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168.欺瞞

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「もちろん、簡単ではなかったわ。そう、運が良かったのはベリルが子供を産んで数時間後。死んだ時に私が側にいたという事実。んふふふ……動揺するふりをして、大泣きしながら部屋を飛び出して皆に向かって芝居をしたものよ~」

 まるで当時その場にいたベルメルシア家の者たちを嘲笑し高笑うような声が裏中庭に、響き渡った。

「なんと! スピナ様は、その……オニキスさんが溺愛していたベルメルシア家の元当主である、ベリルさんの死を、というのですか!?」

「そう……枕元で、死ぬところをず~っと見てた。あの子ベリルって、私の事を“スピナお姉様”と呼んでいたからねぇ。まぁそれも手の内、私の計算だったのよ。おかげで屋敷にはいつ出入りしても怪しまれることがなかったわ。死んだ日も、私の嘘泣き顔と涙、哀しみの言葉で十分に説得力はあったようね」

(信じられない、この内容と口ぶり。嫌な考えしか出てこない)
 嫌悪感でいっぱいになった瞬間ジャニスティの頭の中にスピナへのある、疑惑が浮かび上がっていた。

「しかし、これはまた、どういう意味が?」
 再度考えるカオメド。これが一体何を、オニキスとの関係は? と。

「んふ。私、オニキスにこう言ったの。彼女が死ぬ間際まで側にいた私が最後の言葉として『後の事をお願いします』と、頼まれたって。もちろん私の作り話だけれど。それを聞いた彼が心を許したその時に――と特製の媚毒を、飲ませたってわけ」

 話を聞き無言になるカオメドの表情はどことなく、ほくそ笑んでいる。

「あ~ら? 私って、怖いかしら?」
「いや!! ますます、そそられるよ……スピナ」

「んー……どうしたの? あなたにしては少し乱暴」
「えぇ、妬いているんですよ。僕だけの貴女でいてほしいんでね」

 いつの間にかスピナの事を“様”を付けずに呼び捨て抱擁するカオメド。そして信じられないことにあの傲慢なスピナがその言動を、受け入れている。不断に変転する彼のさまは美しく色を変えてゆく、カメレオンのようであった。

「本当に可愛いわぁ。でもね、オグディア……大丈夫」
「と、言いますと?」

「オニキスはわたくしが特別に調合し作ったあの媚毒を口にしても、効き目に偏りがあってね。私が側にいることを受け入れはしたし、何をしても文句ひとつ言わない。でもね、私を愛してくれることは……絶対になかった」

 歯をギリギリと言わせ悔しがる彼女を見て異常にも晴れやかな顔で、カオメドは優しい声をかける。
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