レヴシャラ~夢想のくちびるは魔法のキスに抱かれて~

菜乃ひめ可

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1.雨音

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「馬車をとめて!」

 今日はとても強く雨が降っている。そのせいもあって午後六時前にも関わらず辺りはすでに暗く、夜の訪れを感じさせる静けさ。そんな薄暗い街中で突然馬車を降りていったのは、この街では有名なベルメルシア家の御令嬢アメジストである。

「アメジスト様?!」

 彼女の突発的な行動に驚き慌てふためいた声を発したのは、馬車に同乗していたお護り役のジャニスティ。大雨の中飛び出したお嬢様の後を追い急いで馬車を降りると、彼女の元へ駆け寄り傘を広げた。

「お嬢様、急にどうし――」

 どうしたのかと言いかけた彼は、目の前で起こっている惨状を見てハッとした。そして自分の口元に手をやると言葉を失う。その一刻を争う状況にアメジストは、雨に濡れながらも声を荒げジャニスティに訴えかけた。

「この子びしょ濡れで倒れて震えているの! ねぇジャニス、早く助けなきゃ!」

 いつもなら人助けをするアメジストの事をうやまい、出来る限りの協力をしてきた彼。だが今回ばかりは二つ返事とはいかなかった。

「お嬢様、落ち着いて聞いて下さい。恐らくこの子はもう……」

 長い時間、雨に打たれ続けていたのであろう。もう息も絶え絶えなその子を、諦めるよう遠回しに告げる。しかしアメジストの信念は揺るがない。何とか助けようと白くやせ細り冷え切ったその小さな体を、自分の胸元へ引き寄せ優しく抱きしめると、必死で温めようとした。

「……」

「酷な事を言うようですが」

「……ゃょ」

「はい? いかがな――」

「嫌よッ!!」

 暗闇の中、打ち付ける雨はまるで音楽を奏でるように様々な音を鳴らしている。その雨音に同調するかの如く、美しい声を響かせたアメジスト。

 一点の曇りもない澄んだ桃紫色の瞳を、涙でじわっと潤ませながら真っ直ぐと彼の目を見つめ、ありったけの大きな声で抵抗をする。ジャニスティはその姿に心憂こころうい気持ちになったが、彼もまた真剣である。後先考えない行動(救助)をするわけにはいかなかったのだ。

「お気持ちは重々承知しておりますが、その……助けようにも」

 立派に見えてもアメジストはまだ十六歳。お嬢様とはいえ両親の許可なく勝手な行動は許されない。お護り役であり教育係でもある彼は、その彼女が持つ純粋無垢な心を傷つけまいと言いづらそうに、だが何とか理解をと言葉を選びながらさとす。

「いいえ、あなたは解ってない!」

 それでもアメジストは諦めない。

 はっきりと自分が正しいと思う意見を、彼に突き付けた。
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