【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ

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第五十八話:石像の迷路と起動する古代の仕掛け

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アレンの言葉も虚しく、黒曜石の仮面をつけた者たちは、無言のまま、しかし統制の取れた動きでアレンたちへの包囲網をゆっくりと縮めてきた。

その数は二十名近く。
対するアレンたちは、戦闘要員としてはカイトと数名の兵士、そしてレグルスがいるものの、数の上では明らかに不利。

しかも、ここは「黒曜の爪」が知り尽くした彼らの庭とも言える場所だ。

「もはや、話し合いで解決できる相手ではなさそうだな……!」

カイトは、低く唸るように言うと、剣を抜き放ち、アレンとリナの前に立ちはだかる。
ティムも、アレンから渡されていた改良型の発煙筒を握りしめ、いつでも投擲できるよう身構えた。

「皆、散開して石像を盾にしろ! 奴らの狙いはアレン君と、あの羊皮紙の断片だ! それを渡すな!」

レグルスが鋭く指示を飛ばす。
兵士たちは、その声に即座に反応し、巨大な石像群の陰へと散り、それぞれが有利な位置を取ろうとする。

この「眠れる巨人の祭壇」は、無数の巨石像が複雑に立ち並び、まるで天然の迷路のような地形を形成していた。

それが、今はアレンたちにとって唯一の盾であり、そして反撃の糸口となるかもしれない。

戦闘の火蓋は、一人の仮面の男が投げ放った黒曜石のナイフによって切られた。
鋭い風切り音と共に飛来したそれを、カイトは紙一重で弾き返す。

「来るぞ!」

カイトの叫びを合図に、仮面の者たちが一斉に襲いかかってきた。
その動きは素早く、連携も取れており、個々の戦闘能力も決して低くはない。

ギデオンと共に訓練を積んだミストラル村の兵士たちも、多勢に無勢、そして地の利の悪さから、徐々に押され始める。

「リナ、あの煙を! カイト君、合図をしたら右手の石像の裏へ!」

アレンは、戦況を冷静に見極めながら指示を出す。
彼の声は、喧騒の中でも不思議とよく通った。

リナが、アレンの指示通り、特殊な薬草を配合した発煙筒を敵の集団の中心へと投げ込む。
もうもうと立ち上る刺激臭を伴う煙が、敵の視界と呼吸を奪い、一瞬その動きを鈍らせた。

「今だ!」

アレンの合図を受け、カイトは目にも止まらぬ速さで煙の中を駆け抜け、指定された石像の裏へと回り込む。

そこは、敵の側面を突ける絶好の位置。
彼の奇襲により、数人の仮面の男たちが瞬く間に斬り伏せられた。

しかし、敵もさるもの。
すぐに体勢を立て直し、カイトを包囲しようと動き出す。

アレンは、腰の仕掛け杖を構え、柄頭から麻痺毒を塗った針を射出し、カイトに迫る敵の一人の足元を狙った。
針は的確に敵の足甲を捉え、男は悲鳴と共にその場に崩れ落ちる。

その一瞬の隙が、カイトに反撃の機会を与えた。

「アレン、ティム! あの石像の台座を見てくれ! 羊皮紙の紋様と、同じものがある!」

戦闘の最中、レグルスが鋭い声で叫んだ。
彼が指さす先には、ひときわ大きな巨人像があり、その足元の台座には、アレンたちが持つ羊皮紙の断片に描かれたものと酷似した、複雑な幾何学模様が刻まれている。

そして、その模様の中心には、何かの円盤状の石がはめ込まれていた。

(あれは……何かの仕掛けか!?)

アレンの脳裏に、電流のような閃きが走る。
彼は、羊皮紙の断片に記されていた古代文字の解読結果と、目の前の石像の配置、そして台座の紋様を瞬時に頭の中で照合した。

「ティム、あの円盤を、僕の指示通りに回転させるんだ! リナ、カイト君の援護を! 煙幕で敵の目を眩ませて!」

アレンの指示を受け、ティムはカイトと兵士たちが時間を稼いでいる間に、危険を冒してその巨大な石像の台座へと駆け寄る。
仮面の者たちも、アレンたちの狙いに気づいたのか、ティムを阻止しようと数人が殺到してきた。

「行かせないわ!」

リナが、調合していた特殊な薬草の粉末を敵の顔めがけて投げつける。
それは、強烈な痒みを引き起こす植物の胞子で、敵は思わず顔を覆って苦悶の声を上げた。
その隙に、カイトと兵士たちがティムへの道を切り開く。

ティムは、円盤状の石にはめ込まれたいくつかの突起を、アレンが叫ぶ順番通りに、そして特定の角度まで慎重に回転させていった。
それは、羊皮紙の星図と、古代文字が示す、ある種の「鍵」の操作手順なのであった。

最後の突起を回し終えた瞬間、ゴゴゴゴゴ……という地鳴りのような低い音が、祭壇全体に響き渡った。

そして、アレンたちが戦っていた広場の中央部分の地面が、突如として大きく陥没し始めたではないか。
それは、古代人が仕掛けた巨大な落とし穴のようなもので、そこにいた数名の仮面の男たちが、為す術もなく悲鳴と共に奈落へと飲み込まれていく。

「何だこれは!? 罠か!」

生き残った仮面の者たちが、その予期せぬ事態に動揺し、動きを止めた。
その隙を突き、レグルスと兵士たちが反撃に転じ、残りの敵も次々と打ち倒していく。

やがて、地鳴りは収まり、広場には巨大な陥没穴と、数名の倒れた仮面の男たち、そして呆然と立ち尽くすアレンたちだけが残された。
辛くも敵を撃退することには成功したが、その代償も小さくはなかった。

兵士の一人が深手を負い、ティムも腕に軽い切り傷を負っている。
そして何よりも、この遺跡に隠された仕掛けは、これだけではないかもしれないという、新たな恐怖が彼らを包み込んでいた。

「アレン君、あの陥没した穴の底……何か光っているわ」

リナが、恐る恐る陥没穴の縁から下を覗き込みながら言った。
アレンも近づいてみると、確かに、穴の底の方で、何かの結晶体のようなものが、淡い青白い光を放っているのが見える。

「あれが……『黒曜の爪』が探していたもの、あるいは『厄災』と関係がある何かなのだろうか……」

アレンは、その光を見つめながら呟いた。
敵は撃退したが、謎はさらに深まった。
そして、この巨大な陥没穴は、彼らの唯一の進路を塞いでしまっている。

彼らは、この「眠れる巨人の祭壇」から、どうやって脱出し、そしてこの新たな発見をどう処理すべきなのか。

ふと、アレンは、戦闘中に仮面のリーダー格らしき男が落としていった、小さな革袋が落ちているのに気づいた。

中には、数枚の羊皮紙の断片と、奇妙な形状の黒曜石の欠片が入っている。
それは、アレンたちが持っている羊皮紙とは異なる部分のようで、そこには新たな星図と、さらに解読困難な古代文字が記されていた。

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