婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里

文字の大きさ
12 / 25

12話

しおりを挟む
王都・中央広場の片隅。  
かつて聖女リリィの演説に群衆が沸き立ったその場所に、再び人々の視線が集まっていた。

だが今、その石畳に立つのは、祈りの声ではなく、理の声を持つ者だった。

「——民が信じるべきは、奇跡ではなく、真実であるべきです」

静かな語り口で、アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハは語った。

その姿に華美な装いはなく、ただ銀の髪を後ろで結び、淡い藍のドレスに身を包む。

「偽りに酔い、真実を葬る時代は、もう終わりにしましょう。……この国には、それだけの強さがあるはずですわ」

人々の間にさざ波のような感嘆が広がる。

聖女の失脚以降、何を信じてよいかわからなくなっていた王都の民たちにとって、  
この“元悪役令嬢”の言葉は、驚くほどにまっすぐで、誇り高かった。

その様子を、やや離れた石段から見下ろしていた少年がひとり。

「……やはり、あなたはただの公爵令嬢ではない」

ライナルト=フォン=グランツライヒ。  
王太子の弟でありながら、宮廷内でも屈指の思考派とされる冷静な第二王子。

演説を終えたアンネリーゼに近づくと、彼は形式ではない礼をもって言った。

「貴女の言葉が、どれほどこの都を救ったか。感謝します」

「感謝など、要りませんわ。私はただ、私自身の意志で動いただけです」

「……ならば、もうひとつだけ。その意志を、これからの“王政”の中に置く気はありませんか?」

アンネリーゼは立ち止まった。

「王妃として、ではありません。貴女を“相談役”として迎える構想が、今、進んでいます。母上も……賛同されました」

「相談役……ですか」

「今の王宮には、貴女のように“信頼”を見せてくれる存在が必要です。民は奇跡ではなく、人の理にこそ目を向けるべき時なのです」

アンネリーゼは少しだけ空を見上げた。

抜けるように高い空。春の兆しが淡くにじむ空色の下で、かつては檻だった都が、少しずつ変わり始めていた。

「……検討に値するお話ですわね。少し、考えさせていただきます」

「それで十分です。貴女が“否”と答えても、それがこの国にとっての道標になる」

二人の会話は穏やかで、どこまでも理性的だった。

だが確かに、そのやり取りの中には——  
新しい王国の未来が、静かに芽吹き始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。  しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

令嬢が婚約破棄をした数年後、ひとつの和平が成立しました。

夢草 蝶
恋愛
 公爵の妹・フューシャの目の前に、婚約者の恋人が現れ、フューシャは婚約破棄を決意する。  そして、婚約破棄をして一週間も経たないうちに、とある人物が突撃してきた。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。 だけど今回は無理だった。 突然の婚約。 え?なんで?嫌だよ。 幼馴染のリヴィ・アルゼン。 ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの? 好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。 なのに気がつけば結婚させられて…… 意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。 戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。 なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて…… 「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。 リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど…… ◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。 申し訳ありません。

処理中です...