「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に

有栖川灯里

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「神殿内で粛清の動きがあるそうです」

ノエルが持ち込んだのは、焦げた羊皮紙とともに語られた不穏な情報だった。

「リリー嬢の戴冠が消えた今、神殿の上層部は責任を押し付け合ってる。  
そしてその矛先が向いたのは、“帳面を外に漏らした者”──つまり、フェルナン神官だ」

「……予想通り、でしょうね」

私は冷静にそう答えながら、窓の外を見た。  
修道院《エルメリア》から戻って以降、フェルナンとは手紙のやり取りを続けていた。  
彼は今も“追放”こそされていないものの、神殿の本流から完全に切り離されている。

「王妃ユリアナの影響下にある神官たちは、いまだ健在。  
聖女制度という“舞台”を守るため、証人の排除に動き出した……ってわけだ」

「では、彼をこちらへ呼び戻すわ。──保護の名目で。  
ちょうど、“ある計画”の中心に据えたかったところですし」

ノエルが眉をひそめる。

「ある計画?」

私は頷き、隣室から一枚の地図を広げた。

「この地──ヴァイセローゼ領の北部、古い山岳集落の跡地。  
ここに、“薬草院と孤児支援を兼ねた学び舎”を設立します」

「……領主でもない身で?」

「いいえ。“悪役令嬢”として断罪されたからこそ、王都に居場所のない子どもたちに、学びと働く場所を与えるのです。  
そのためには、フェルナン神官の知識と、信仰の穏やかさが必要」

ノエルが思わず息を吐いた。

「……ほんと、あんたってやつは」

「策士?」

「いや。“強すぎる女”だ。しかも、静かに怖い」

私は微笑んだ。

「怖がられても構わない。私はもう、“誰かに理解されること”を目的には生きていないから」

その時、扉がノックされた。

「お嬢様、お手紙です。差出人は──カミル殿下です」

ユリアが差し出した封筒には、簡潔な筆致でこう記されていた。

『フェルナン神官の保護要請、王家として正式に受理。  
王妃の動きに関しても監視を強化済み。  
――次に必要なのは、“未来をつくる者の声”です。』

私はその文を読み、そっと目を閉じた。

“過去”が今も足を引いてくる中で、  
“未来”に向けて踏み出す声が確かに育ち始めている。

私はその声を、受け止める役目を担いたいと思った。

もう“舞台”は不要。  
けれど、“人生”はまだ続くのだから。
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