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第百三十四話:最初の収穫と、新たな火種
僕の本当の建国が始まってから半年が過ぎた。
ノーランドの長く厳しい冬は終わりを告げ、遅い春がその凍てついた大地にようやく生命の息吹をもたらしていた。
そして僕が蒔いた数多の種もまた、その芽を出し始めていた。
グレイロックの町は生まれ変わった。
僕が前世の知識を元に設計した上下水道は、町の衛生環境を劇的に改善し、冬の間に流行していた病は嘘のようにその姿を消した。
リリアが運営する診療所と、新設された孤児院は領民たちの心の支えとなり、僕の名——若き領主ルキウス・フォン・アークライトへの忠誠と信頼は絶対的なものとなっていた。
僕の秘密の計画も、また大きな成果を上げていた。
ボリンが率いる採掘部隊は、僕が開発した魔力振動採掘法を完全にマスターし、山のように積み上げられた『星屑鉄』の原石が秘密の倉庫を満たしている。
そしてニール。
彼の天才的な頭脳はついに『転移魔法陣』を次の段階へと進化させた。
僕の研究室と、同盟者であるセリナが治めるシルバーバーグの城館とを結ぶ、初の長距離転移に成功したのだ。
その日、僕は歴史的な瞬間に立ち会っていた。
僕の研究室で青白い光を放つ魔法陣。
その向こう側から一人の人物が姿を現す。
銀色の髪を揺らし、驚きと感動に目を見開くセリナ・フォン・シルバーバーグその人だった。
「……すごい。本当に一瞬で……。ルキウス様、これは魔法ではありません。奇跡ですわ」
「ようこそセリナ。僕の王国へ」
僕は最初の、そして最も重要な同盟者を歓迎した。
僕たちはその日、二つの領地の未来について語り合った。
僕は彼女に、精錬した高品質な鉄を秘密裏に供給することを約束し、彼女は僕に、王都の最新の政治情勢を提供してくれることになった。
そして、彼女がもたらした情報は、僕の平穏な日々に、終わりが近いことを告げていた。
「ルキウス様。あなたの噂が、王都で広まっています」
彼女は憂いを帯びた表情で言った。
「送られてきた手紙には、こう書かれていました。『アルクライトの怪物が、北の地で莫大な富を築いている』と。そして……あなたのお母上、イザベラ侯爵夫人が、その噂を巧みに利用し、自らの派閥を拡大している、とも」
僕の母。
彼女は、僕を自らの手駒として、王都の政治ゲームを有利に進めようとしているのだ。
セリナが帰った後、僕はセバスからの緊急の魔力通信を、受け取った。
彼の情報もまた、セリナのそれと一致していた。
そして彼は、さらに悪い報せを付け加えた。
「……旦那様の政敵であるクロンベルク公爵家が、この噂を問題視し、陛下に正式な調査団の派遣を要請した、とのことにございます。旦那様も、もはやこれを無視することはできず……」
僕は、全てを理解した。
あまりに早く、そして、あまりに大きく成長しすぎたのだ。
僕が築き上げた、この静かな王国は、今、王都の権力者たちの欲望と嫉妬の格好の的となっていた。
僕が作り上げた絶対的な防御障壁。
だがそれは物理的な侵入しか防げない。
王家の勅命という大義名分を掲げた、政治的な軍隊は、いとも容易くその壁を越えてくるだろう。
僕は執務室の壁に貼られた、ノーランドの地図を見つめた。
僕の静かな建国の時代は終わった。
これからは、僕の王国を守るための戦いの時代だ。
「……面白い」
僕は静かに呟いた。
「彼らが、それほどまでに僕の宝を見たいと言うのなら。見せてやるのも一興か」
僕はセバスに父への返信を託した。
「——調査団の派遣、謹んでお受けいたします。このルキウス・フォン・アークライトが、誠心誠意、歓迎し、ご案内いたしましょう、と」
次なる舞台は再び、あの王都の魑魅魍魎が、跋扈する政治の世界。
僕は僕のやり方で彼らを手玉に取り、そして、僕の王国の独立を勝ち取ってみせる。
ノーランドの長く厳しい冬は終わりを告げ、遅い春がその凍てついた大地にようやく生命の息吹をもたらしていた。
そして僕が蒔いた数多の種もまた、その芽を出し始めていた。
グレイロックの町は生まれ変わった。
僕が前世の知識を元に設計した上下水道は、町の衛生環境を劇的に改善し、冬の間に流行していた病は嘘のようにその姿を消した。
リリアが運営する診療所と、新設された孤児院は領民たちの心の支えとなり、僕の名——若き領主ルキウス・フォン・アークライトへの忠誠と信頼は絶対的なものとなっていた。
僕の秘密の計画も、また大きな成果を上げていた。
ボリンが率いる採掘部隊は、僕が開発した魔力振動採掘法を完全にマスターし、山のように積み上げられた『星屑鉄』の原石が秘密の倉庫を満たしている。
そしてニール。
彼の天才的な頭脳はついに『転移魔法陣』を次の段階へと進化させた。
僕の研究室と、同盟者であるセリナが治めるシルバーバーグの城館とを結ぶ、初の長距離転移に成功したのだ。
その日、僕は歴史的な瞬間に立ち会っていた。
僕の研究室で青白い光を放つ魔法陣。
その向こう側から一人の人物が姿を現す。
銀色の髪を揺らし、驚きと感動に目を見開くセリナ・フォン・シルバーバーグその人だった。
「……すごい。本当に一瞬で……。ルキウス様、これは魔法ではありません。奇跡ですわ」
「ようこそセリナ。僕の王国へ」
僕は最初の、そして最も重要な同盟者を歓迎した。
僕たちはその日、二つの領地の未来について語り合った。
僕は彼女に、精錬した高品質な鉄を秘密裏に供給することを約束し、彼女は僕に、王都の最新の政治情勢を提供してくれることになった。
そして、彼女がもたらした情報は、僕の平穏な日々に、終わりが近いことを告げていた。
「ルキウス様。あなたの噂が、王都で広まっています」
彼女は憂いを帯びた表情で言った。
「送られてきた手紙には、こう書かれていました。『アルクライトの怪物が、北の地で莫大な富を築いている』と。そして……あなたのお母上、イザベラ侯爵夫人が、その噂を巧みに利用し、自らの派閥を拡大している、とも」
僕の母。
彼女は、僕を自らの手駒として、王都の政治ゲームを有利に進めようとしているのだ。
セリナが帰った後、僕はセバスからの緊急の魔力通信を、受け取った。
彼の情報もまた、セリナのそれと一致していた。
そして彼は、さらに悪い報せを付け加えた。
「……旦那様の政敵であるクロンベルク公爵家が、この噂を問題視し、陛下に正式な調査団の派遣を要請した、とのことにございます。旦那様も、もはやこれを無視することはできず……」
僕は、全てを理解した。
あまりに早く、そして、あまりに大きく成長しすぎたのだ。
僕が築き上げた、この静かな王国は、今、王都の権力者たちの欲望と嫉妬の格好の的となっていた。
僕が作り上げた絶対的な防御障壁。
だがそれは物理的な侵入しか防げない。
王家の勅命という大義名分を掲げた、政治的な軍隊は、いとも容易くその壁を越えてくるだろう。
僕は執務室の壁に貼られた、ノーランドの地図を見つめた。
僕の静かな建国の時代は終わった。
これからは、僕の王国を守るための戦いの時代だ。
「……面白い」
僕は静かに呟いた。
「彼らが、それほどまでに僕の宝を見たいと言うのなら。見せてやるのも一興か」
僕はセバスに父への返信を託した。
「——調査団の派遣、謹んでお受けいたします。このルキウス・フォン・アークライトが、誠心誠意、歓迎し、ご案内いたしましょう、と」
次なる舞台は再び、あの王都の魑魅魍魎が、跋扈する政治の世界。
僕は僕のやり方で彼らを手玉に取り、そして、僕の王国の独立を勝ち取ってみせる。
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