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213.混乱
しおりを挟む「あの、先生」
アメジストはボソッと小さな声で、呟く。
「はい」
先生は静かに、優しく包み込むような返事で彼女の次の言葉を待つ。
しかし今、アメジストの心情は少し混乱していた。
◆
どんなに仕事が忙しくとも愛娘アメジストを大切にし一緒にいる時間を作ってくれていた父オニキスが聞かせてきた、実母ベリルの生前の姿。それは美しい笑顔で映った母の写真と、それを愛おしく見つめる父が幸せそうに語る愛の言葉によって作られた、幻の思い出である。
その時間はまるでアメジスト自身、家族三人で一緒に笑い過ごしているかのように感じ、母ベリルの幻を見ている気持ちだった。
(なんて素敵なのかしら。いつか私も、ベリルお母様のように――)
憧れの存在である今は亡き母に「いつかどこかで逢いたい」と、願う彼女。しかしもちろんそれは、叶わぬ想いだ。見えない心のキャンバスに、父から聞く話だけで想像して作った家族三人の思い出を、アメジストは描き続けてきた。
しかしその世界で作り上げた心のアルバムを、どんなにめくっても。
――その中に継母スピナの姿は、ないのだ。
◆
(ルシェソール……お父様から、一度も聞いたことがないわ)
耳にしたことがなかった、継母の名。
隠されていたのか、はたまた父オニキスが母の学生時代を知らないだけなのか。それとも、他に何か理由があったのか? アメジストの中に生まれた「何故」の言葉。いくつもの疑問ばかりが頭の中をグルグルと、回る。
そして何より、衝撃を受けたのは――。
「私の……“二人の母”は、この学校で知り合いだったのでしょうか?」
「そうね。二人はとても仲の良い友人同士で……まるで本当の姉妹のようだと、学内では有名だったわ」
「……姉妹、ですか?」
「えぇ、スピナさんの方が歳が上だったから。ベリルさんは彼女の事を『お姉様』と呼び、それに嬉しそうに応え可愛がっていた姿が印象に残っています」
アメジストはそれを聞き、ますます複雑な心境になる。
自分が生まれ十六年経った今もなお、心を通わせることが出来ない継母スピナがまさか学生時代は実母ベリルと友人関係にあり、その上「姉妹」と言われるほどに仲が良かったというのは、一驚を喫する話であった。
「父からはよく、ベリルお母様の思い出を聞いて、教えてもらっていますが……スピナお継母様の事は、何も聞いたことがありませんでした」
沈んでいく表情。
その時、窓から吹いた風にアメジストの髪はさらりと、靡いた。
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