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第百三十五話:見せるもの、隠すもの
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僕が王都の調査団を歓迎するという返信を送ってから数週間、ノーランドは静かなしかし熱狂的な興奮に包まれていった。
僕の王国作りの最初の正念場、その舞台準備が始まったのだ。
まず腹心たちを執務室へと集めた。セバスもこの一大事のために王都から転移魔法陣を使って戻ってきている。
「——王都が我々に求めているのは安心だ。あるいは嫉妬を満たすための粗探しと言ってもいい」
僕は広げた地図の上で計画の全貌を語り始めた。
「彼らに我々の全てを見せる必要はない。見せるべきは彼らが納得し、そして安心して帰っていくための、完璧に作り上げられた『真実』だ」
僕は三つの指示を出した。
「ボリン。君には調査団を鉱山へと案内してもらう。だが見せるのは霊峰の秘密の坑道ではない。古くからある西の鉄鉱山だ。そしてこれを使え」
僕が彼に渡したのは僕が精錬した純度の高い鉄のインゴットだった。
星屑鉄ではないただの鉄だ。
だが僕の魔法技術で精錬されたそれは、王都のどんな鉄よりも高品質だった。
「『新しい精錬技術によって鉄の生産量が三倍になった』。君はそう報告しろ。彼らが求める『富の源泉』という答えは、それで十分だ」
「ニール。君の転移魔法陣は、我々の最大の機密だ。調査団が滞在する間、研究室は完全に封鎖。君はただの古代ルーンを研究する、一介の学者として振る舞え。決してその才能の片鱗を見せるな」
「そしてリリア。君にはこのグレイロックの町そのものを演出してもらう。豊かになりすぎた建物を、少し古く見せかけろ。領民たちには『若様のおかげで冬を越せるようになった』と感謝を口にさせ、同時に『だがまだまだ土地は痩せており生活は厳しい』と適度な不満も口にさせるのだ。完璧すぎる幸福は、逆に疑念を生む」
僕の腹心たちは、その完璧な脚本に、静かに頷いた。
僕たちの、壮大な演劇の準備が始まった。
そして、運命の日。
王都からの、ものものしい一団が、グレイロックの町へと到着した。
先頭の馬車から降りてきたのは、国王の側近でもある内務大臣、ヴァロワ伯爵。その厳格な表情は、いかなる不正も見逃さぬという、強い意志を示していた。
だが僕の、視線は彼の隣に立つ人物に、釘付けになった。
「——ご紹介しよう、アルクライト辺境伯。こちらが、今回の、調査団に、技術顧問として、同行いただく、ソフィア・フォン・ヴァレリウス嬢だ」
そこに立っていたのは、僕の学院でのライバル、ソフィアその人だった。
彼女は、もはや、ただの学生ではない。その胸には、王立魔導院の一等研究員の徽章が輝いていた。
彼女は、その類稀なる才能を認められ、すでに国の中枢で、その頭脳を振るっているのだ。
僕たちの視線が交差する。
彼女の紫色の瞳。
そこには、かつての好奇心ではなく、僕という巨大な謎を国家の名において解き明かそうとする、冷徹な調査官の光が宿っていた。
僕は内心の動揺を完璧に隠し、恭しく最も丁重な礼をした。
「ようこそ皆様。北の果てノーランドへ。辺境伯ルキウス・フォン・アークライト、誠心誠意、皆様を歓迎いたします。……我々には隠し立てすることなど何一つございませんから」
僕の、その言葉は無垢な歓迎の挨拶。
そして同時に、僕が彼女に放った挑戦状だった。
さあ始めようかソフィア。
僕と君の最後の知恵比べを。
この僕の王国という盤上で君が僕の秘密を暴くのが早いか。
それとも僕が、君さえも欺ききり、完全な勝利を手にするのが早いか。
僕たちのゲームの幕が、上がった。
僕の王国作りの最初の正念場、その舞台準備が始まったのだ。
まず腹心たちを執務室へと集めた。セバスもこの一大事のために王都から転移魔法陣を使って戻ってきている。
「——王都が我々に求めているのは安心だ。あるいは嫉妬を満たすための粗探しと言ってもいい」
僕は広げた地図の上で計画の全貌を語り始めた。
「彼らに我々の全てを見せる必要はない。見せるべきは彼らが納得し、そして安心して帰っていくための、完璧に作り上げられた『真実』だ」
僕は三つの指示を出した。
「ボリン。君には調査団を鉱山へと案内してもらう。だが見せるのは霊峰の秘密の坑道ではない。古くからある西の鉄鉱山だ。そしてこれを使え」
僕が彼に渡したのは僕が精錬した純度の高い鉄のインゴットだった。
星屑鉄ではないただの鉄だ。
だが僕の魔法技術で精錬されたそれは、王都のどんな鉄よりも高品質だった。
「『新しい精錬技術によって鉄の生産量が三倍になった』。君はそう報告しろ。彼らが求める『富の源泉』という答えは、それで十分だ」
「ニール。君の転移魔法陣は、我々の最大の機密だ。調査団が滞在する間、研究室は完全に封鎖。君はただの古代ルーンを研究する、一介の学者として振る舞え。決してその才能の片鱗を見せるな」
「そしてリリア。君にはこのグレイロックの町そのものを演出してもらう。豊かになりすぎた建物を、少し古く見せかけろ。領民たちには『若様のおかげで冬を越せるようになった』と感謝を口にさせ、同時に『だがまだまだ土地は痩せており生活は厳しい』と適度な不満も口にさせるのだ。完璧すぎる幸福は、逆に疑念を生む」
僕の腹心たちは、その完璧な脚本に、静かに頷いた。
僕たちの、壮大な演劇の準備が始まった。
そして、運命の日。
王都からの、ものものしい一団が、グレイロックの町へと到着した。
先頭の馬車から降りてきたのは、国王の側近でもある内務大臣、ヴァロワ伯爵。その厳格な表情は、いかなる不正も見逃さぬという、強い意志を示していた。
だが僕の、視線は彼の隣に立つ人物に、釘付けになった。
「——ご紹介しよう、アルクライト辺境伯。こちらが、今回の、調査団に、技術顧問として、同行いただく、ソフィア・フォン・ヴァレリウス嬢だ」
そこに立っていたのは、僕の学院でのライバル、ソフィアその人だった。
彼女は、もはや、ただの学生ではない。その胸には、王立魔導院の一等研究員の徽章が輝いていた。
彼女は、その類稀なる才能を認められ、すでに国の中枢で、その頭脳を振るっているのだ。
僕たちの視線が交差する。
彼女の紫色の瞳。
そこには、かつての好奇心ではなく、僕という巨大な謎を国家の名において解き明かそうとする、冷徹な調査官の光が宿っていた。
僕は内心の動揺を完璧に隠し、恭しく最も丁重な礼をした。
「ようこそ皆様。北の果てノーランドへ。辺境伯ルキウス・フォン・アークライト、誠心誠意、皆様を歓迎いたします。……我々には隠し立てすることなど何一つございませんから」
僕の、その言葉は無垢な歓迎の挨拶。
そして同時に、僕が彼女に放った挑戦状だった。
さあ始めようかソフィア。
僕と君の最後の知恵比べを。
この僕の王国という盤上で君が僕の秘密を暴くのが早いか。
それとも僕が、君さえも欺ききり、完全な勝利を手にするのが早いか。
僕たちのゲームの幕が、上がった。
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