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11話
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王宮・東の回廊。
かつて聖女が祈りを捧げていた小礼拝堂の扉は、今は固く閉ざされていた。
その前で、エリアスはただひとり佇んでいた。
「……あのとき、私は、なにを守ろうとしていたのだろう」
静かな独白。誰に届くでもない言葉。
「神か? 愛か? それとも、ただの理想だったのか……」
彼の足音を遮るように、背後から現れた青年がひとり。
「兄上、まだ夢の中におられましたか」
冷静な声音と共に現れたのは、第二王子ライナルト。
まだ十五歳とは思えないほど、落ち着き払った瞳を持つ少年だった。
「……ライナルト。お前がこんなところに来るとは、珍しいな」
「それだけ兄上の沈黙が、王宮全体に重く響いているということです。誰も、今の貴方を動かせない」
「……私に何をしろと?」
「それは、兄上自身が決めることです。だが一つだけ、確かなことがあります」
ライナルトは一歩前に出て、兄の目をまっすぐに見据える。
「“真実”を前に、背を向けたまま王に即位するなど、あってはならない」
沈黙。
エリアスは唇をかすかに噛み、視線を外した。
「私は、あのとき……アンネリーゼに何ひとつ向き合えなかった。声を聞こうとも、目を見ようともしなかった」
「ならば、今からでも遅くはありません。兄上が王である前に、一人の男として、どう生きるかを選ぶべきです」
若き第二王子の言葉は、まるで諫言というより、未来を託す使者のようだった。
——その夜。
ライナルトは王妃ヘルミーネの私室を訪れていた。
「……あの子が動き出しましたね」
「ええ。ようやく、“王”になろうとしている」
「では私も……動くべき時でしょうか?」
王妃の問いに、ライナルトはほんのわずかに微笑を返す。
「アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハが道を切り開いた今、この国はようやく正しさを選べるようになったのです」
「王妃という道を捨て、それでもなお未来を支えようとするあの娘の意志に……我々が応えねばなりませんわね」
王宮は揺れていた。
だがそれは、滅びの予兆ではなく——
新しい夜明けに向かう、胎動のような揺らぎだった。
かつて聖女が祈りを捧げていた小礼拝堂の扉は、今は固く閉ざされていた。
その前で、エリアスはただひとり佇んでいた。
「……あのとき、私は、なにを守ろうとしていたのだろう」
静かな独白。誰に届くでもない言葉。
「神か? 愛か? それとも、ただの理想だったのか……」
彼の足音を遮るように、背後から現れた青年がひとり。
「兄上、まだ夢の中におられましたか」
冷静な声音と共に現れたのは、第二王子ライナルト。
まだ十五歳とは思えないほど、落ち着き払った瞳を持つ少年だった。
「……ライナルト。お前がこんなところに来るとは、珍しいな」
「それだけ兄上の沈黙が、王宮全体に重く響いているということです。誰も、今の貴方を動かせない」
「……私に何をしろと?」
「それは、兄上自身が決めることです。だが一つだけ、確かなことがあります」
ライナルトは一歩前に出て、兄の目をまっすぐに見据える。
「“真実”を前に、背を向けたまま王に即位するなど、あってはならない」
沈黙。
エリアスは唇をかすかに噛み、視線を外した。
「私は、あのとき……アンネリーゼに何ひとつ向き合えなかった。声を聞こうとも、目を見ようともしなかった」
「ならば、今からでも遅くはありません。兄上が王である前に、一人の男として、どう生きるかを選ぶべきです」
若き第二王子の言葉は、まるで諫言というより、未来を託す使者のようだった。
——その夜。
ライナルトは王妃ヘルミーネの私室を訪れていた。
「……あの子が動き出しましたね」
「ええ。ようやく、“王”になろうとしている」
「では私も……動くべき時でしょうか?」
王妃の問いに、ライナルトはほんのわずかに微笑を返す。
「アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハが道を切り開いた今、この国はようやく正しさを選べるようになったのです」
「王妃という道を捨て、それでもなお未来を支えようとするあの娘の意志に……我々が応えねばなりませんわね」
王宮は揺れていた。
だがそれは、滅びの予兆ではなく——
新しい夜明けに向かう、胎動のような揺らぎだった。
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