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274.代役
しおりを挟む『で、でしたら! 私が貴方の代わりに護れば……そ、そうだわ! フォル様は、ベリルを目覚めさせる力が私にはないと仰りたいのかしらね!?』
スピナは『心外だわ!』と声をさらに大きくし怒鳴った。そのような状況にも全く動じる事はないフォルは冷静に、諭すように彼女に声をかける。
『スピナ様、落ち着いて下さい。何も貴女様だからそう言っているという訳ではありません』
『じゃあ、何?』
『はい、失礼を承知で申し上げますが。先程のお話で、ベリル御嬢様は命の灯火が尽きる寸前に、ご自身で治癒魔法を施したということ』
『そ、そうよ……だから! 何だっていうの!?』
『はい、それが間違いなく本当だとすれば……正直なところ、今此処に、この街のどこを捜したとしても。ベリル様を超える、もしくは同格の能力を持ち目覚めさせられるような魔法の使い手は――――いないでしょう』
『クッ……ゎ、分かったわよッ――! もう勝手にしてちょうだい!! でもね、これだけは言っておくわ! そんな魔法の使い手、どこ捜したっているはずがないじゃない?!』
『えぇ、ですからそう、申し上げております』
冷静沈着なフォルとは言い合いにもならないスピナはよほど悔しかったのか? この時、顔を真っ赤にしていたという。
ふとオニキスは何か違和感を感じたというが、当時は心痛のあまり深く物事を考えられない。そんな心の中は――ベリルがいつか目を覚ましてくれるのであればそれだけで良いと、願うばかりであった。
『いいわ、分かった。但し絶対に! 他の者へは知られないようにしてくれる? 使用人に変な期待や希望なんて、持たせたくないでしょう? ベリルの目が覚めるまで“あの子は死んだ”事にする』
『……そうだな』
力なく答えたオニキスに『あぁ、それから』とスピナが発した言葉。
『今後は私が、このベルメルシア家の奥様代役として側にいて差し上げますわ』
『何を言っている!?』
『そうそう旦那様。私は、死にかけて眠る間際のベリルに頼まれましたのよ? 貴方の事も、そして――生まれた赤ん坊も、ね』
『……そう、か』
(反論が出来ない)
◆
「今思えば、おかしな十数年間だったのだ」
半ば強引にベルメルシア家へと入り込んだ、スピナ。それからは恐怖心によるお手伝いたちへの支配で自身の居場所と権力を、確立していったのだ。
しかしなぜ彼は、この身勝手な行動を厳しく叱れなかったのか?
それはこの日から彼の身に起きていた、おかしな症状にあった。
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