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161.直観

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(この異常なまでに、甘ったるい声風こわぶりは……)
 彼の脳内にすぐ浮かんだのは、アメジストが彼を心配し部屋へ来ていた時間に突然、訪ねてきた者。

「んっふふ、まぁ~嬉しい」

――まさか、スピナ奥様!?
(よりにもよって、急いでいる今とは……)

 顔を確認する前に分かってしまった、声の主。ジャニスティはこの場所を通る前に感じた心の迷い、そしてあまり気が進まないと思っていた原因がこの出来事を予感させるものだったのではないか? そう思わずにはいられなかった。

(やはりいつも通り、屋敷の中を行くべきだったか)

 直感――裏の中庭には“良い雰囲気を感じない”という気持ち。
 それをもっと念頭に置き、通常通り此処を避けていれば。もっと考えれば方法があったかもしれない、この状況を回避することが出来たかもしれないと思い、自身の動きが浅はかさだったことを強く責める。

(今更、考えても仕方がない)
――さて、どうする? ジャニス。
 後悔がないわけではない。しかしそれよりも、この場をどう切り抜けるかが問題だと心の中で自分に問いかけていた。

「ねぇ~え~? 聞いて下さる?」
「えぇ! もちろんですとも!! 光栄でございます、奥様」

 そんな中、聞こえてきた会話にジャニスティは嫌悪感を抱く。

 上機嫌で相手に話しかけているスピナの弾むような声。それに調子よく答えさらに彼女の機嫌を取っているのは一体、何者なのか?
 その者が見える位置まで物音を立てないよう歩き移動したジャニスティは気を静めながら、中央の大きな木の影に隠れるように立つ二人を見つける。

(あの者は? 見かけない顔だ)
 ジャニスティの見たことない、知らない“訪問者”。彼はより一層の警戒をしつつ何とか見つからずに通る手段を模索していると聞こえる会話に、驚愕する。

「やーめーて。そんな呼び方……言って? ねぇ、ほぉら」
「もちろんですとも。僕の愛するスピナ様……奥ゆかしき貴女は、先程お会いした瞬間よりも」
「あら、それ以上は言わないでぇ」

(どういう事だ!? この屋敷内で密会をするなど)
「あり得ない」

「いえ、まだこの思い伝えきれません。此処に咲くどの花よりも、お美しい! あぁ、誰にも渡したくない溢れる僕の愛――ッ」
「……好きよ」
 見知らぬ者の言葉を遮り唇を奪う、スピナの熱い愛撫キス


(さすがにこれは、笑えない冗談だ)
「ハッ最低だな。吐き気がする」

 スピナの密会現場を見てしまったジャニスティは怒りを通り越し、呆気に取られていた。
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