31 / 206
第一章
31
しおりを挟む
あちらこちらで人が固まっているが、どうやら各国の位持ちがご令嬢方に囲まれているらしい。
ゼンは笑いもせずに受け答えしていて記者に囲まれた政治家みたいだし、ノエルはケーキの貢ぎ物でご満悦だ。アレクシス様のあふれ出る色気には少し年上のお姉様方が卒倒寸前で少し笑ってしまう。ショーンは……どこにいるんだろう?
家柄が重視されないこの世界は完全実力主義で、各国の位持ちは男女を問わずとにかくモテる。
にもかかわらず私にはほとんどお声がかからない。あちらにいるクローバーの10である妖艶な美女は多くの男を侍らせているというのに……。
知り合いがみんな囲まれていて困っていたら、見慣れた緑色を見つけた。
ほっとして声をかけようとして、後悔した。
どうして一人でいると思ったんだろう。あんなにも優秀で優しい、素敵な人なのに。
オーウェンは見知らぬ令嬢と一対一で会話していた。令嬢は背を向けているがオーウェンの表情はよく見える。いつもの笑顔だ。侍女がいる時に見せる営業用のやつだ。廊下で侍女と会話しているのも見たことがある。その時だってあれだった。あの時は何も思わなかったのに。どうして。
私の心の中でうるさく主張するこの感情はなんだ。どうやら先日のあの優しさで私は勘違いしてしまったらしい。なんとも傲慢で身勝手なことを。
早く、見つからないうちにどこかへ行かないと。あの人は廊下で見かけた時だって侍女との会話を切り上げて駆け寄ってきた。そしてお小言が始まるのだ。
私を見かけたらいつもこちらに来て……くれなければ私は、本当に。
ぎゅうと胸元のネックレスを無意識に押さえた。
エメラルドグリーンの双眸がこちらにピタリと視線を合わせ、令嬢に断り足早で近付いてくる。
いっそ逃げてしまおうかと一歩足を後ろに下げたものの、中央に目を向けたオーウェンがほんの一瞬眉をひそめたことに気を取られているうちに、目の前に来られてしまった。
すっと肩を抱かれ、触れた肌から全身に向かって電流が駆け抜けたように痺れた。
私が着ているドレスは肩が出ていて胸元が開いた大胆だが上品なものだ。二の腕から手首までを白の総レースが覆っていてとても可愛くもあるこれをララが選んでくれた。
だから肩を抱かれれば、触れられたそこは、素肌で。
そんなことを考えていた私をオーウェンが「こちらへ」と会場の隅へ促すと、私の近くにいたらしい男性がオーウェンを睨み、舌打ちして去っていった。
会場の隅に寄れば、何事もなかったように大きな手はむき出しの肩から離れ、私とオーウェンは向かい合った。
私を見るオーウェンは珍しく言葉を探すように何度も口ごもり、目だけが真っ直ぐに私を捉えている。
「な、何か食べますか?」
やっと出た言葉はこれだった。
「お腹、すいてないから……」
コルセットで締められたお腹は少し苦しくて、いつもなら喜んで食べるスイーツも今日は食べる気にならない。
「その……」
またしても口ごもるオーウェンに首を傾げる。いつもなら会話に困ることなんてないのに。
「……ララさんは、白の国からのお客様ですから、ダンスの相手を務めるのは当然の礼儀かと」
……ん?
「何の話?」
今日はこれを聞いてばかりだ。
「ですから、曲が終わればすぐにこちらに戻ってきてくれますよ」
「だから何の話よ!?」
思わず大きな声が出てしまうが、本当にわからないのだから仕方ない。
「落ち込んでいるように見えましたので」
「……私が?」
オーウェンはまたしても少し口ごもった。言うか言わないか悩んでいるように見える。
よくわからない、いや嘘だ。なんとなくわかってきたわかりたくもない話はもう切り上げてしまおうと口を開いたが、先に声を出したのはオーウェンだった。
「好きな人が他の女性と仲良くしていて、落ち込んでいたんでしょう?」
……。
好きな人が?
他の女性と?
……なんだって?
「はあああ!? ……むぐっ」
「静かに! ダンスの最中だぞ!」
口を手で押さえられて、叫ぶ声が強引に封じられた。
「そんっ、そんなこと……!」
その手を振り払って弁解するが、顔中が燃えるように熱くなり、全身から汗が噴き出す。と、とんでもないことを言われた気がする!
「あー、はいはい。すぐに戻ってきてくれますからね」
……。
「……えっと、誰が?」
「ですから、キングが」
きょとんと言われた言葉には、さっきとは別の理由で体が噴火したように熱くなった。
まったく、どいつもこいつも……!
「ルーファスじゃないったら!!」
怒りのまま叫んだ言葉の意味を遅れて理解した私が慌てて言い訳しようとするも、オーウェンは「はいはい」と宥めるだけで、今度こそ私の頭は噴火したのだった。
ゼンは笑いもせずに受け答えしていて記者に囲まれた政治家みたいだし、ノエルはケーキの貢ぎ物でご満悦だ。アレクシス様のあふれ出る色気には少し年上のお姉様方が卒倒寸前で少し笑ってしまう。ショーンは……どこにいるんだろう?
家柄が重視されないこの世界は完全実力主義で、各国の位持ちは男女を問わずとにかくモテる。
にもかかわらず私にはほとんどお声がかからない。あちらにいるクローバーの10である妖艶な美女は多くの男を侍らせているというのに……。
知り合いがみんな囲まれていて困っていたら、見慣れた緑色を見つけた。
ほっとして声をかけようとして、後悔した。
どうして一人でいると思ったんだろう。あんなにも優秀で優しい、素敵な人なのに。
オーウェンは見知らぬ令嬢と一対一で会話していた。令嬢は背を向けているがオーウェンの表情はよく見える。いつもの笑顔だ。侍女がいる時に見せる営業用のやつだ。廊下で侍女と会話しているのも見たことがある。その時だってあれだった。あの時は何も思わなかったのに。どうして。
私の心の中でうるさく主張するこの感情はなんだ。どうやら先日のあの優しさで私は勘違いしてしまったらしい。なんとも傲慢で身勝手なことを。
早く、見つからないうちにどこかへ行かないと。あの人は廊下で見かけた時だって侍女との会話を切り上げて駆け寄ってきた。そしてお小言が始まるのだ。
私を見かけたらいつもこちらに来て……くれなければ私は、本当に。
ぎゅうと胸元のネックレスを無意識に押さえた。
エメラルドグリーンの双眸がこちらにピタリと視線を合わせ、令嬢に断り足早で近付いてくる。
いっそ逃げてしまおうかと一歩足を後ろに下げたものの、中央に目を向けたオーウェンがほんの一瞬眉をひそめたことに気を取られているうちに、目の前に来られてしまった。
すっと肩を抱かれ、触れた肌から全身に向かって電流が駆け抜けたように痺れた。
私が着ているドレスは肩が出ていて胸元が開いた大胆だが上品なものだ。二の腕から手首までを白の総レースが覆っていてとても可愛くもあるこれをララが選んでくれた。
だから肩を抱かれれば、触れられたそこは、素肌で。
そんなことを考えていた私をオーウェンが「こちらへ」と会場の隅へ促すと、私の近くにいたらしい男性がオーウェンを睨み、舌打ちして去っていった。
会場の隅に寄れば、何事もなかったように大きな手はむき出しの肩から離れ、私とオーウェンは向かい合った。
私を見るオーウェンは珍しく言葉を探すように何度も口ごもり、目だけが真っ直ぐに私を捉えている。
「な、何か食べますか?」
やっと出た言葉はこれだった。
「お腹、すいてないから……」
コルセットで締められたお腹は少し苦しくて、いつもなら喜んで食べるスイーツも今日は食べる気にならない。
「その……」
またしても口ごもるオーウェンに首を傾げる。いつもなら会話に困ることなんてないのに。
「……ララさんは、白の国からのお客様ですから、ダンスの相手を務めるのは当然の礼儀かと」
……ん?
「何の話?」
今日はこれを聞いてばかりだ。
「ですから、曲が終わればすぐにこちらに戻ってきてくれますよ」
「だから何の話よ!?」
思わず大きな声が出てしまうが、本当にわからないのだから仕方ない。
「落ち込んでいるように見えましたので」
「……私が?」
オーウェンはまたしても少し口ごもった。言うか言わないか悩んでいるように見える。
よくわからない、いや嘘だ。なんとなくわかってきたわかりたくもない話はもう切り上げてしまおうと口を開いたが、先に声を出したのはオーウェンだった。
「好きな人が他の女性と仲良くしていて、落ち込んでいたんでしょう?」
……。
好きな人が?
他の女性と?
……なんだって?
「はあああ!? ……むぐっ」
「静かに! ダンスの最中だぞ!」
口を手で押さえられて、叫ぶ声が強引に封じられた。
「そんっ、そんなこと……!」
その手を振り払って弁解するが、顔中が燃えるように熱くなり、全身から汗が噴き出す。と、とんでもないことを言われた気がする!
「あー、はいはい。すぐに戻ってきてくれますからね」
……。
「……えっと、誰が?」
「ですから、キングが」
きょとんと言われた言葉には、さっきとは別の理由で体が噴火したように熱くなった。
まったく、どいつもこいつも……!
「ルーファスじゃないったら!!」
怒りのまま叫んだ言葉の意味を遅れて理解した私が慌てて言い訳しようとするも、オーウェンは「はいはい」と宥めるだけで、今度こそ私の頭は噴火したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる