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81.命令
しおりを挟むオニキスは厳しく真剣な表情で、話し始めた。
「ジャニスティ。君には今まで通りアメジストの教育等仕事に加え、我がベルメルシア家の新しい家族となったクォーツの世話、その他全てを一任する」
オニキスの言葉に驚きを隠せないジャニスティ。
「は、ぃ? 旦那様……今なんと仰いましたか」
「ん? 君には今後、今まで以上にもっと働いてもらおうと、伝えたが」
「なっ――?!」
(あり得ない。そのような判断を、あの危ない橋を渡らないオニキスが、言うはずは!!)
一驚を喫した顔で動けなくなったジャニスティは、声も出ない。
「あぁ~そうか。処罰というよりは、ベルメルシア家当主である私からの、命令だな」
信じられないという顔で呆然と立ちすくみ、頭の中では状況の把握に入る。その姿にフフッと少し悪戯に笑う、オニキス。そしてジャニスティの右肩に手を置き、そっと声をかけた。
「ジャニス、君は私を信じてここまでついてきてくれた。そして今も――信頼してくれているのだな、と改めて確信した」
「……もちろんだ。貴方のお陰で私は生きている」
その言葉と同時にジャニスティはキラリと一粒、涙を頬に滑らせる。喜びなのか? 感激なのか? 彼自身、自分の心が理解不能であった。
しかしジャニスティには一つ、揺るがぬ決心があるのだ。
――ベルメルシア=オニキス。何があろうと私は貴方に、忠誠を誓おう。
ジャニスティにとって人生の終わりを待つだけだった暗闇の住む“終幕村”での暮らしは思い出したくない空っぽの時間。そこから救い出してくれたオニキスはジャニスティにまだ『生きる価値がある』と教え、気付かせた命の恩人だと思っていた。
(無理やりでもなく、押し付ける訳でもなかった。貴方はただただ優しく、導くように……諭すように私に光を見せ、私の心が赴くままに動くのを見守り、任せてくれたのだ)
「オニキス、私は……貴方へ、感謝の言葉しか見つからない」
ジャニスティは再度深々と頭を下げるとあれから数粒、頬を伝った美しい涙を急いで拭う。
「私の方こそありがとう、ジャニス。さぁ、顔を上げてくれ」
心地良く響いたオニキスの声に安心するとジャニスティはいつもの、真っ直ぐとした姿勢に戻った。
「私は敬愛するベルメルシア家に一生、仕える所存でございます」
彼の瞳は今までにないほど澄み、正気を感じる。
「よし、ではクォーツ」
その肩に乗せたクォーツを見上げ話すオニキスの表情は父のように、穏やかに微笑んでいた。
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