上 下
24 / 218

24.回復 *

しおりを挟む

「ゲリール(癒し)」

 キラッ――。

「一体……どうしてこんな事に」 

 状況が把握出来ないジャニスティ。しかし目の前ではアメジストの人差し指から流れ出る、赤く美しい血。今は止める事が最優先と考えた。そこはさすがに冷静である。

 完全ではないがほぼ回復。彼が使う癒し魔法で一秒もかからずアメジストの傷は治る。そのくらいは彼にとって造作もない事。

 だが、しかし。

「なぜ、目を覚まさないのですか? お嬢様」

 ジャニスティは気を失っている彼女を優しく、強く想いを込めるように身体を抱き寄せると、静かにその名を呼んだ。

「目を覚ませ、アメジスト」



――『あぁ、なんて落ち着くのかしら。甘くて優しいとても良い香り……どきどき、ドキドキって自分の胸が高鳴っている音が聞こえるの。
 それに恥ずかしい時みたいに、心の奥が熱くなって、くすぐったくて。

 この気持ちは何かしら?

 でも、私の心は知っているみたい。安心する温もりと聞こえちゃいそうな、ドキドキ。お花のように広がる、この甘く優しい爽やかな香り』

(そう、私は知っているわ)

 そして大好きな、“声”――。



「……ま! ……様!!」

 ――誰かが、呼んでいる。私の事かしら?

「アメジスト様!」
「う……ん? あ、れ? 私。ジャ……ニス?」

 気が付いて目を開けたアメジストの瞳に映った景色。それは見覚えのあるシャツの隙間から射す、薄暗い光の中。その瞬間、自分が置かれている状況を理解すると、身体は火照ほてりみるみる紅潮していくのが分かった。

「お嬢様、良かった。案じておりました」

 安堵あんど感からかジャニスティはさらに強く抱きしめ、アメジストの髪と頭を細い指で撫でる。

「うん……」

 思っている事が、上手く言葉にならない。その温かな胸に顔をうずめ聞こえた彼の心臓は、とても落ち着く幸せな音だ。アメジストは嬉しさで胸がいっぱいになった。

「あ、あの」

 細くとも力強く安心感のあるジャニスティの腕は、大切な宝物を守るように彼女の背中に回されている。

 次第にアメジストは優しい腕の中、その胸に自分がいる事がとても恥ずかしく、見えない顔を赤らめ目を瞑った。

「しかしお嬢様、なぜ部屋ここにいらっしゃるのですか?」
「えっと、ジャニス。私が此処へ来てからの記憶は?」

 少しだけ彼の腕力が弱まり顔を上げたアメジスト。すると心配そうな表情のジャニスティと目が合う。

「申し訳ありません。何も覚えていないのです」

 その時、様々な気持ちが溢れた彼女の瞳は潤んでいった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,463pt お気に入り:6

天使志望の麻衣ちゃん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:1

いっぱいの豚汁

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:915pt お気に入り:0

一番悪いのは誰

jun
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:2,063

本当はあなたを愛してました

m
恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,606pt お気に入り:218

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,783pt お気に入り:1,875

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,635pt お気に入り:58

処理中です...