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24.回復 *
しおりを挟む「ゲリール(癒し)」
キラッ――。
「一体……どうしてこんな事に」
状況が把握出来ないジャニスティ。しかし目の前ではアメジストの人差し指から流れ出る、赤く美しい血。今は止める事が最優先と考えた。そこはさすがに冷静である。
完全ではないがほぼ回復。彼が使う癒し魔法で一秒もかからずアメジストの傷は治る。そのくらいは彼にとって造作もない事。
だが、しかし。
「なぜ、目を覚まさないのですか? お嬢様」
ジャニスティは気を失っている彼女を優しく、強く想いを込めるように身体を抱き寄せると、静かにその名を呼んだ。
「目を覚ませ、アメジスト」
◆
――『あぁ、なんて落ち着くのかしら。甘くて優しいとても良い香り……どきどき、ドキドキって自分の胸が高鳴っている音が聞こえるの。
それに恥ずかしい時みたいに、心の奥が熱くなって、くすぐったくて。
この気持ちは何かしら?
でも、私の心は知っているみたい。安心する温もりと聞こえちゃいそうな、ドキドキ。お花のように広がる、この甘く優しい爽やかな香り』
(そう、私は知っているわ)
そして大好きな、“声”――。
◆
「……ま! ……様!!」
――誰かが、呼んでいる。私の事かしら?
「アメジスト様!」
「う……ん? あ、れ? 私。ジャ……ニス?」
気が付いて目を開けたアメジストの瞳に映った景色。それは見覚えのあるシャツの隙間から射す、薄暗い光の中。その瞬間、自分が置かれている状況を理解すると、身体は火照りみるみる紅潮していくのが分かった。
「お嬢様、良かった。案じておりました」
安堵感からかジャニスティはさらに強く抱きしめ、アメジストの髪と頭を細い指で撫でる。
「うん……」
思っている事が、上手く言葉にならない。その温かな胸に顔をうずめ聞こえた彼の心臓は、とても落ち着く幸せな音だ。アメジストは嬉しさで胸がいっぱいになった。
「あ、あの」
細くとも力強く安心感のあるジャニスティの腕は、大切な宝物を守るように彼女の背中に回されている。
次第にアメジストは優しい腕の中、その胸に自分がいる事がとても恥ずかしく、見えない顔を赤らめ目を瞑った。
「しかしお嬢様、なぜ部屋にいらっしゃるのですか?」
「えっと、ジャニス。私が此処へ来てからの記憶は?」
少しだけ彼の腕力が弱まり顔を上げたアメジスト。すると心配そうな表情のジャニスティと目が合う。
「申し訳ありません。何も覚えていないのです」
その時、様々な気持ちが溢れた彼女の瞳は潤んでいった。
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