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108.作法
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クォーツはとても、無邪気である。
「おぉ~いひぃ♡」
さすがにまだ人族の言語を覚えきれていない彼女は意味を理解している「おいしい」という言葉だけで嬉しい気持ちを一生懸命に、表現する。
一口一口温かなスープを教えられた通りに少しづつ、品よく口へ運びながら食べる。その喜び感動するクォーツの声は、明るく響いた。彼女のご満悦な桃色の頬と様々に発せられる声色はまるで、歌っているかのようだ。
「うふふ、クォーツお嬢様は、とても表情が豊かですわねぇ」
「えぇ、私たちの方が逆に、幸せをもらったような気分です」
小さなお嬢様に「おいしい」と言ってもらえた料理人やテーブルセッティングをしたお手伝いたちも皆、にこやかに話す。
未だ謎の多い種族――レヴシャルメ。
実際にどのような食材の料理を食し、何を飲んでいたのか?
そもそも“食べる”という行動がレヴ族にとって生きていくために必要とするものなのか? 確認のしようもなくそれすら不明だったジャニスティは、違和感なく美味しいと言い満足して食べるクォーツの姿にホッと、胸を撫でおろす。
(まだ少しマナーには慣れぬようだが。食物の種類は問題なさそうだ)
当然のことながらクォーツがテーブルマナーを学んだのは昨夜。さすがに少し、ぎこちなさが残る。が、しかし――。
そこはさすが優秀なベルメルシア家のお手伝いたち。
「どうぞ、クォーツ様」
クォーツの周りで世話をする者たちはその小さなお嬢様が間違い持つカトラリーを流れるようにサッと持ち替えさせ、優しく、それも無意識にフォローする。
その素早さはお見事!
スピナに気付かれることなく無事に、食事の時間は過ぎていった。
こうして笑顔で朝食を終えることの出来たクォーツの様子にジャニスティは再度安堵し、微笑する。
「えっと、ごちそう様でした!」
「ご馳走様でした。クォーツ、美味しかったかしら?」
「ハイッ、お姉様! とーっても」
笑い合うアメジストとクォーツを食事の間、冷たく突刺すような視線で見ていたスピナは食後の珈琲を飲み干すと、口を開く。
「あぁ~そうそう、アメジスト?」
「は、はい、お母様」
急に話しかけられ一瞬だけ怯みそうになるアメジストであるがすぐに一言、返事をした。それだけで今は精一杯なアメジストの反応を面白そうに且つ笑いを堪えた表情でスピナは、話を続ける。
「三日後、お茶会を開こうと思いますの――」
いよいよ企みの種を蒔く準備を、心底で進めていたのであった。
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