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87.威圧
しおりを挟む朝は特に無口で凍てつくような空気感を纏う、冷酷な印象のスピナ。
――しかし、今はどうだろう?
その異常なまで感情的になっている姿は皆をいつも以上に怯えさせ激しい動揺と恐怖を、心に植え付ける。
――ざわざわ……。
(奥様よ、すごい声)
(今日はご気分が芳しくないようですね)
(どうなさったのかしら?)
食事の部屋で朝食の準備をしていた者たちの囁く声は奥にいるアメジストの耳にも微かに、聞こえてきた。
「あの声、お母様?」
(とても怒っているみたい。それに何だか様子が)
トントン。
誰かが背中に触れ、アメジストは静かに振り返る。
『お嬢様! お部屋を出て……お逃げ下さい』
『え、ラルミ? 何故、そのようなことを』
『お怒り状態の奥様に会われたら――』
スピナに見つからないよう小さな声で助言するのは朝の楽しい時間で心から打ち解けた、ラルミである。
『で、でも』
『奥様は、またお嬢様を……』
『ラルミ、ありがとう。でも、もう私は逃げないわ』
――そうよ、私が何とかしなきゃ!!
恐怖心を抑え気持ちを奮い立たせると、アメジストは騒ぎの起こっている中央へ向けてゆっくりと、歩く。
「あぁーもう! うるさいわね、お黙り!!」
スピナはざわつく周囲の声に気付くと振り向き、鋭い目つきで威圧的な言葉を放つ。
「なぁ~に? 何なの?! コソコソ、コソコソと話して。そこのお前達は――」
カッカッカッ――――ガシッ!
次はまた別のお手伝いの肩を、両手で強く逃げられぬように掴む。
「はっ――い、いいえ……私は、何も」
「また、一から指導が必要なようねぇ?」
スピナの低く地響きのような声が部屋中に、広がる。あまりの剣幕と勢いに置かれた食器がカタカタと音を立て、それを見た皆は驚き震える。
「お母様、一体どうなさったのですか?!」
その一声にスピナの表情は一変、ニヤッと笑い向き直る。
(来た来た、んっふふ。私が今一番、話したかったのは“お前”だよ)
「待っていたわよ~、アメジスト」
「え、あっ! おはようござ――」
ガシッ!!
「痛ッ?! お、かあさ……」
先程よりも強く、強く、アメジストの肩を掴んだスピナは不気味に微笑み、質問を始めた。
「可愛い~可愛い~アメジストちゃん。何を隠しているのかしら?」
――――ドクン。
まるでこれまでの出来事が見透かされているかように、凝視される。
その威圧感に怯みそうになり一瞬、スピナから視線を外すアメジストであったがすぐに笑顔を戻すと自信を持った顔で、答えた。
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