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300.幻影
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ノワは普段から“感情を持たない人形”のように振る舞う。周囲との距離は適切に保ち目立たないように過ごすのだ。そんな彼女の言動にこの日、不思議な違和感と関心(警戒心)を持ち追いかけ呼び止めた人物は、ジャニスティである。
余裕ある立ち振る舞いに無表情なノワの姿から得も言われぬ何かを感じ取った彼は良くも悪くもその正体を暴こうと、疑問を投げかけた。
まるで詰問しているかのような、強い口調になりながら――。
だがもちろん彼自身に彼女を責めているという意識はない。
鋭く光る天色の厳しい目で見つめるジャニスティの峻厳な態度は『何としても真実が知りたい』との思いがひしひしと、感じられた。
そして二人の視線が重なった瞬間――時が流れていないと錯覚する程に張り詰めた空気。“無”の気を彼が感じ取るのと同時に彼女の顔は血色を帯び微かに、動く。
しかし瞬きひとつでノワは変化する。
硝子の瞳を持つ美しい人形のようにまた、戻るのだ。
そのジャニスティの問い掛けに一つ溜息をついたノワの本心はどのような思いを、抱えていたのか? ただ全く感情を持たない声色と微動だにしない表情のまま、答えた。
驚くべきはその時、ノワがジャニスティの視界に映し出した“白黒の世界”である。光景は違うがその力がレヴシャルメ種族であるクォーツの『夢想』魔法に――アメジストとジャニスティにだけ魅せた“真っ白な世界”と同等の魔力が、感じられたのだ。
自身の秘密を話した彼女はその一瞬だけフゥッと、箍が外れたように“生命力”を溢れさせる。
それはスピナの密会現場で彼が感じたあの淋しい水音と、一本だけピンーッと張った糸ように緊張感のある空気とは、まるで別者。
清々しいそよ風が優しく頬に触れるような感覚とひんやり冷たく澄んだ空気、川の穏やかな流れは幻が見せた美しき影像だ。
しかしふと気付けば彼の前に現れたはずの景色はまるで蜃気楼のように、消え去っていた。
◆
「種族違いの結婚。この辺りの地域では珍しい話のようです」
そうノワは話すと通路にある大きな窓から射す光に目を細め、月を眺める。
「この街に来てまだ十年程だが。思えばそうかもしれない」
十年前、ベルメルシア家当主オニキスに“終幕村”で声をかけられ、いわば助けられたジャニスティはまだこの“街”での生活は、日が浅い。
それでもノワの言う『この辺りの地域では』との言葉が何を指しているのか? 彼にはその意味が何となく、理解出来ていた。
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