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第45話 天への階段
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ドワーフの王子ブロックという、あまりにも頼もしい(そして、騒がしい)案内役を得た一行は、ついに、世界最高峰、天衝山セイルスへの、本格的な登山を開始した。
「いいか、若いの!山と喧嘩するんじゃねえ!山と、踊るんだ!山の、リズムを感じるんだよ!」
ブロックは、さすが、山の民だった。彼は、安全な道を見極め、雪崩の危険を察知し、体力を温存するための、効率的な歩き方を、三人に、的確に指導していく。
しかし、それでも、天衝山の試練は、過酷を極めた。
標高が上がるにつれて、空気は、ナイフのように、冷たく、鋭利になっていく。呼吸をするだけで、肺が痛んだ。
リリアナとアレクシスは、ドワーフ製の、最高品質の登山用具と、クラウス皇子から贈られた、耐寒のお守りをもってしても、その、あまりの過酷さに、息を切らし始めていた。
「はあ……っ、はあ……。リンクス……。君は、なぜ、平然としているんだ……?」
アレクシスが、苦しそうに、尋ねる。
アッシュは、そんな二人を、不思議そうに見ていた。
「え?そうかなあ?なんだか、ここの空気、薄いけど、すごく、きれいで、綿あめみたいに、ほんのり甘い味がして、おいしいよ!」
彼の、勇者の血を引く肉体は、普通の人間には、毒にすらなる、高純度の魔力が満ちた、高地の空気を、逆に、効率のいい、エネルギー源として、体内に取り込むことができたのだ。
もちろん、彼にとっては、それが「美味しい空気」という、認識でしかなかったが。
ブロックは、その様子を、にやりと笑って見ていた。
「がっはっは!すげえな、アッシュの奴は!山そのものを、食って、力に変えやがる!こりゃあ、たまげたぜ!」
数日後。一行の行く手を、巨大な、垂直の氷壁が、完全に、塞いでいた。
高さ、数百メートル。古代の魔法によって、凍りついた、大氷壁だ。
「『大氷瀑』……。天衝山の、最初の、本当の試練だ」
ブロックが、厳しい顔で、氷壁を見上げる。
「普通のピッケルじゃ、歯が立たねえ。魔法と、特殊な道具で、少しずつ、道を切り開きながら登るしかない。数日は、かかるのを、覚悟しなきゃならねえな」
一行が、その、途方もない作業に、取り掛かろうとした、その時。
氷壁の上から、低い、唸り声が、響き渡った。
そして、その姿を現したのは、氷壁の守護者。
氷と雪でできた、巨大な、猿のような姿の魔獣、『霜の巨人(フロスト・タイラント)』だった。
霜の巨人は、侵入者である一行を見つけると、威嚇の咆哮を上げ、巨大な氷柱を、その剛腕で、引き抜いた。
「まずい!戦闘準備だ!」
ブロックが、戦斧を構える。
しかし、アッシュは、そんなことには、全く、気づいていなかった。
彼は、ただ、急激に下がった気温に、少しだけ、肌寒さを感じていただけだった。
「うー、なんだか、ちょっと、寒くなってきたなあ。じいちゃんが、言ってたっけ。寒い時は、準備運動をするのが、一番だって」
アッシュは、その場で、祖父に教わった、準備運動を、始めた。
それは、一見すると、ただの、簡単な、伸び縮みの運動。
しかし、その実態は、勇者の血筋にのみ伝えられる、体内の生命エネルギーを、増幅させ、循環させるための、基礎的な「型」だった。
アッシュが、型を進めるにつれて、彼の体から、ふわり、と、穏やかな、熱気が、放たれ始めた。
それは、炎のような、暴力的な熱ではない。春の日だまりのような、純粋な、生命力そのものの、温もり。
彼を中心として、吹雪に閉ざされた、極寒の世界に、小さな、春の空間が、生まれたのだ。
純粋な、冷気の魔力で、構成された、霜の巨人にとって、その、あまりにも、心地よく、そして、あまりにも、異質な「生命の温もり」は、耐えがたい「不快感」だった。
影の住人が、太陽の光を、直接、浴びせられたようなものだ。
「……キィッ!?」
山の守護者は、情けない悲鳴を上げると、その、歩く太陽のような、小さな少年から、一目散に、逃げ出した。そして、氷壁の向こうへと、その姿を消してしまった。
一行は、呆然としていた。天衝山の、恐るべき番人が、ただの、準備運動によって、撃退されてしまったのだ。
しかし、奇跡は、それだけでは、終わらなかった。
アッシュが放つ、穏やかな熱気は、目の前の、古代の氷壁にも、影響を与え始めていた。
氷は、危険な、水の奔流となって溶けるのではない。
アッシュの生命エネルギーに、呼応し、その構造を、自ら、変質させていく。
目の前で、垂直だったはずの氷壁が、まるで、意思を持ったかのように、形を変え、滑りにくい、完璧な、巨大な「氷の階段」を、作り上げていったのだ。
「ふう、あったまった!あれ?見て、みんな!階段が、できてるよ!便利だなあ、ラッキー!」
アッシュは、自分が、無意識のうちに、作り出した階段を、嬉々として、登り始めた。
ブロックは、手に持った戦斧を、落としそうになりながら、呟いた。
「……山、そのものを、従わせやがった……。しかも、本人は、それを、『便利』だ、と……」
一行は、その、『アッシュの階段』を、登り始める。
世界の頂は、もう、すぐそこまで、迫っていた。
「いいか、若いの!山と喧嘩するんじゃねえ!山と、踊るんだ!山の、リズムを感じるんだよ!」
ブロックは、さすが、山の民だった。彼は、安全な道を見極め、雪崩の危険を察知し、体力を温存するための、効率的な歩き方を、三人に、的確に指導していく。
しかし、それでも、天衝山の試練は、過酷を極めた。
標高が上がるにつれて、空気は、ナイフのように、冷たく、鋭利になっていく。呼吸をするだけで、肺が痛んだ。
リリアナとアレクシスは、ドワーフ製の、最高品質の登山用具と、クラウス皇子から贈られた、耐寒のお守りをもってしても、その、あまりの過酷さに、息を切らし始めていた。
「はあ……っ、はあ……。リンクス……。君は、なぜ、平然としているんだ……?」
アレクシスが、苦しそうに、尋ねる。
アッシュは、そんな二人を、不思議そうに見ていた。
「え?そうかなあ?なんだか、ここの空気、薄いけど、すごく、きれいで、綿あめみたいに、ほんのり甘い味がして、おいしいよ!」
彼の、勇者の血を引く肉体は、普通の人間には、毒にすらなる、高純度の魔力が満ちた、高地の空気を、逆に、効率のいい、エネルギー源として、体内に取り込むことができたのだ。
もちろん、彼にとっては、それが「美味しい空気」という、認識でしかなかったが。
ブロックは、その様子を、にやりと笑って見ていた。
「がっはっは!すげえな、アッシュの奴は!山そのものを、食って、力に変えやがる!こりゃあ、たまげたぜ!」
数日後。一行の行く手を、巨大な、垂直の氷壁が、完全に、塞いでいた。
高さ、数百メートル。古代の魔法によって、凍りついた、大氷壁だ。
「『大氷瀑』……。天衝山の、最初の、本当の試練だ」
ブロックが、厳しい顔で、氷壁を見上げる。
「普通のピッケルじゃ、歯が立たねえ。魔法と、特殊な道具で、少しずつ、道を切り開きながら登るしかない。数日は、かかるのを、覚悟しなきゃならねえな」
一行が、その、途方もない作業に、取り掛かろうとした、その時。
氷壁の上から、低い、唸り声が、響き渡った。
そして、その姿を現したのは、氷壁の守護者。
氷と雪でできた、巨大な、猿のような姿の魔獣、『霜の巨人(フロスト・タイラント)』だった。
霜の巨人は、侵入者である一行を見つけると、威嚇の咆哮を上げ、巨大な氷柱を、その剛腕で、引き抜いた。
「まずい!戦闘準備だ!」
ブロックが、戦斧を構える。
しかし、アッシュは、そんなことには、全く、気づいていなかった。
彼は、ただ、急激に下がった気温に、少しだけ、肌寒さを感じていただけだった。
「うー、なんだか、ちょっと、寒くなってきたなあ。じいちゃんが、言ってたっけ。寒い時は、準備運動をするのが、一番だって」
アッシュは、その場で、祖父に教わった、準備運動を、始めた。
それは、一見すると、ただの、簡単な、伸び縮みの運動。
しかし、その実態は、勇者の血筋にのみ伝えられる、体内の生命エネルギーを、増幅させ、循環させるための、基礎的な「型」だった。
アッシュが、型を進めるにつれて、彼の体から、ふわり、と、穏やかな、熱気が、放たれ始めた。
それは、炎のような、暴力的な熱ではない。春の日だまりのような、純粋な、生命力そのものの、温もり。
彼を中心として、吹雪に閉ざされた、極寒の世界に、小さな、春の空間が、生まれたのだ。
純粋な、冷気の魔力で、構成された、霜の巨人にとって、その、あまりにも、心地よく、そして、あまりにも、異質な「生命の温もり」は、耐えがたい「不快感」だった。
影の住人が、太陽の光を、直接、浴びせられたようなものだ。
「……キィッ!?」
山の守護者は、情けない悲鳴を上げると、その、歩く太陽のような、小さな少年から、一目散に、逃げ出した。そして、氷壁の向こうへと、その姿を消してしまった。
一行は、呆然としていた。天衝山の、恐るべき番人が、ただの、準備運動によって、撃退されてしまったのだ。
しかし、奇跡は、それだけでは、終わらなかった。
アッシュが放つ、穏やかな熱気は、目の前の、古代の氷壁にも、影響を与え始めていた。
氷は、危険な、水の奔流となって溶けるのではない。
アッシュの生命エネルギーに、呼応し、その構造を、自ら、変質させていく。
目の前で、垂直だったはずの氷壁が、まるで、意思を持ったかのように、形を変え、滑りにくい、完璧な、巨大な「氷の階段」を、作り上げていったのだ。
「ふう、あったまった!あれ?見て、みんな!階段が、できてるよ!便利だなあ、ラッキー!」
アッシュは、自分が、無意識のうちに、作り出した階段を、嬉々として、登り始めた。
ブロックは、手に持った戦斧を、落としそうになりながら、呟いた。
「……山、そのものを、従わせやがった……。しかも、本人は、それを、『便利』だ、と……」
一行は、その、『アッシュの階段』を、登り始める。
世界の頂は、もう、すぐそこまで、迫っていた。
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