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第一章

43 補佐が夜に見たのは白昼夢か

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 焦りを悟られないように気をつけながら、人に囲まれている我が国のキングにそっと話しかけた。

「キング、申し訳ございません。少々よろしいですか」
「どうした」
「その……エルザ殿が」
「……だれか殴ったか?」
「……前科はありますが違います」

 以前、酔っ払いに絡まれた女性を助けたエルザ殿が「ならお前でいいや」とふざけたことを言われて体を触られたことがあった。
 ものの数秒で地に伏した男に女性達の鋭い視線が刺さっていたあの時のことを仰っているのだろうが、今は違う。

「そうか……」

 心底安堵したキングの声に、これまでのさまざまな苦労が滲む。

「その……アルコールを飲んで眠られてしまって……」
「……なに?」

 不思議そうに眉をひそめたキングをバルコニーに誘導すると、他にも二人、クイーンとジャックが付いてくるのがわかった。

 バルコニーに備え付けのベンチにエルザ殿を寝かせておいたのだが、戻ってみればララさんがエルザ殿の頭を自らの膝の上に乗せて、その空色の髪を優しく梳いていた。

「悪いな、ララさん。重いだろう」
「いいえ、まったく」

 気遣うキングに笑顔を返すララさんの視線がほんの一瞬こちらに合い、逸らされた。思わず首をかしげる。なんだか妙な視線だった。

「おい起きろ。何やってるんだお前は」
「……んぅ」

 キングが手の甲で頰を叩いて声をかけると、エルザ殿はわずかに身じろいで薄眼を開けた。

「……ルゥ…」
「おう。立てるか? もうお前は先に帰って」
「……ルーファスっ!」
「うわっ!」

 いきなりカッと目を見開いたエルザ殿はキングの首に抱きつき、その勢いでキングが尻餅をついた。

「ごめんなさああい! 私が悪かったわああ!」
「何がだっ! この酔っ払い!」

 キングが痛みに顔を歪ませ怒鳴るがそれどころではない。

 この人は何に謝罪を…?
 まさか、あなたというものがありながら他の男と。などと叫びださないだろうな!?

 刑の執行を待つ囚人のような気持ちでキングを窺い見るも、首を傾げている様子にこっそりと息をついた。
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