると、轟音と共に、アストリアの陣地を囲むように、巨大な岩の壁が瞬時に隆起した。
アッシュたちは、完全に、岩のドームの中に閉じ込められてしまったのだ。

「次は、我々だ!『吹雪の帳(ブリザード・ヴェール)』!」
クラウス皇子が、岩壁の外側に、全てを凍てつかせる魔力の吹雪を発生させる。

「仕上げですわ!『陽炎の結界』!」
アミーラの召喚した精霊たちが、その周囲に陽炎を生み出し、外部からのいかなる探知も妨害する。

完璧な、三重の封印結界。
彼らの作戦は、アッシュを倒すことではなかった。
彼を、試合の舞台から完全に「隔離」し、無力化すること。そして、残った三チームで、改めて優勝を争うという、極めて合理的で、賢明な作戦だった。

岩のドームの中は、光も届かず、息が詰まるようだった。

「閉じ込められた……!なんて連携なの……」
リリアナが、絶望的な声を上げる。

「これでは、外の旗を奪いに行くこともできない。このままでは、我々の負けだ」
アレクシスも、厳しい表情で呟いた。

そんな中、アッシュは不満そうに言った。

「なんだか、ここ、暗くて狭くてやだなあ。お空が見えないし、売店のいい匂いもしない」

彼は、目の前にある分厚い岩の壁に近づくと、ぺたり、と手のひらを当てた。
そして、祖父の言葉を思い出す。
『大きな岩が道を塞いでおったらな、力ずくで動かそうとするな。岩にも、心はあるんじゃ。静かに、どいておくれ、と話しかけてみろ』

アッシュは目を閉じ、岩に「話しかけた」。
(あのー、岩さん、すみません。ちょっと、そこをどいてくれませんか?窮屈なので)

彼の底なしの生命エネルギーが、ドワーフの生み出した土の魔法と共鳴する。
岩の壁は、砕けも、崩れもしなかった。
ただ、主の「お願い」を聞き入れるかのように、静かに、そして、滑らかに、大地の中へと沈み始めたのだ。

ゴゴゴゴゴ……。

結界の外で、自分たちの完璧な作戦成功を確信していた三国同盟の選手たち。
彼らは、自分たちが作り上げたはずの岩の牢獄が、まるで意思を持ったかのように、ひとりでに地面の中へ消えていくという、信じがたい光景を目の当たりにしていた。

やがて、岩壁は完全に消え去り、中から、アッシュたち三人が、無傷のまま姿を現した。
アッシュは、ぱんぱん、と服の埃を払いながら、満足そうに言った。

「うん、これでよし。やっぱり、お空が見える方が気持ちいいね!」

三国同盟、九人の精鋭たち。
彼らは、自分たちの最強の切り札が、いともたやすく破られたという現実を前に、ただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。
彼らの顔には、共通の思いが浮かんでいた。

(……どうやって、これを倒せと?)
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