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158.留意
しおりを挟むキィー……。
いつも人気のない裏口。中へ入るとすぐ、ジャニスティの部屋は目と鼻の先にある。クォーツを抱きかかえる彼に代わりエデが扉を静かに開けた。
「お気をつけて」
「ありがとう。あぁ、その。エデ」
遠慮がちに引き留めるジャニスティの声に顔を上げたエデは落ち着いた声色で、にっこりと微笑み答える。
「はい。いかがなされましたか?」
「いや……旦那様の移動中、十分に警戒を」
午後から予定されているオニキス参加の祭典にはエデが移動の馬車を出す。もちろん信頼する彼が運転するのだから間違いない。
が、しかし。
開催時間と場所の範囲変更が連絡もなく行われていたことに妙な胸騒ぎを感じ拭えないジャニスティは、一抹の不安を抱いていた。
そんな懸念する思いが彼の心に重く、強く圧し掛かりそしてエデに「注意してほしい」と、珍しく念を押したのである。
「大丈夫ですよ、ご安心下さい。ではいつものお時間に、お迎えに参りますが……おっと! そうでした」
何かを思い出したかのような口ぶりで今度はエデが彼を、引き留めた。瞬時に変化した顔は先程までとは違う、語気を強めた声に加え眼光は鋭くなる。
それからジャニスティの少し不安気な気持ちを察するかのようにエデは彼を真っ直ぐに見つめ、注意を促す。
「坊ちゃま、誰が何と言おうと惑わされず、ご自分の志を信じるのです。そしてくれぐれも、どうかご無理なさいませんように」
「あ、あぁ……分かった」
「それでは」
キラッ(『トランキル』)――!!
「――ッ!?」
一瞬、耀った不思議な瞳に思わず、目を瞑ったジャニスティ。次に見た光景は柔らかな顔に戻っていた、エデの表情である。
「今の……」
「では、坊ちゃま。私は此処で失礼します」
最後にそう言うとまた微笑み軽く会釈をしたエデは扉を閉め、再び周囲を確認すると素早く裏口から去った。
(あの眼光、そしてこの空気……)
「まさか、私に?!」
――『平穏に、冷静に』
突然、頭の中に流れ込んできた“言葉”にハッとするジャニスティ。
それは恩師が彼に掛けた魔法であり“落ち着きなさい”という想いが込められていた。その絶対的に心強い魔力を感じたジャニスティの心身はエデの力を全身で感じ、熱くなる。
そして一人、呟いた。
「エデ。私もいつか貴方のように、強く、そして心優しい者に。“気高きサンヴァル族”に――」
必ずいつかは実現させる、そう決意したジャニスティはクォーツを強く抱きしめ、心に刻むのであった。
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