「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に

有栖川灯里

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「……神殿は、来月の新月に合わせて“公開祈祷式”を予定しているらしいわ」

祖母マルグリットが、手にした公文を机に叩きつけるように置いた。

「延期された戴冠式の代替として、民衆への“信頼回復”を狙っている。言ってみれば、第二幕だね」

「ええ。だからこそ、そこに私も立ちます」

私の言葉に、ユリアが少しだけ目を見張る。  
ノエルは、椅子に座ったまま口笛を吹いた。

「すごいね、あんた。普通の令嬢ならもう二度と人前に出たくないはずだが」

「私は“普通の令嬢”を降りたもの。舞台の上で糾弾されたなら、同じく舞台の上で真実を返すわ」

祈祷式──神殿前広場で行われる、誰でも参加可能な儀式。  
王家と神殿、信徒、そして民が一堂に会する唯一の場。  
そこで私は、“聖女”について問いかける。

「リリー嬢が“聖女でない”と証明することが目的ではないのです。  
神の名のもとに、人が人を断罪した時──その判断の根拠がどこにあったかを問う」

マルグリットがうなった。

「ただの復讐じゃない。“制度”そのものに風穴を開けようってわけだ。やるじゃないか、小娘」

「……ですが、お嬢様がまた傷つくのではと……」

ユリアの不安をよそに、私は微笑んだ。

「私はもう、誰かに否定されて壊れるほど脆くはありません。  
あの日、“信じていたものに裏切られる痛み”を超えたからこそ──私は今ここに立っているのです」

ノエルが立ち上がり、ふっと真顔になった。

「その言葉、本気で言ってるなら……いいか。俺も腹を括る」

「情報は?」

「王家内部の賛同者が一人。──カミル王子。あの弟坊ちゃんが、兄貴に疑問を持ち始めてる」

「……カミル殿下が?」

「本物の頭脳だ。エドモンドよりも冷静で、現実的。味方につければ、王家の未来そのものが揺らぐ」

私は静かに息を吸う。

──民に語ること、王家に見せること、神殿に問うこと。  
すべてを、この祈祷式に託す。

「では、私の衣装も整えましょう。民が“信じるに値する声”と見做すような、姿で」

「まったく……芝居の天才になったもんだね、あんた」

マルグリットの毒舌にも、私は笑って頷いた。

“芝居”でも“演出”でも構わない。  
その中に、真実があるのなら。

だから私はまた、舞台に立つ。  
静かに、しかし誰よりも誇り高く──。
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