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170.抑圧
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ジャニスティは自分では理解できない心情、無意識に溢れ出てきた突然の涙に戸惑いそして、悲しくも苦しくもない不思議な感覚に陥る。ハッと我に返り周囲の現状況は何も変わりないと確認すると瞬時に、心を鎮めた。
「ふぅ」
――しっかりしろ。集中力を切らすな!
彼の心と頭の中がいつもの冷静さを取り戻すと自身の精神を、鼓舞する。
そして自分の未熟さを、思う。
(危うく、魔力を表に出すところだったな)
密会をしているスピナとカオメドには絶対に存在を勘付かれてはいけないとジャニスティは隠れ、その気配を消していなければならなかった。
思わずついた溜息の後に再びジャニスティの耳へ聞こえ始めてきたスピナの声は、嬉々たるものである。彼は視線を彼女たちの会話する大きな木に、戻す。
「あぁ~そうそう、オグディア? あなた、うちの義娘のことはご存知かしら?」
「もちろん、存じ上げておりますとも! ベルメルシア家の大切な血統……あぁっと! 失礼いたしました。御令嬢様ですよねぇ」
その言葉にスピナは持っていた扇をバッサバサと振り始める。満面の笑みで答えたカオメドは再び彼女の手を握るとその甲に自分の唇を、触れさせた。
「んふふ、オグディアはいつだって私を崇めてくれるわねぇ。あなたの言う通り、アメジストの何が大切って『血統』なのよ。あとは何と呼ぼうが、どうなろうが知らない」
冷たい顔で「どうでもよい」とスピナは言い放った。
「ハハハッ! スピナらしいですねぇ。それがまた良い、素敵だ! その君が持つ冷酷な表情がさらに僕の興味を沸かせるんだ……それで? その、アメジスト御嬢様がどうしたというのかな?」
カオメドが持つ顔は一体、いくつあるのだろうか? 瞳は悦びに潤みキラキラと、輝いて見える。彼の好奇心程度は、並大抵ではないのだ。
(やはりこの男、妙な奴だ)
遠くで監視するジャニスティですら分かる、カオメドの異常さ。口調はころころと変わり動きもおかしいと、不審に思う。
「嫌でも義娘だけが、このベルメルシア家の血を引き――魔力を継承する者でしょうから。だから私は、あの子が赤ん坊の頃から服従するように育て、その継承魔力が開花しないよう抑えてきたわ」
(まさか、お嬢様の事まで!?)
「この女!」
スピナの勝手な言動にジャニスティの怒りは頂点その手に、握り締められた――その時!
「奥様」
(――っ?!)
どこからともなく聞こえてきた声にジャニスティは、息を呑んだ。
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