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第二章
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部屋は近いし、すぐに着けるだろうからと甘く考えた。
数分前の自分の考えは、まごうことなく正解だった。
「わたしが言えたことではないですが、あなたの苦しい気持ちはとてもよく分かります。信頼していた部下の方ですものね」
「ああ……10がこのようなことになって、私も困り果てている。だが、私はまだ10が人殺しなど、する人間だとは思えないんだ。もちろん、君が勘違いしていると言うわけではないが……」
「いいんです。だってわたし達は知り合ったばかりだもの。これからわたしのことをもっとよく知っていただければ、ご立派にキングとして立たれているルーファス様なら分かってくれるって信じてます」
「……私は、立派にキングとしてやっていけているだろうか。10のトラブルにはほとほと参っているというのに」
「あなたは、決して劣った人間なんかじゃありません。立派なキングではありませんか」
だってあの人。しれっと攻略されかけてるんだから。
今晩は部屋にいるようにと言われたけど、どうしても一人でいることが心細くなってしまった。もしかしたらみんな集まってるかもしれないからと言い訳しつつ、ルーファスさんの部屋を訪れた。
部屋の前に立つと声が聞こえてきて耳を澄ましたら──聞こえてきたのは、これだ。
呆れてものも言えないとはこのことだ。あんなにエルザさんを信じていたくせに、この体たらく。情けない!
わずかに開かれた扉から見えたのは、ソファに二人で腰掛ける姿。今はソフィアがルーファスさんの手を取っていて、なんだかスチルにありそうなワンシーンだなと私の中の冷めた部分が考えている。
って、怒ってる場合じゃない! このまま放置してたらエルザさんを助けられなくなる。
そう思うのに、体は縛られたみたいに動かない。
「わたしは、あなたを尊敬します。ルーファス様は、素敵で素晴らしいキングでいらっしゃいますよ」
「…………そのように言ってくれたのは、君が初めてだよ」
……私だって、どうしようもない人だと思ってるけど、キングとしてはそれなりに頼りになる人だって知ってる。
抱きしめられた胸も、不安な時に握りしめてくれた手のひらの温もりも、縋り付きたくなるほど暖かかったんだから。
言わないだけで。どうしようもないところばっかり見せられてきただけで。
ダメだ。このまま攻略が進んだら、この人がソフィアの味方になって、エルザさんを犯人にしてしまうかもしれない。
早く、部屋に入ればまだ間に合う。
……本当に……?
私が入ったところで、私よりもソフィアを取るんじゃないの……? だって、アリーはエルザさんよりも、この女を選んだんだから。
いいえ。不安に思ってる場合じゃない。エルザさんが動けない今、私がしっかりしないと。
この人がソフィアを好きになろうかどうしようかなんて私には、まっっったく! 関係ないけど! エルザさんが助けられなくなったら困る。
エルザさんが。
エルザさんが助けられなくなるから。
ギュウと奥歯を噛み締めていないと、ダメだ。目の奥がじわじわと熱くなってくる。
エルザさんが、なんて、ただの言い訳だ。
私が、ソフィアに傾倒するルーファスさんを、見たくないだけなんだ。
私のこと、好きだって言ったくせに……ヒロインと同じことを言う女なら、誰でもいいの?
まって。私、あの人に好きって言われたこと、あったっけ……?
…………………………ないな。そして、私もヒロインと同じことをあの人に言ったこともない。
ルーファスさんが私を好きだというのは、もしかして私の勘違いだったのかな……最近よく構ってきたのは、珍しい玩具を見つけたくらいの感覚だったりして……。
じわりじわりと視界が滲んでくる。
ああ、もう。認めてしまおう。
私は、あの人が私のことを好きじゃないかもしれないと思うと、涙が出そうなほど、悲しいし寂しい。
ソフィアなんかに、あの人をあげたくないと、思ってしまっているほどに。
扉のノブに、手を伸ばした。
「…………っ!?」
突然、後ろから口元を手で覆われて、扉を開くのを遮るように引きずり離された。
ここは敵地だ。逃げようともがこうとして、耳元で「しーっ、静かに」と囁かれた。
「あっぶねー、修羅場になるとこだった。っつかあいつ、案外脈ありっぽいな。いやー、さすがさすが」
目だけで後ろを振り返る。背後でまだ私の口元を覆い隠したままの人を認めて、ほっと体から力が抜けた。
「ララちゃん、俺のこと覚えててくれてるよな? ……あれ、忘れられてる?」
まだ声が出せないから首だけで肯定を表す。「良かったー。可愛い子に忘れられてたら泣くわ」と軽薄な言葉を返す人は、十分にその場を離れてから、私の口元を解放した。
「レグサスさん! どうしてここに?」
会うのが二度目になるスペードの9は「さぁて、どうしてだと思う?」と適当な返事をして、ヘラヘラと笑って見せた。
数分前の自分の考えは、まごうことなく正解だった。
「わたしが言えたことではないですが、あなたの苦しい気持ちはとてもよく分かります。信頼していた部下の方ですものね」
「ああ……10がこのようなことになって、私も困り果てている。だが、私はまだ10が人殺しなど、する人間だとは思えないんだ。もちろん、君が勘違いしていると言うわけではないが……」
「いいんです。だってわたし達は知り合ったばかりだもの。これからわたしのことをもっとよく知っていただければ、ご立派にキングとして立たれているルーファス様なら分かってくれるって信じてます」
「……私は、立派にキングとしてやっていけているだろうか。10のトラブルにはほとほと参っているというのに」
「あなたは、決して劣った人間なんかじゃありません。立派なキングではありませんか」
だってあの人。しれっと攻略されかけてるんだから。
今晩は部屋にいるようにと言われたけど、どうしても一人でいることが心細くなってしまった。もしかしたらみんな集まってるかもしれないからと言い訳しつつ、ルーファスさんの部屋を訪れた。
部屋の前に立つと声が聞こえてきて耳を澄ましたら──聞こえてきたのは、これだ。
呆れてものも言えないとはこのことだ。あんなにエルザさんを信じていたくせに、この体たらく。情けない!
わずかに開かれた扉から見えたのは、ソファに二人で腰掛ける姿。今はソフィアがルーファスさんの手を取っていて、なんだかスチルにありそうなワンシーンだなと私の中の冷めた部分が考えている。
って、怒ってる場合じゃない! このまま放置してたらエルザさんを助けられなくなる。
そう思うのに、体は縛られたみたいに動かない。
「わたしは、あなたを尊敬します。ルーファス様は、素敵で素晴らしいキングでいらっしゃいますよ」
「…………そのように言ってくれたのは、君が初めてだよ」
……私だって、どうしようもない人だと思ってるけど、キングとしてはそれなりに頼りになる人だって知ってる。
抱きしめられた胸も、不安な時に握りしめてくれた手のひらの温もりも、縋り付きたくなるほど暖かかったんだから。
言わないだけで。どうしようもないところばっかり見せられてきただけで。
ダメだ。このまま攻略が進んだら、この人がソフィアの味方になって、エルザさんを犯人にしてしまうかもしれない。
早く、部屋に入ればまだ間に合う。
……本当に……?
私が入ったところで、私よりもソフィアを取るんじゃないの……? だって、アリーはエルザさんよりも、この女を選んだんだから。
いいえ。不安に思ってる場合じゃない。エルザさんが動けない今、私がしっかりしないと。
この人がソフィアを好きになろうかどうしようかなんて私には、まっっったく! 関係ないけど! エルザさんが助けられなくなったら困る。
エルザさんが。
エルザさんが助けられなくなるから。
ギュウと奥歯を噛み締めていないと、ダメだ。目の奥がじわじわと熱くなってくる。
エルザさんが、なんて、ただの言い訳だ。
私が、ソフィアに傾倒するルーファスさんを、見たくないだけなんだ。
私のこと、好きだって言ったくせに……ヒロインと同じことを言う女なら、誰でもいいの?
まって。私、あの人に好きって言われたこと、あったっけ……?
…………………………ないな。そして、私もヒロインと同じことをあの人に言ったこともない。
ルーファスさんが私を好きだというのは、もしかして私の勘違いだったのかな……最近よく構ってきたのは、珍しい玩具を見つけたくらいの感覚だったりして……。
じわりじわりと視界が滲んでくる。
ああ、もう。認めてしまおう。
私は、あの人が私のことを好きじゃないかもしれないと思うと、涙が出そうなほど、悲しいし寂しい。
ソフィアなんかに、あの人をあげたくないと、思ってしまっているほどに。
扉のノブに、手を伸ばした。
「…………っ!?」
突然、後ろから口元を手で覆われて、扉を開くのを遮るように引きずり離された。
ここは敵地だ。逃げようともがこうとして、耳元で「しーっ、静かに」と囁かれた。
「あっぶねー、修羅場になるとこだった。っつかあいつ、案外脈ありっぽいな。いやー、さすがさすが」
目だけで後ろを振り返る。背後でまだ私の口元を覆い隠したままの人を認めて、ほっと体から力が抜けた。
「ララちゃん、俺のこと覚えててくれてるよな? ……あれ、忘れられてる?」
まだ声が出せないから首だけで肯定を表す。「良かったー。可愛い子に忘れられてたら泣くわ」と軽薄な言葉を返す人は、十分にその場を離れてから、私の口元を解放した。
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