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第31話 旅立ちの準備
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玉座の間での、あまりにも壮大な、そして、あまりにも呑気な勅命拝受から、数時間後。
アッシュたちは、王宮の一室で、国王、エリアス学院長、そして、セラフィーナ隊長を交えた、最初の作戦会議に臨んでいた。
もちろん、アッシュは、王から下賜された、山のようなお菓子を、幸せそうに頬張りながら、会議に参加している。
「『始祖の魔導書』の記述によれば、四つの『礎石』のうち、最初に向かうべきは、『風の礎石』じゃ」
エリアスが、古文書の写しを広げながら説明する。
「それは、はるか西、大洋を越えた先にある、古代『ゼファー帝国』の遺跡に眠っている、と記されておる」
「ゼファー帝国……。数百年前、忽然と姿を消した、伝説の風の都か。船での、長い旅路になるな」
王が、厳しい表情で頷く。
世界の命運を左右する、壮大な旅。その始まりに、部屋の空気は、自然と緊張に包まれた。
「この重大な任務、アッシュ・リンクス一人に任せるわけにはいかぬ」
王の言葉に、エリアスが静かに頷いた。
「陛下のおっしゃる通りです。彼の仲間である、リリアナ君の博識と冷静な判断力、そして、アレクシス君の剣技と、彼を間近で見てきた経験は、この任務に不可欠でしょう」
「うむ。リリアナ、アレクシス・フォン・ヴァイス。両名に、国王の名において、『勇者の継承者付き王室従騎士』の位を授ける。アッシュ・リンクスを支え、この任務を、必ずや成功に導くのだ」
「ははっ!」
アレクシスは、厳粛な面持ちで、騎士の礼を取った。
「この身に余る光栄です」
リリアナもまた、決意を秘めた瞳で、深く、頭を下げた。
「セラフィーナ隊長。彼らに、王家が所有する最速の帆船と、十分な資金、そして、最高の装備を、惜しみなく与えるように」
「御意に」
セラフィーナは、完璧な敬礼を返した。その鋭い視線は、まだお菓子を頬張っているアッシュに、一瞬だけ注がれた。
出発を前に、アッシュは、家族に挨拶をするため、一度、家に帰ることにした。
もちろん、リリアナとアレクシスも、一緒だ。
「じいちゃん!僕たち、今度、大きな船に乗って、冒険に行くことになったんだ!『やくさい』っていう悪い奴が出てこないように、キラキラした石を探しに行くんだって!」
アッシュが、自分なりの言葉で、事の次第を祖父に説明する。
祖父は、縁側でお茶をすすりながら、全てを聞いても、全く驚いた様子を見せなかった。
「ほう、『礎石』探しか。懐かしいのう。そろそろ、誰かが、手入れをせねばならん頃じゃとは思っておったわい」
その落ち着き払った様子に、リリアナは、勇気を出して尋ねた。
「おじいさま!西にあるという、『風の礎石』について、何かご存知ですか?」
「ん?ああ、あの、風の強いところか。昔、一度だけ行ったことがあるのう。真っ白な塔が、たくさんある、綺麗な街じゃった。あそこの干しブドウは、絶品じゃったわい」
祖父は、呑気に、グルメレポートを始めた。そして、何かを思い出したように、家の奥から、古くて、傷だらけの、奇妙な方位磁石を取り出してきた。
「ほれ、これを持っていくといい。北を指さん、変わった代物じゃがな」
アレクシスが、それを手に取り、眉をひそめる。
「……これは、壊れています。針が、ただ、くるくると回るだけで……」
「壊れてはおらんよ」
祖父は、楽しそうに笑った。
「そいつは、北は指さん。その代わりに、持ち主が、『心の底から、本当に欲しているもの』の方角を、指し示してくれるんじゃ。アッシュのような、食いしん坊にとっては、世界で最も信頼できる、方位磁石じゃろうて」
祖父は、その『おやつコンパス』を、アッシュに手渡した。
数日後。王都の港。
王家が用意した、白く、美しい帆船が、三人の旅立ちを待っていた。
セラフィーナ隊長が、最後の見送りに来ている。
「いよいよ、出発ね」
リリアナが、広大な海を見つめ、決意を新たにする。
アレクシスは、早速、海図を広げ、航路の計算を始めた。
そして、アッシュは。
船の先端に立ち、祖父にもらった、新しいおもちゃである方位磁石を、かざしていた。
「アッシュ君、コンパスは、どっちを指してる?ゼファー帝国の方角は、わかる?」
リリアナが、期待を込めて尋ねる。
アッシュは、コンパスを、高々と掲げた。
くるくると回っていた針は、やがて、ぴたり、と、ある一点を指し示した。
「うん!こっちの方角だって!この先の島を越えたあたりに、イカの丸焼きが、すっごく美味しい港があるって、教えてくれてる!」
セラフィーナは、その光景を、ただ、静かに、遠い目で見送っていた。
世界の命運を乗せた船は、今、一人の少年の、尽きることのない食欲に導かれて、広大な、そして、波乱に満ちた大海原へと、その帆を上げたのだった。
アッシュたちは、王宮の一室で、国王、エリアス学院長、そして、セラフィーナ隊長を交えた、最初の作戦会議に臨んでいた。
もちろん、アッシュは、王から下賜された、山のようなお菓子を、幸せそうに頬張りながら、会議に参加している。
「『始祖の魔導書』の記述によれば、四つの『礎石』のうち、最初に向かうべきは、『風の礎石』じゃ」
エリアスが、古文書の写しを広げながら説明する。
「それは、はるか西、大洋を越えた先にある、古代『ゼファー帝国』の遺跡に眠っている、と記されておる」
「ゼファー帝国……。数百年前、忽然と姿を消した、伝説の風の都か。船での、長い旅路になるな」
王が、厳しい表情で頷く。
世界の命運を左右する、壮大な旅。その始まりに、部屋の空気は、自然と緊張に包まれた。
「この重大な任務、アッシュ・リンクス一人に任せるわけにはいかぬ」
王の言葉に、エリアスが静かに頷いた。
「陛下のおっしゃる通りです。彼の仲間である、リリアナ君の博識と冷静な判断力、そして、アレクシス君の剣技と、彼を間近で見てきた経験は、この任務に不可欠でしょう」
「うむ。リリアナ、アレクシス・フォン・ヴァイス。両名に、国王の名において、『勇者の継承者付き王室従騎士』の位を授ける。アッシュ・リンクスを支え、この任務を、必ずや成功に導くのだ」
「ははっ!」
アレクシスは、厳粛な面持ちで、騎士の礼を取った。
「この身に余る光栄です」
リリアナもまた、決意を秘めた瞳で、深く、頭を下げた。
「セラフィーナ隊長。彼らに、王家が所有する最速の帆船と、十分な資金、そして、最高の装備を、惜しみなく与えるように」
「御意に」
セラフィーナは、完璧な敬礼を返した。その鋭い視線は、まだお菓子を頬張っているアッシュに、一瞬だけ注がれた。
出発を前に、アッシュは、家族に挨拶をするため、一度、家に帰ることにした。
もちろん、リリアナとアレクシスも、一緒だ。
「じいちゃん!僕たち、今度、大きな船に乗って、冒険に行くことになったんだ!『やくさい』っていう悪い奴が出てこないように、キラキラした石を探しに行くんだって!」
アッシュが、自分なりの言葉で、事の次第を祖父に説明する。
祖父は、縁側でお茶をすすりながら、全てを聞いても、全く驚いた様子を見せなかった。
「ほう、『礎石』探しか。懐かしいのう。そろそろ、誰かが、手入れをせねばならん頃じゃとは思っておったわい」
その落ち着き払った様子に、リリアナは、勇気を出して尋ねた。
「おじいさま!西にあるという、『風の礎石』について、何かご存知ですか?」
「ん?ああ、あの、風の強いところか。昔、一度だけ行ったことがあるのう。真っ白な塔が、たくさんある、綺麗な街じゃった。あそこの干しブドウは、絶品じゃったわい」
祖父は、呑気に、グルメレポートを始めた。そして、何かを思い出したように、家の奥から、古くて、傷だらけの、奇妙な方位磁石を取り出してきた。
「ほれ、これを持っていくといい。北を指さん、変わった代物じゃがな」
アレクシスが、それを手に取り、眉をひそめる。
「……これは、壊れています。針が、ただ、くるくると回るだけで……」
「壊れてはおらんよ」
祖父は、楽しそうに笑った。
「そいつは、北は指さん。その代わりに、持ち主が、『心の底から、本当に欲しているもの』の方角を、指し示してくれるんじゃ。アッシュのような、食いしん坊にとっては、世界で最も信頼できる、方位磁石じゃろうて」
祖父は、その『おやつコンパス』を、アッシュに手渡した。
数日後。王都の港。
王家が用意した、白く、美しい帆船が、三人の旅立ちを待っていた。
セラフィーナ隊長が、最後の見送りに来ている。
「いよいよ、出発ね」
リリアナが、広大な海を見つめ、決意を新たにする。
アレクシスは、早速、海図を広げ、航路の計算を始めた。
そして、アッシュは。
船の先端に立ち、祖父にもらった、新しいおもちゃである方位磁石を、かざしていた。
「アッシュ君、コンパスは、どっちを指してる?ゼファー帝国の方角は、わかる?」
リリアナが、期待を込めて尋ねる。
アッシュは、コンパスを、高々と掲げた。
くるくると回っていた針は、やがて、ぴたり、と、ある一点を指し示した。
「うん!こっちの方角だって!この先の島を越えたあたりに、イカの丸焼きが、すっごく美味しい港があるって、教えてくれてる!」
セラフィーナは、その光景を、ただ、静かに、遠い目で見送っていた。
世界の命運を乗せた船は、今、一人の少年の、尽きることのない食欲に導かれて、広大な、そして、波乱に満ちた大海原へと、その帆を上げたのだった。
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