29 / 50
29
しおりを挟む
王都神殿本庁、中央会議室。
円卓の内側には神殿の高位神官たち、外縁には王宮からの観察官、貴族代表、そして民間の教育・医療施設の責任者たちが並んでいた。
フェルナン=ド=ボネールの入室が告げられると、場に一瞬、緊張が走る。
白衣の法衣に身を包みながらも、その佇まいには誇張がなかった。
彼は静かに一礼し、決して過去を詫びるでもなく、威圧するでもなく、ただその場に“立った”。
「本日は、“信仰再定義会議”への招請に感謝いたします。
私は辺境の小さな学び舎にて、今もなお“信じたい者たち”の声に触れています」
議長が促すように頷いた。
「フェルナン神官、神殿制度へのご意見を」
フェルナンはゆっくりと、円卓を見渡した。
「私は制度に“否”を唱える者ではありません。
制度とは、誰かを守るために必要な“枠”であると理解しています。
けれど、その枠が“内から腐る”のを見て見ぬふりはできません」
一部の守旧派がざわめいた。
「私は問いたいのです。“奇跡”とは何か。“神の声”とは何か。“聖女”とは誰なのか。
それらを定義することは、私たちが“信じるという行為”そのものをどう支えるか、という問いに他なりません」
「では、貴殿は“聖女を制度ではなく、信任で選ぶべきだ”と?」
年配の神官が食い気味に尋ねる。
「いいえ。そうは言っていません。
ただ、“選ばれる側”の記録と、思想と、日々の祈りを“見えるようにする仕組み”が必要だと申し上げているのです」
言葉を荒げるでもなく、微笑むでもなく。
彼の語りは、あまりにも“自然”だった。
「この場には、王家の名を持つ者も、制度を作る者も、信徒を導く者もいる。
けれど忘れないでいただきたい。
“信じる”という行為は、それぞれの胸の内にしか宿らないことを」
発言を終えたフェルナンが一礼すると、議場には沈黙が訪れた。
やがて、若い神官のひとりが、ぽつりと呟くように言った。
「……では、フェルナン神官。
“信仰とは何か”を、たった一言で表すとしたら?」
その問いに、彼はわずかに笑った。
「“見えないものを、信じたまま育て続けること”。
それが私の考える、祈りの形です」
会議室の片隅、王宮の観察席に控えていた書記官が、その言葉を記録していた。
クラウス=レイネルト。
以前、《アウストリアの灯》を訪れた、王妃の密偵。
彼は筆を止めず、ただ低く呟いた。
「……これでは“否定”できない。
あの女の言葉も、この男の祈りも、どちらも“沈黙より雄弁”だ」
その報告はすぐに王妃ユリアナのもとへ届けられた。
書簡を読んだ王妃は、静かに笑った。
「やはり彼女は“語る者”を育てたのね。
私が育てた者たちが、沈黙に従っていた間に、あの子は“言葉の火種”を渡していたわけだ」
窓の外、陽が落ちかけていた。
これから先、“信仰”という形なきものが、
言葉と問いによって、どれだけ変わっていくのか。
ユリアナは初めて、少しだけ愉しそうな顔をしていた。
円卓の内側には神殿の高位神官たち、外縁には王宮からの観察官、貴族代表、そして民間の教育・医療施設の責任者たちが並んでいた。
フェルナン=ド=ボネールの入室が告げられると、場に一瞬、緊張が走る。
白衣の法衣に身を包みながらも、その佇まいには誇張がなかった。
彼は静かに一礼し、決して過去を詫びるでもなく、威圧するでもなく、ただその場に“立った”。
「本日は、“信仰再定義会議”への招請に感謝いたします。
私は辺境の小さな学び舎にて、今もなお“信じたい者たち”の声に触れています」
議長が促すように頷いた。
「フェルナン神官、神殿制度へのご意見を」
フェルナンはゆっくりと、円卓を見渡した。
「私は制度に“否”を唱える者ではありません。
制度とは、誰かを守るために必要な“枠”であると理解しています。
けれど、その枠が“内から腐る”のを見て見ぬふりはできません」
一部の守旧派がざわめいた。
「私は問いたいのです。“奇跡”とは何か。“神の声”とは何か。“聖女”とは誰なのか。
それらを定義することは、私たちが“信じるという行為”そのものをどう支えるか、という問いに他なりません」
「では、貴殿は“聖女を制度ではなく、信任で選ぶべきだ”と?」
年配の神官が食い気味に尋ねる。
「いいえ。そうは言っていません。
ただ、“選ばれる側”の記録と、思想と、日々の祈りを“見えるようにする仕組み”が必要だと申し上げているのです」
言葉を荒げるでもなく、微笑むでもなく。
彼の語りは、あまりにも“自然”だった。
「この場には、王家の名を持つ者も、制度を作る者も、信徒を導く者もいる。
けれど忘れないでいただきたい。
“信じる”という行為は、それぞれの胸の内にしか宿らないことを」
発言を終えたフェルナンが一礼すると、議場には沈黙が訪れた。
やがて、若い神官のひとりが、ぽつりと呟くように言った。
「……では、フェルナン神官。
“信仰とは何か”を、たった一言で表すとしたら?」
その問いに、彼はわずかに笑った。
「“見えないものを、信じたまま育て続けること”。
それが私の考える、祈りの形です」
会議室の片隅、王宮の観察席に控えていた書記官が、その言葉を記録していた。
クラウス=レイネルト。
以前、《アウストリアの灯》を訪れた、王妃の密偵。
彼は筆を止めず、ただ低く呟いた。
「……これでは“否定”できない。
あの女の言葉も、この男の祈りも、どちらも“沈黙より雄弁”だ」
その報告はすぐに王妃ユリアナのもとへ届けられた。
書簡を読んだ王妃は、静かに笑った。
「やはり彼女は“語る者”を育てたのね。
私が育てた者たちが、沈黙に従っていた間に、あの子は“言葉の火種”を渡していたわけだ」
窓の外、陽が落ちかけていた。
これから先、“信仰”という形なきものが、
言葉と問いによって、どれだけ変わっていくのか。
ユリアナは初めて、少しだけ愉しそうな顔をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる