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第56話 仕掛けられた罠
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王宮の厨房は、今や、王国で、最も重要な、軍事施設となっていた。
作戦は、成功裏に完了し、アッシュの生命エネルギーが、たっぷりと注ぎ込まれた『黄金プリン』が、魔法の保冷箱に、数十個、備蓄されたのだ。
「よし、これで、いつでも、出発できるね!」
アッシュは、その、輝く兵器の山を前に、満足そうに頷いた。彼は、今すぐにでも、それを、全部、食べてしまいたいのを、必死に、我慢していた。
一行は、作戦会議室へと、戻った。
次の目的地を、決定するためだ。残る礎石は、二つ。ゼファーの『風の礎石』か、あるいは、まだ、場所もわからない、最後の、礎石か。
「論理的に考えれば、既知の、風の礎石の、守りを固めるのが、先決ですわね」
アミーラ王女が、冷静に、提案する。
誰もが、その意見に、同意しようとした、その時だった。
♢
世界の、どこかにある、光の届かない、静寂に包まれた、神殿。
そこに、『黎明の子供たち』は、いた。
五竜山で、アッシュに、敗北を喫した、部隊のリーダーが、首領である、銀色の瞳の男――サイラスに、報告をしていた。
「……申し上げます。彼の力、『黄金の光』は……我々の、想像を、遥かに、超えていました。それは、甘い、菓子に、凝縮され……」
その、あまりにも、馬鹿げた報告に、他の、ローブの者たちが、ざわめく。
しかし、サイラスは、動じなかった。
「……そうか。原初の、生命の輝き。混沌と、喜びに満ちた、純粋な、エネルギー。それが、人が、生きるために、最も、根源的な行為である、『食事』に、宿る、か。……歪んではいるが、理には、かなっている」
彼は、静かに、呟いた。
「我々の、秩序と、静寂の、魔力とは、まさしく、対極。正面から、ぶつかるのは、愚策だ」
彼は、傍らに立つ、ルナへと、視線を移した。
「ルナ。お前は、彼を、間近で見て、どう、感じた?」
「……彼は、空っぽの器のようです。しかし、その内側には、宇宙そのものが、眠っている。彼の、願いは、あまりにも、小さく、そして、あまりにも、大きい……」
ルナは、静かに、そう、答えた。
「……ならば、戦術を変えよう」
サイラスは、決断した。
「礎石を、直接、狙うのは、もう、やめだ。代わりに、『鍵』そのものを、我々の、舞台へと、誘い込む。白銀の光が、最も、強く、そして、黄金の光が、最も、その力を、失う、場所へ……」
彼は、古の地図を広げ、ある、一点を、指さした。
♢
アクアティアの王宮、作戦会議室では、
一行が、次の目的地について、議論を重ねていた、まさに、その時。
一羽の、伝書鳩が、エリアス学院長の元へ、一通の、手紙を、届けた。
差出人は、アッシュの、祖父だった。
それは、またしても、素朴な、絵葉書だった。
表面には、何だか、悲しそうな顔をした、魚の絵が、描かれている。
『よう、アッシュの、仲間たちよ。
坊主にやった、あの方位磁石の、調子が、近頃、おかしいんじゃ。おやつの方角を、指さんようになった。代わりに、北の海にある、『嘆きの島』という、場所を、指し示しておる。
昔、一度、行ったことがあるが、あそこの魚は、いつも、泣いておるから、塩辛すぎて、ちっとも、うまくなかったわい。何か、悲しいことが、起きているんじゃろう。
アッシュには、行かんように、言うといてくれ。まずい、食い物しか、ないからのう。
追伸、漬物が、そろそろ、いい塩梅じゃ』
エリアスは、その、呑気な手紙に、隠された、重大な、意味を、即座に、理解した。
『おやつコンパス』は、アッシュの、運命に、呼応する。それが、礎石以外の場所を、指し示すということは……。
「『嘆きの島』……?」
リリアナが、地図で、その場所を探す。
それは、どこの国にも属さない、北の、荒海に浮かぶ、小さな、孤島。古い言い伝えでは、「世界の、悲しみが、集まる場所」と、言われているらしい。
「罠だわ。我々を、礎石から、引き離すための」
リリアナが、即座に、結論づける。
「罠とわかって、乗る必要はない。予定通り、礎石の防衛を、固めるべきだ」
アレクシスも、同意する。
しかし、アッシュは、いつになく、真剣な顔をしていた。
「……お魚が、泣いてる……?」
彼は、静かに、呟いた。
「食べ物が、悲しいなんて、おかしいよ。誰かが、悲しくて、お魚まで、泣かせちゃってるなんて、そんなの、絶対に、ダメだ」
彼は、顔を上げ、仲間たちを、見つめた。
その瞳には、食欲でも、好奇心でもない。
ただ、純粋な、そして、規格外の、「共感」が、宿っていた。
「僕、『嘆きの島』に行く。泣いてる、お魚たちを、笑顔にしてあげないと」
一行の、次なる、目的地は、決定した。
それは、敵が、巧妙に、仕掛けた、罠の中。
しかし、彼らが、その罠に、足を踏み入れる理由は、いかなる、軍師も、賢者も、予測できないものだった。
「悲しくて、塩辛い魚を、救うため」。
世界の、おやつ防衛同盟は、今、その、あまりにも、優しくて、そして、あまりにも、ズレた、動機のために、再び、動き出す。
作戦は、成功裏に完了し、アッシュの生命エネルギーが、たっぷりと注ぎ込まれた『黄金プリン』が、魔法の保冷箱に、数十個、備蓄されたのだ。
「よし、これで、いつでも、出発できるね!」
アッシュは、その、輝く兵器の山を前に、満足そうに頷いた。彼は、今すぐにでも、それを、全部、食べてしまいたいのを、必死に、我慢していた。
一行は、作戦会議室へと、戻った。
次の目的地を、決定するためだ。残る礎石は、二つ。ゼファーの『風の礎石』か、あるいは、まだ、場所もわからない、最後の、礎石か。
「論理的に考えれば、既知の、風の礎石の、守りを固めるのが、先決ですわね」
アミーラ王女が、冷静に、提案する。
誰もが、その意見に、同意しようとした、その時だった。
♢
世界の、どこかにある、光の届かない、静寂に包まれた、神殿。
そこに、『黎明の子供たち』は、いた。
五竜山で、アッシュに、敗北を喫した、部隊のリーダーが、首領である、銀色の瞳の男――サイラスに、報告をしていた。
「……申し上げます。彼の力、『黄金の光』は……我々の、想像を、遥かに、超えていました。それは、甘い、菓子に、凝縮され……」
その、あまりにも、馬鹿げた報告に、他の、ローブの者たちが、ざわめく。
しかし、サイラスは、動じなかった。
「……そうか。原初の、生命の輝き。混沌と、喜びに満ちた、純粋な、エネルギー。それが、人が、生きるために、最も、根源的な行為である、『食事』に、宿る、か。……歪んではいるが、理には、かなっている」
彼は、静かに、呟いた。
「我々の、秩序と、静寂の、魔力とは、まさしく、対極。正面から、ぶつかるのは、愚策だ」
彼は、傍らに立つ、ルナへと、視線を移した。
「ルナ。お前は、彼を、間近で見て、どう、感じた?」
「……彼は、空っぽの器のようです。しかし、その内側には、宇宙そのものが、眠っている。彼の、願いは、あまりにも、小さく、そして、あまりにも、大きい……」
ルナは、静かに、そう、答えた。
「……ならば、戦術を変えよう」
サイラスは、決断した。
「礎石を、直接、狙うのは、もう、やめだ。代わりに、『鍵』そのものを、我々の、舞台へと、誘い込む。白銀の光が、最も、強く、そして、黄金の光が、最も、その力を、失う、場所へ……」
彼は、古の地図を広げ、ある、一点を、指さした。
♢
アクアティアの王宮、作戦会議室では、
一行が、次の目的地について、議論を重ねていた、まさに、その時。
一羽の、伝書鳩が、エリアス学院長の元へ、一通の、手紙を、届けた。
差出人は、アッシュの、祖父だった。
それは、またしても、素朴な、絵葉書だった。
表面には、何だか、悲しそうな顔をした、魚の絵が、描かれている。
『よう、アッシュの、仲間たちよ。
坊主にやった、あの方位磁石の、調子が、近頃、おかしいんじゃ。おやつの方角を、指さんようになった。代わりに、北の海にある、『嘆きの島』という、場所を、指し示しておる。
昔、一度、行ったことがあるが、あそこの魚は、いつも、泣いておるから、塩辛すぎて、ちっとも、うまくなかったわい。何か、悲しいことが、起きているんじゃろう。
アッシュには、行かんように、言うといてくれ。まずい、食い物しか、ないからのう。
追伸、漬物が、そろそろ、いい塩梅じゃ』
エリアスは、その、呑気な手紙に、隠された、重大な、意味を、即座に、理解した。
『おやつコンパス』は、アッシュの、運命に、呼応する。それが、礎石以外の場所を、指し示すということは……。
「『嘆きの島』……?」
リリアナが、地図で、その場所を探す。
それは、どこの国にも属さない、北の、荒海に浮かぶ、小さな、孤島。古い言い伝えでは、「世界の、悲しみが、集まる場所」と、言われているらしい。
「罠だわ。我々を、礎石から、引き離すための」
リリアナが、即座に、結論づける。
「罠とわかって、乗る必要はない。予定通り、礎石の防衛を、固めるべきだ」
アレクシスも、同意する。
しかし、アッシュは、いつになく、真剣な顔をしていた。
「……お魚が、泣いてる……?」
彼は、静かに、呟いた。
「食べ物が、悲しいなんて、おかしいよ。誰かが、悲しくて、お魚まで、泣かせちゃってるなんて、そんなの、絶対に、ダメだ」
彼は、顔を上げ、仲間たちを、見つめた。
その瞳には、食欲でも、好奇心でもない。
ただ、純粋な、そして、規格外の、「共感」が、宿っていた。
「僕、『嘆きの島』に行く。泣いてる、お魚たちを、笑顔にしてあげないと」
一行の、次なる、目的地は、決定した。
それは、敵が、巧妙に、仕掛けた、罠の中。
しかし、彼らが、その罠に、足を踏み入れる理由は、いかなる、軍師も、賢者も、予測できないものだった。
「悲しくて、塩辛い魚を、救うため」。
世界の、おやつ防衛同盟は、今、その、あまりにも、優しくて、そして、あまりにも、ズレた、動機のために、再び、動き出す。
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