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34.紅茶 *

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「お嬢様のお好きな、ベルメ苺のミルクティーをご用意いたします」

 ベルメ苺とはベルメルシア家の契約農家が栽培するオリジナル品種である。一口で食べられるほどに小さく可愛らしいその苺は、ジューシーで甘みがあり後味爽やか。その小さな果実からは想像できないみずみずしい果汁が口の中に広がると、深い満足感に心の声が漏れだす。

 街でも人気でまさに「これは美味びみ!」と言われ、喜ばれていた。

 そしてアメジストにとっては幼少の頃から、菓子より何より大好きだという特別な想いのある苺。その苺を使用した紅茶、しかもミルクティーと聞き舞い上がり両手のひらを胸につけて組むと、喜ぶ気持ちを表現する。

「本当? とても嬉しい!」
 アメジストの安心しきった笑顔。ジャニスティの優しい心遣いに再び、彼女の心はぽわっと熱くなり自然と笑みが零れた。

 キィ――ガチャン。

 紅茶の準備へ向かうジャニスティに、クォーツはワクワクとついて行く。扉の閉まる音が響くと、静まるベッドの部屋に一人になったアメジスト。外ではシャラシャラと鳴る木々の音が耳をくすぐり、その揺れる葉を眺めてみる。

 そして深く――目を瞑って。
「不思議、目を閉じているのに。陽の光が見えてくるみたい」

 心地の良い時間を過ごす彼女。明るい太陽は閉じた瞼から光を通し流れ込んでくる。その温かさに上機嫌でいるアメジストの心に突如、不安が押し寄せてきた。

 目を瞑った世界で明るく思えていたはずの視界が、急に暗くなる。

 ゾクッ。

――えっ?
 心に冷たい何かを感じ恐怖心が生まれた。ハッと目を開け辺りを見回すアメジストだったが、何も変わった様子は見られない。

「な、に? ……何だったのかしら」

 ガチャ――。

「お待たせしました」

 るんるん気分のクォーツとジャニスティが飲み物を持って戻ってきた。アメジストは不安な気持ちを取り繕うようにクォーツを抱き締め「楽しかった?」と何気ない話をする。

 その顔色に気付かないはずがないジャニスティは一言だけ、彼女に声をかけた。

「アメジスト様、大丈夫ですよ」

(いつもそう、あなたは深く何かあったのかと聞くこともなく、言葉をくれるの)

――何でも、お見通しなのね。
「ジャニス、今まで通りずっと……私と一緒にいてくれるかしら?」
「えぇ、もちろんです。私は貴女様が許す限り、ずっとお傍でお護りします。それから――」

 ジャニスティの入れた紅茶の香りが部屋を彩り始める。
 それはとても心地良く、落ち着く香りだ。
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