ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

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第一章

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 ルーファスの執務室に着くと、ルーファスのほかにゼンとノエルも待っていた。三人とも一様に気まずげな表情をしている。

「白の国はなんと?」

 その雰囲気から、やはりいい返事ではなかったのだとわかり、単刀直入に聞く。
 そっとゼンが白の国からの書状を私に手渡して、ララへ痛ましげに視線を向ける。書状の内容は私の記憶の通りだ。

「……別世界へとつなぐ扉を開くための魔力が足りず、すぐに開くことは出来ない。回復には三ヶ月はかかるだろう」

 息を呑むララを、ゼンがそっとソファへと促したのが視界の端から見えた。

「これは白の国の者の手落ちである。よって、別世界の住人の身柄は白の国で預かる」

 私が口にした内容にララは「それは……」と小さく呟いた。

「スペードの国に迷惑をかけたとの謝罪も別に受け取っている。だが、私達は君の滞在を迷惑だとは思っていない」

 そんなララに、ルーファスが言う。

「だから、君が決めて構わない。このまま我が国に滞在するか、白の国へ行くか」

 実はここでは二週目で初めて出る分岐がある。

『スペードの国に留まる』と『白の国に行く』だ。

 ゲームではないこの世界なら、二週目の選択肢ももちろん選ぶことが出来るのだけど、ララはどちらを選ぶ……?

 ルーファスの問いに、ララは一瞬も迷わなかった。

「ご迷惑ではないと言っていただけるなら、私はこのスペードの国でお世話になりたいと思います」

 ルーファスをまっすぐに見つめてそう言うと、ララは私に向き直った。

「今日で帰れると思っていた時、これでエルザさんとお別れになるのかと思うと、本当にとても悲しかったんです。でもこれから帰るまでの間、ここに滞在させていただけるなら……エルザさんともっと一緒に過ごして、あなたのことを知りたいと思います」

 ララの決意のこもった瞳に、私は「あなたが帰るとき、きっととても悲しくなるわね」とだけ言った。



「エルザは少し残ってくれ」

 ララと退室しようとしたら、ルーファスに呼び止められた。
 ノエルがララを促して部屋を出て行き、部屋には三人だけが残る。
 不思議に思っていると聞き慣れたノックの音がして、ルーファスが入室を促した。

「失礼いたします。キング」
「オーウェン?」

 部屋に入ってきたオーウェンは真面目な顔に訝しげな色を隠して礼を執った。

「俺が呼んだんだ。これについて意見が聞きたくてな」

 これ、と言って白の国からの書状を雑に振る。ゼンがそれを受け取り、オーウェンに手渡した。
 書状を読んだオーウェンは首をひねり、それに力を得たらしいルーファスが問いかけた。

「どう思う?」
「……白の女王は何度魔法を使われたのでしょうか? ……いや、そもそも魔法がすぐに使えないってどういうことだ? しかも回復に三ヶ月も? 燃費が悪いな。俺だったらこまめに休憩を挟むのになぜ空になるまで……いや、空になったと考えるのも早計か。百必要なところを五十残している可能性も……」

 思考に沈んだオーウェンはぶつぶつと独り言を呟き、国のトップ二人を置いてきぼりにしている。

 いつも実直に仕事をこなしてくれる私の補佐官は、聞くところによると魔法オタクらしい。
 私のことも最初は魔法の使い方が上手い人としか認識してなかったらしいから、筋金入りだ。
 キング達の幼馴染としての方が有名だったのに。

 ルーファスがたまらず口を挟む。

「オーウェン、悪いが魔法に関してではなく、白の国がどうして」
「そういえば魔力が空になったことがないから感覚がわからないな。魔力が空になるまで魔法を使用してもよろしいでしょうか。ここで」
「いいわけあるか! お前、物騒な属性ばっか持ってんだろ!」
「オーウェン。あとで絶対に後悔するから正気に戻った方がいいわよ」

 キングに不遜な態度を取ってしまったと取り乱す姿が容易に想像できてしまい、書状を取り上げる。

「あっ、も、申し訳ございません。ご用件をお伺いもせず……」

 正気になり取り繕って頭を下げるオーウェンにルーファスは眉間のシワを伸ばしている。
 用件を言ってる途中で遮られてたからな……。

「……白の国はどうして嘘をついているのか、君の意見を聞かせてくれ」
「嘘?」

 思わず口を挟んだ。
 どうして嘘だと分かったのだろう。

「当然、嘘だと思われます。回復に三ヶ月もかかるなどあり得ませんから。体力のように魔力も使えば減っていきますが、一晩でも休めば回復するでしょう?」
「そうだ。三ヶ月も回復しない魔力など聞いたことがない。問題は、なぜすぐにわかる嘘をついてまで魔法の使用を拒否したのか、だ」

 私は素直に感動した。

 ゲームではこんな会話はされておらず、当たり前のようにヒロインは三ヶ月をこの世界で過ごすことを受け入れていた。
 しかし二十四年もこの世界で過ごしたからこそ、私にとってもこの話には違和感しかない。ゲームでもルーファス達は気付いていたらしい話はあったが、裏でこんな会話がされていたなんて。

 ララには申し訳ないが、ゲームの裏話を見ているようで少し気分が高揚する。

「もしや、現在白の女王は魔法を使用できない状況にあるのでは?」
「お茶会には元気に出ておられたがな……ご病気をされているような様子はなかった」
「三ヶ月という区切りが気になりますね。次のお茶会に何かあるのではないですか?」

 三人で深刻に言い合っているが、当然答えなど出ない。

「やはりわからんな。可哀想だが、ララさんには我慢してもらうほかないか……」
「こちらから追求するわけにもいきませんしね」

 観光では私が選ばれてどうしようかと思ったものの、この話し合いはララのためのものだったらしい。
 ルーファス達も、ララに気を配ってくれているようでほっとする。
 まだまだ恋愛の対象というわけではないだろうけど、このまま親しくしていればストーリーも進むだろう。
 深刻に話し合う男達を少々気の毒に思いながら、そっと息をついた。
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