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327.追想
しおりを挟む「この地下空間では無礼講、種族も地位も関係ない。何も気にせずに、皆が笑い合える――腹を割って話せる場所だ。そんな思いを込めて私は、この酒場を造ったのだからね」
「――ッ!?」
今の一言にジャニスティは自身の耳を疑い驚きの表情でオニキスの顔を、見つめる。その反応に気付いたエデは柔らかな笑みを浮かべ彼のグラスに冷水を注ぎながら、尋ねた。
「はて? どうかしましたかな、坊ちゃま」
「あ、いや……その、え? 今『この酒場を造った』……と言ったような」
「おやおや、ベルさん。坊ちゃまには話されていなかったのですか?」
「ん? そう、話していなかったか……」
どうやらそのようだと頭の後ろに手を回し、微笑。
「……ベルさん。無理もありませぬ」
エデの言葉に軽く首を振るとオニキスは「ジャニー、聞いてくれるかい?」と穏やかな声色でジャニスティへと、話し始めた。
「そう――元々この店は、私とアメジストの母であるベリルが思い描いた未来……その第一歩として作り上げた場所でね。妻ベリルと一緒に構想を練り、最終的にはエデの力を借りて実現させた夢の世界。そうだな、此処は“仲間たちの集う家”。とでも言っておこう」
ベリルとの記憶を辿りながら丁寧に語るオニキスは目を細めると、小さな世界だがねと微笑む。その先に彼が視たものはあの頃に笑い合った時間。彼女との幸せな光景がうっすら、蘇るようであった。
「そう、だったのですか。この酒場が造られたいきさつなど、気にも留めていなかった。てっきり、エデの店だとばかり」
(此処が、亡き奥様と叶えた“夢”の場所)
――大切な思い出、なのだろうな。
(そういえば、初めて旦那様に声をかけられた日。此処へ連れて来られたあの夜に、このテーブルで対面したエデが『この店を任されている者』と、そう言っていたな)
思案するジャニスティ。そこへ変わらず落ち着いた空気感を醸し出すのはエデであった。
「ふふ、何か思い出されましたかな? 坊ちゃまは」
「あぁ……って、エデ。頼むからその坊ちゃまはよしてくれ。旦那様もいらっしゃる前で」
「おいおい。私は構わないさ。むしろ君たちの仲が良い姿を見られて、嬉しいくらいだよ」
「そんな! 旦那様までそのような……はぁ~」
溜息をついたジャニスティを見てクスッと笑うオニキスの表情は少し悪戯っぽく、楽しそうにも見える。
が、それでもやはり考えてしまう。
もしや自分はオニキスへ無理に聞いたのではないだろうか? と。
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