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第十話:薬草の知識と芽吹く新たな協力
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黒い害虫の猛威が過ぎ去り、ミストラル村には少しずつ落ち着きが戻り始めていた。
収穫量は例年より減ってしまったものの、アレンの迅速かつ的確な対策のおかげで、壊滅的な被害は免れた。
村人たちは、この経験を教訓とし、アレンが提案した作物の多様化や、非常時のための備蓄倉庫の建設計画に、以前にも増して真剣に取り組むようになっていた。
アレン自身も、害虫騒ぎを経て、村の食糧安定供給の重要性を再認識していた。
単に生産効率を上げるだけでなく、天候不順や病害といったリスクにどう備えるか。
その一環として、彼は保存食の技術や、薬効のある植物の活用法についても調べ始めていた。
浩介だった頃の知識には限りがある。
この世界の、この土地ならではの知恵が必要だと感じていた。
そんなある日、アレンは村の共有地の一角で、一心不乱に何かを探している少女の姿を見かけた。
歳はアレンと同じくらいだろうか。
亜麻色の髪を二つに結び、活発そうな大きな瞳が印象的だ。
以前から村で見かけることはあったが、ゆっくりと話したことはない。
確か、名前はリナと言ったはずだ。
「こんにちは。
何か探し物?」
アレンが声をかけると、少女――リナは、少し驚いたように顔を上げた。
その手には、数種類の野草が握られている。
「あ、アレン君……。
うん、ちょっと薬草を探してたの」
リナは少しはにかみながら答えた。
「薬草? 君、薬草に詳しいの?」
アレンの問いに、リナはこくりと頷いた。
「うん、少しだけ。
おばあちゃんが村の薬草採りで、小さい頃から色々教えてもらってるから」
リナの祖母は、村で唯一、薬草の知識を持ち、簡単な病や怪我の治療を行っている人物だった。
アレンも、崖から落ちた際に世話になったことがある。
「そうなんだ。
実は僕も、今、薬草のことや、食べられる野草について調べていて……。
もしよかったら、君の知っていることを教えてもらえないかな?」
アレンの申し出に、リナは少し意外そうな顔をしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「うん、いいよ! 私でわかることなら」
それが、アレンとリナの最初のな会話だった。
それからというもの、アレンは時間を見つけてはリナと共に野山を歩き、彼女から様々な植物の知識を教わるようになった。
リナの知識は、アレンが想像していた以上に豊富で、専門的だった。
どの草がどんな薬効を持つのか、どの実が食用になり、どの部分に毒があるのか。
それらを、まるで自分の友達のことを話すかのように、生き生きとアレンに語って聞かせた。
「この『月見草の根』はね、煎じて飲むと熱を下げる効果があるんだよ。
こっちの『陽光花の蜜』は、傷口に塗ると治りが早くなるの」
リナは、実際に薬草を採集しながら、その見分け方や処理方法、そして効能を丁寧に説明してくれた。
アレンは、浩介の知識とは全く異なる、この世界で脈々と受け継がれてきた実践的な知恵に、深い感銘を受けた。
ある時、村の子供の一人が遊んでいる最中に足を擦りむき、泣きながら戻ってきたことがあった。
リナは、少しも慌てることなく、すぐに近くの草むらから数種類の葉を摘み取ると、それを手際よく揉み解し、傷口に当てて布で縛った。
「これで大丈夫。
すぐに痛みも引くし、化膿もしないからね」
リナが優しく声をかけると、子供は不思議と泣き止み、安心したような表情を見せた。
その様子を見ていたアレンは、リナの持つ知識と技術が、村にとってどれほど貴重なものかを改めて実感した。
「リナはすごいね。
僕も君みたいに、もっと村の役に立てるようになりたいな」
アレンが素直な感想を述べると、リナは少し顔を赤らめながら首を横に振った。
「ううん、私なんてまだまだだよ。
アレン君こそすごいじゃない。
井戸を直したり、新しい農具を作ったり、この前の害虫の時だって、アレン君がいなかったら村はどうなっていたか……」
リナは、アレンの活躍をずっと見ていて、密かに尊敬の念を抱いていたのだ。
「僕のやってることは、ただ昔どこかで見た知識を応用してるだけだよ。
でも、リナの知識は、この村で、リナ自身が学んで身につけたものだ。
それは本当に素晴らしいことだと思う」
アレンの言葉に、リナの瞳が輝いた。
自分では当たり前だと思っていた知識や技術が、アレンのような特別な才能を持つ人から認められたことが、彼女にとって大きな自信になったようだった。
二人は、それぞれの得意分野について語り合ううちに、共通の目標を見出し始めていた。
アレンは、村の生活基盤を豊かにし、安定させることを目指している。
一方、リナは、村人たちの健康を守り、病や怪我から救いたいと願っている。
そして、その二つの目標は、決して別々のものではなく、深く結びついていることに気づいたのだ。
「ねえ、アレン君。
今度作る備蓄倉庫だけど、そこに薬草を乾燥させて保存する専用の場所も作れないかな? そうすれば、冬場でもすぐに使える薬草を確保できると思うんだ」
リナからの提案に、アレンは大きく頷いた。
「それはいい考えだね! 薬草の種類によっては、特別な乾燥方法が必要かもしれない。
僕の方で、効率よく乾燥できるような棚や、温度管理ができるような仕組みを考えてみるよ」
「本当!? ありがとう、アレン君!」
アレンの物作りの知識と、リナの薬草の知識。
それらが合わされば、村の医療環境や健康管理は格段に向上するかもしれない。
二人の間には、新たな協力関係が芽生え始めていた。
リナは、アレンにとって、初めて同年代で知的な会話ができ、共に目標に向かって進める仲間となった。
収穫量は例年より減ってしまったものの、アレンの迅速かつ的確な対策のおかげで、壊滅的な被害は免れた。
村人たちは、この経験を教訓とし、アレンが提案した作物の多様化や、非常時のための備蓄倉庫の建設計画に、以前にも増して真剣に取り組むようになっていた。
アレン自身も、害虫騒ぎを経て、村の食糧安定供給の重要性を再認識していた。
単に生産効率を上げるだけでなく、天候不順や病害といったリスクにどう備えるか。
その一環として、彼は保存食の技術や、薬効のある植物の活用法についても調べ始めていた。
浩介だった頃の知識には限りがある。
この世界の、この土地ならではの知恵が必要だと感じていた。
そんなある日、アレンは村の共有地の一角で、一心不乱に何かを探している少女の姿を見かけた。
歳はアレンと同じくらいだろうか。
亜麻色の髪を二つに結び、活発そうな大きな瞳が印象的だ。
以前から村で見かけることはあったが、ゆっくりと話したことはない。
確か、名前はリナと言ったはずだ。
「こんにちは。
何か探し物?」
アレンが声をかけると、少女――リナは、少し驚いたように顔を上げた。
その手には、数種類の野草が握られている。
「あ、アレン君……。
うん、ちょっと薬草を探してたの」
リナは少しはにかみながら答えた。
「薬草? 君、薬草に詳しいの?」
アレンの問いに、リナはこくりと頷いた。
「うん、少しだけ。
おばあちゃんが村の薬草採りで、小さい頃から色々教えてもらってるから」
リナの祖母は、村で唯一、薬草の知識を持ち、簡単な病や怪我の治療を行っている人物だった。
アレンも、崖から落ちた際に世話になったことがある。
「そうなんだ。
実は僕も、今、薬草のことや、食べられる野草について調べていて……。
もしよかったら、君の知っていることを教えてもらえないかな?」
アレンの申し出に、リナは少し意外そうな顔をしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「うん、いいよ! 私でわかることなら」
それが、アレンとリナの最初のな会話だった。
それからというもの、アレンは時間を見つけてはリナと共に野山を歩き、彼女から様々な植物の知識を教わるようになった。
リナの知識は、アレンが想像していた以上に豊富で、専門的だった。
どの草がどんな薬効を持つのか、どの実が食用になり、どの部分に毒があるのか。
それらを、まるで自分の友達のことを話すかのように、生き生きとアレンに語って聞かせた。
「この『月見草の根』はね、煎じて飲むと熱を下げる効果があるんだよ。
こっちの『陽光花の蜜』は、傷口に塗ると治りが早くなるの」
リナは、実際に薬草を採集しながら、その見分け方や処理方法、そして効能を丁寧に説明してくれた。
アレンは、浩介の知識とは全く異なる、この世界で脈々と受け継がれてきた実践的な知恵に、深い感銘を受けた。
ある時、村の子供の一人が遊んでいる最中に足を擦りむき、泣きながら戻ってきたことがあった。
リナは、少しも慌てることなく、すぐに近くの草むらから数種類の葉を摘み取ると、それを手際よく揉み解し、傷口に当てて布で縛った。
「これで大丈夫。
すぐに痛みも引くし、化膿もしないからね」
リナが優しく声をかけると、子供は不思議と泣き止み、安心したような表情を見せた。
その様子を見ていたアレンは、リナの持つ知識と技術が、村にとってどれほど貴重なものかを改めて実感した。
「リナはすごいね。
僕も君みたいに、もっと村の役に立てるようになりたいな」
アレンが素直な感想を述べると、リナは少し顔を赤らめながら首を横に振った。
「ううん、私なんてまだまだだよ。
アレン君こそすごいじゃない。
井戸を直したり、新しい農具を作ったり、この前の害虫の時だって、アレン君がいなかったら村はどうなっていたか……」
リナは、アレンの活躍をずっと見ていて、密かに尊敬の念を抱いていたのだ。
「僕のやってることは、ただ昔どこかで見た知識を応用してるだけだよ。
でも、リナの知識は、この村で、リナ自身が学んで身につけたものだ。
それは本当に素晴らしいことだと思う」
アレンの言葉に、リナの瞳が輝いた。
自分では当たり前だと思っていた知識や技術が、アレンのような特別な才能を持つ人から認められたことが、彼女にとって大きな自信になったようだった。
二人は、それぞれの得意分野について語り合ううちに、共通の目標を見出し始めていた。
アレンは、村の生活基盤を豊かにし、安定させることを目指している。
一方、リナは、村人たちの健康を守り、病や怪我から救いたいと願っている。
そして、その二つの目標は、決して別々のものではなく、深く結びついていることに気づいたのだ。
「ねえ、アレン君。
今度作る備蓄倉庫だけど、そこに薬草を乾燥させて保存する専用の場所も作れないかな? そうすれば、冬場でもすぐに使える薬草を確保できると思うんだ」
リナからの提案に、アレンは大きく頷いた。
「それはいい考えだね! 薬草の種類によっては、特別な乾燥方法が必要かもしれない。
僕の方で、効率よく乾燥できるような棚や、温度管理ができるような仕組みを考えてみるよ」
「本当!? ありがとう、アレン君!」
アレンの物作りの知識と、リナの薬草の知識。
それらが合わされば、村の医療環境や健康管理は格段に向上するかもしれない。
二人の間には、新たな協力関係が芽生え始めていた。
リナは、アレンにとって、初めて同年代で知的な会話ができ、共に目標に向かって進める仲間となった。
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