【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

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第44話 最後の旅路

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『人魚の涙』に、再び、穏やかな輝きを取り戻させたアッシュたちは、水の都セレニアの、国を挙げた、盛大な見送りを受けていた。

すっかり元気を取り戻した女王コーラリアは、アッシュに、王家秘伝の魚介料理のレシピ集と、国一番の特産品である、最高級の塩を、生涯分、贈呈した。
「あなた様のおじいさまの『魔法の塩』には、及ばないでしょうが」と、彼女は、悪戯っぽく、笑っていた。

一行は、女王から贈られた、川も遡上できる、特別な魔力船に乗り、大陸中央部へと、帰還の途についた。
目指すは、最後の礎石が眠る場所。
『世界の頂にて、眠る最後の炎。天に、最も近き場所』。
その条件に、当てはまる場所は、世界に、ただ一つしかなかった。
大陸の、中央に、天を貫いてそびえ立つ、世界最高峰、『天衝山(てんしょうざん)セイルス』。

旅の途中、一行が、とある中継の町に立ち寄った時のこと。
彼らを待っていたかのように、一人の人物が、姿を現した。
特務騎士団隊長、セラフィーナだった。彼女は、国王の命を受け、彼らの旅の進捗を、影ながら見守っていたのだ。

「ご苦労様です、皆さん。国王陛下からの、支援物資をお持ちしました」

セラフィーナが、彼らに手渡したのは、極寒の高地に対応するための、最新の防寒具と、高度な登山用具一式だった。

「あなた方の活躍は、すでに、各国に伝わっています。世界各地で観測されていた、魔力の乱れも、礎石が、その力を取り戻すたびに、少しずつ、安定を取り戻している、と」
彼女は、そこで、一度、言葉を切ると、厳しい表情で続けた。

「しかし、同時に、不穏な報告も、増えています。世界の、暗く、澱んだ場所に、影のような魔物が、目撃され始めた、と。『厄災』の、微かな目覚めの影響が、既に出始めているのです。『紅き月』が昇るまで、あと、三か月。残された時間は、多くありません」

その言葉が、一行に、改めて、旅の重要性と、時間的な制約を、突きつける。
しかし、セラフィーナは、悪い知らせだけを、持ってきたわけではなかった。

「これは、あなた方の『友人たち』からです」

蒼氷帝国のクラウス皇子からは、強力な耐寒の魔法が付与された、お守り。
砂漠の王国のアミーラ王女からは、天衝山へ至る、古の忘れられた道が記された、精密な地図。
そして、鉄鋼ドワーフ連邦のブロック王子からは、達人の職人が作り上げた、頑丈な登山用具一式と、「体を温めるためだ」という、やたらとアルコール度数の高そうな、ドワーフの蒸留酒。
かつて、競い合ったライバルたちが、今、それぞれの形で、アッシュたちの旅を、支えてくれていた。

長い旅路の果て、一行は、ついに、その、あまりにも巨大な山の麓に、たどり着いた。
世界最高峰、天衝山セイルス。
その頂は、常に、厚い雲と、吹雪に覆われ、窺い知ることはできない。
周辺には、木の一本も生えていない、荒涼とした、岩と氷の大地が、広がっていた。

「ここが……。空気が、薄い……」
リリアナは、早くも、高度の影響を感じ始めていた。

「覚悟を決めろ。ここからは、本当の、死と隣り合わせの登山になる」
アレクシスもまた、ドワーフ製の、頑丈なピッケルを握りしめ、表情を引き締める。

しかし、アッシュは。
彼は、天を突く、巨大な氷の塊のような山頂を、うっとりと、見上げていた。

「わあ……!すっごく、おっきな、かき氷みたいだ!バニラと、ブルーハワイ味の、特大かき氷だ!てっぺんからの景色は、きっと、最高だろうなあ!」

三人が、その、あまりにも過酷な、最初の一歩を、踏み出そうとした、その時。
背後から、聞き覚えのある、豪快な笑い声が、響き渡った。


三人が、その、あまりにも過酷な一歩を踏み出そうとした、その時。
背後から、聞き覚えのある、豪快な笑い声が、響き渡った。

「がっはっはっは!お前さんたちだけで、ワシらを置いて、本当の山登りを始めようって寸法かい!」

振り返ると、そこには、完璧な、冬山用の装備に身を包んだ、ドワーフの王子、ブロックと、その屈強な、二人の臣下の姿があった。

「ブロックさん!?」
アッシュが、驚いて、声を上げる。

「山のことなら、このドワーフに勝るもんは、いねえ!それに、ワシが認めた、一番の食いしん坊仲間が、世界一の山に登るってのに、案内役の一人もなしじゃ、ご先祖様に、顔向けできねえからな!」

彼は、アミーラから、アッシュたちの次の目的地を聞きつけ、いてもたってもいられず、自ら、駆けつけてきたのだ。

リリアナとアレクシスは、心強い、山の専門家の登場に、安堵の息を漏らす。
アッシュは、友との再会を、ただ、喜んでいた。

「ブロックさん!もしかして、あの、ドワーフの、美味しい干し肉、まだ持ってる!?」

「がっはっは!当たり前だ!腹が減っては、山は登れんからな!」

ブロックは、そう言うと、懐から、自慢の干し肉を取り出し、アッシュへと、放り投げた。

こうして、アッシュたちのパーティに、新たに、陽気で、頼もしい、ドワーフの仲間が、加わった。
最後の礎石、『世界の頂にて、眠る炎』を、求めて。
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