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90.感覚
しおりを挟む「お嬢様、ど、どうぞお席へ!」
暗い表情になっていくアメジストへ差し支えのない言葉で声をかけたのは、お手伝いのラルミだ。
余計なことを言えばスピナに何をされるか、分からない。
「ぇ……アッ!」
その思いに気付いたアメジストは「ありがとう」と笑顔で答えた、その時。
――ゾクッ。
一瞬、背後からの強い憎悪感にアメジストは振り返る。すると継母スピナの恐ろしげにギラギラとした眼が、彼女を見ていた。
「あ、あの! おか……」
勇気を出して話しかけようとするアメジストの声を聞きもせずサッと視線を逸したスピナは、その視界から去っていく。
(どうすれば平和に、お母様と解り合えるの?)
物心ついた時からスピナが“母”として此処に存在していた、日々の暮らし。自分を産み亡くなった母、ベリルの事は父、オニキスからの思い出話と美しい写真が数枚あるだけだ。
(そうだわ、私は)
――スピナお母様の事は、何も存じ上げない。
ふと、隣にいるジャニスティを見つめ、思う。
そして継母スピナとジャニスティが言い争う言葉の意味が気になっていたアメジストは聞きづらそうにしながらも、言葉を選び質問する。
「ジャニス、その……お母様と、何かあったの?」
「いえ、何も。問題ございません」
だが彼はいつもの安心感のある口調と表情で、そう彼女に答えた。
「そう……なの」
ジャニスティの背中で身を隠すようにしていたアメジスト。その距離――すぐ傍での会話はもちろん、彼女の耳に入りその内容は全て、聞こえていた。
――『貴女も。私と一緒なのでは?』
(二人が『一緒』って、どういうことなのかしら)
継母スピナと心から信頼するジャニスティの静かなる口論。その状況を目の当たりにしたアメジストの心には釈然としない気持ちが生まれ、だんだんと不安になっていく。
ふわっ――。
「あっ、え……?」
ふと顔を上げると見えた、天色の瞳。
――――ドキッ。
「ジャ、ジャニス……」
(こんなに、綺麗な瞳……輝く色をしていたのね)
俯き気味になっていくアメジストの髪にゆっくりと触れる、温かい手。それは幼い頃から何度も、何度も感じて、経験してきたはずのジャニスティからの、優しい心。
しかし今はなぜか? ジャニスティの瞳の色、その手から伝わってくる心が、光のように感じられた。
(どうしてかしら? 何だか胸が……頬が熱い!)
自分の中で何が起こっているのか?
くすぐられるような心情にアメジストは初めての感覚を、覚えたのであった。
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