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12話
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王都・中央広場の片隅。
かつて聖女リリィの演説に群衆が沸き立ったその場所に、再び人々の視線が集まっていた。
だが今、その石畳に立つのは、祈りの声ではなく、理の声を持つ者だった。
「——民が信じるべきは、奇跡ではなく、真実であるべきです」
静かな語り口で、アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハは語った。
その姿に華美な装いはなく、ただ銀の髪を後ろで結び、淡い藍のドレスに身を包む。
「偽りに酔い、真実を葬る時代は、もう終わりにしましょう。……この国には、それだけの強さがあるはずですわ」
人々の間にさざ波のような感嘆が広がる。
聖女の失脚以降、何を信じてよいかわからなくなっていた王都の民たちにとって、
この“元悪役令嬢”の言葉は、驚くほどにまっすぐで、誇り高かった。
その様子を、やや離れた石段から見下ろしていた少年がひとり。
「……やはり、あなたはただの公爵令嬢ではない」
ライナルト=フォン=グランツライヒ。
王太子の弟でありながら、宮廷内でも屈指の思考派とされる冷静な第二王子。
演説を終えたアンネリーゼに近づくと、彼は形式ではない礼をもって言った。
「貴女の言葉が、どれほどこの都を救ったか。感謝します」
「感謝など、要りませんわ。私はただ、私自身の意志で動いただけです」
「……ならば、もうひとつだけ。その意志を、これからの“王政”の中に置く気はありませんか?」
アンネリーゼは立ち止まった。
「王妃として、ではありません。貴女を“相談役”として迎える構想が、今、進んでいます。母上も……賛同されました」
「相談役……ですか」
「今の王宮には、貴女のように“信頼”を見せてくれる存在が必要です。民は奇跡ではなく、人の理にこそ目を向けるべき時なのです」
アンネリーゼは少しだけ空を見上げた。
抜けるように高い空。春の兆しが淡くにじむ空色の下で、かつては檻だった都が、少しずつ変わり始めていた。
「……検討に値するお話ですわね。少し、考えさせていただきます」
「それで十分です。貴女が“否”と答えても、それがこの国にとっての道標になる」
二人の会話は穏やかで、どこまでも理性的だった。
だが確かに、そのやり取りの中には——
新しい王国の未来が、静かに芽吹き始めていた。
かつて聖女リリィの演説に群衆が沸き立ったその場所に、再び人々の視線が集まっていた。
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静かな語り口で、アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハは語った。
その姿に華美な装いはなく、ただ銀の髪を後ろで結び、淡い藍のドレスに身を包む。
「偽りに酔い、真実を葬る時代は、もう終わりにしましょう。……この国には、それだけの強さがあるはずですわ」
人々の間にさざ波のような感嘆が広がる。
聖女の失脚以降、何を信じてよいかわからなくなっていた王都の民たちにとって、
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「……やはり、あなたはただの公爵令嬢ではない」
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演説を終えたアンネリーゼに近づくと、彼は形式ではない礼をもって言った。
「貴女の言葉が、どれほどこの都を救ったか。感謝します」
「感謝など、要りませんわ。私はただ、私自身の意志で動いただけです」
「……ならば、もうひとつだけ。その意志を、これからの“王政”の中に置く気はありませんか?」
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だが確かに、そのやり取りの中には——
新しい王国の未来が、静かに芽吹き始めていた。
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