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第一章

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 ララがスペードの国に滞在してから一週間が経った。
 タダでお世話になるわけにはいかないと、今は侍女の仕事を手伝ってくれている。元々人見知りしない性格なのか、侍女達とも打ち解けて楽しく働いてくれているようで嬉しい。
 しかし私には気になることが――。

「エルザさん!」

 呼ばれて振り返ると、ララが小走りにやってくるところだった。今日もか……。

「ララ。走ったら危ないわ」
「ごめんなさい! エルザさんを探していたので、つい」

 私の元に飛び込むようにやってきたララは、はにかむように笑っていて、その可愛らしい表情にはつい私も笑みをこぼしてしまうのだけど……。

「私に何かご用?」
「はい! あの、今日初めてお給料を頂いたんです。だから、良ければ買い物に付き合っていただけませんか?」

 今日は買い物か……。

「ごめんなさいね。今日はどうしても抜けられない会議があって……」
「そうなんですか……会議なら仕方ありませんね。また付き合っていただけますか?」

 小首を傾げて問いかけてくるララに私も問いたい。
 なぜ毎日毎日攻略対象ではなく私に会いに来るの? 好感度が足りなくなるぞ。

 断っておくが、決して迷惑などではない。
 ここに滞在することが決まった翌日もその翌日もララと一緒に過ごせてとても楽しかった。
 しかしこのままならノーマルエンドまっしぐら……。

 どうしたものかと悩む私の視界に、ふわふわとしたクリーム色が映った。
 これだ!

「ノエル!」
「エルザとララちゃんだ! 二人ともこんなところで何してるの?」

 私たちに気付いたノエルがぴょんぴょんと跳ねるように近付いてくる。可愛い。

「ララが買い物に行きたいんだって。でも私はこれから会議があって一緒に行けないから、ノエルが町に連れて行ってあげてくれない?」

 確か、ノエルと二人で買い物に行くイベントがあった。これでノエルの好感度が上がるはず。

「いいよ! 僕もちょうど買いたいものがあったから! これから出かけるの?」
「あっ、は、はい! ご迷惑でなければ……」
「迷惑なんてことあるわけないよ! ララちゃんと買い物なんて すっごく嬉しい!」

 これでもかと言わんばかりの天使スマイルでララの手を取ると、行ってきまーすと私に手を振りながらノエルは駆け出して行った。
 私とばかりいて、攻略対象の三人と打ち解けてないのが問題だったのかもしれない。これを機にルーファスやゼンとも仲良くなってくれたらいいなと思いながら、会議室へと向かった。



「エルザ!」

 会議も終わり、オーウェンと歩いていると、向かいから慌てた様子のノエルが走ってきた。
 これほど慌てたノエルは珍しい。嫌な予感がして、オーウェンと顔を見合わせた。

「ララちゃん、帰ってきてる!?」
「わからないわ。一緒に帰ってこなかったの?」
「それが、出かける直前に兵士達の間でトラブルがあって呼ばれちゃったんだ。部下を付けたからララちゃんは買い物に出かけたんだけど、途中ではぐれちゃったらしくて……」

 ノエルの後ろには青ざめた一般兵が控えている。この人が付き添った部下らしい。

「申し訳ございません! 辺りを探したのですが見つからず、先に城へ帰られたのかと……」

 その話を聞いて思い出した。確かノエルとのお出かけイベントは、ノエルが来られなくなりモブ兵士と出かけることになって、迷子になるんだった……って今の状況そのまんまじゃない!

「本当に帰っていないの? 確認はした?」
「ゼンに頼んで確認してもらってるけど、多分帰ってきてないと思う……」

 ゼンが確認していて、まだ見つからないというなら城にはいないだろう。ノエルも同じ考えのようだ。

「もうすぐ暗くなるわ。急いで探しに行きましょう」

 空は夕陽色から群青へと変わり始めている。これが記憶の通りのイベントなら早く探しに行かないと……。
 一緒に行くと言ってくれたオーウェンも加えて、三人で大急ぎで城を飛び出した。
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